鍵を開けると、家の中は明るく、ああ、やっぱり、と思った。
「恭二!おかえりなさい!」
そう言って現れたピエールが抱きついてくるのも予想通りだった。なぜなら、駐車場にSPさんの車があったからだ。ピエールは俺と付き合い始め、俺が鍵を渡してからはたまにこうして家で待っているようになった。
「ただいま、ピエール。……明日、オフか?」
「うん!」
これも予想通りの答えだった。ピエールは翌日オフの時しか、俺の家を訪れない。さっきの質問には下心しかなかったが、ピエールだってきっと同じだろうと思い、自分の中の恥ずかしさを誤魔化す。
「夕飯は食べたか?」
「うん、ボク、食べた!恭二は?」
と言いながら、ピエールの目線が俺の両手に行く。俺の持ってる袋にも気がついたはずだ。
「買ってきた。これから食べる。」
適当に買ってきた惣菜と炊いてあったご飯という少し味気ない飯ではあったが、ニコニコと今日あったことを話すピエールと一緒なら楽しい食事だった。ただピエールがソワソワしてるのが伝わってきて、こちらも少し緊張してしまう。でも、緊張を上回る程、気分が高揚しているのにも気づいていた。帰宅して、ピエールと顔を合わせてから、ずっと。
「ごちそうさまでした」
誰に言うでもなく、癖で言った。すると、ピエールが机を挟んだ俺の向かいから隣に移動してきた。ぴた、と腕を絡ませてくる。
「ピエール、皿を洗うから……」
「ボク、洗う!」
「いい。自分で食った分は自分で洗う」
そんなやりとりをしながら、食器を持ったまま台所へ向かう。
「……恭二、嬉しいこと、ある?」
不思議そうに聞くピエールの言葉は思ってもみなかったことで首を傾げる。
「なんでだ?」
「そう見えたから!」
隠してたつもりだったが、きっと隠しきれていなかった。顔が少し熱をもつ。ピエールは答えを待っているのだろう。じっと俺を見る。観念して口を開いた。
「……同棲みたいでいいな、と思って」
「ドウセイ?」
「……一緒に暮らす、ってことだ」
100パーセント正確な意味ではないが、まあいいだろう。ピエールはちょっと考え込んでたが、パッと顔を上げた。
「ご飯する?お風呂する?それとも、ボク?」
合ってる?と笑いかけられ、どこで覚えたんだ、と思って渋い顔になる。食器をシンクに置けば、空いた手が握られ、指が絡まる。
「……どれ?」
さっきのは本当に質問だったらしい。そして、誤魔化されてくれる気もないらしい。
「飯はもう食っただろ……風呂入ってくる」
「えっ……ボク、恭二がいい」
俺の返事に不満そうにそんなことを言うものだから、笑ってしまった。ピエールの頬が膨らむ。悪い、と笑ったことを謝るが、ピエールの頬はそのままだ。でも、実際に怒っているわけではなく、フリなのもわかっていた。
「じゃあ、一緒にお風呂、入ろ」
繋いだ手が握られ、上目遣いでそう言われたら、狭いから、と断ることも封じられたようなものだった。