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    r_i_wri

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    r_i_wri

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    🤡司に懐かれる類のお話。
    後で最終推敲して支部に上げますが、大体できたので……。

    「類~っ!」
     大きな声が響く。何やら既視感を覚えるような、やっぱり知らないような。そんな声の正体に思い至る前に、すぐ隣を歩いていたはずの類が、うぶ、と妙な声を上げて視界から失せた。
    「る、類?!」
     慌てて見渡すが、いつも通り楽し気な音楽を奏でるカラフルなセカイが広がるだけで、類はいない。
     何でだ、どこに行った?!
     慌てふためく司だったが、その耳になにやらくぐもった声が届く。
    「んぐ……づ、かさくん……こっち、下……」
     その声につられて足元に目を向ければ、言葉通りべちゃりと地面に転がる類と……類を押し倒すように抱き着き笑う、司にそっくりな男がいた。
    「な、な……」
     あまりにも理解しがたい光景に、司ははくはくと口を震わせる。そして。
    「なんだお前は~っ!!!!!!」
     その声はセカイの隅で昼寝をしていたルカにまで届いたらしい。

    ***

    「ツカサくん、急に飛びついたら危ないっていつも言っているだろう?」
    「すまん、類に会うのも久しぶりだったから嬉しくなってしまってな!」
    「もう……というか、きみがこっちにいるのも珍しいね。いつもあのテントにいるのに」
     和気藹々と話す二人を、司は胡乱な目つきでじとりと眺める。
     黒と深い青を基調とした衣装。道化師のような風貌のツカサと呼ばれる男は、司にそっくりの顔で、司にそっくりの姿で、これでもかというほどに類に甘え懐いていた。
     どうやらそいつと以前から知った仲らしい類も、何故だか気にする様子もなく、膝の上に座る奴と普通に話している。
    (いや、おかしいだろう?! なんだその距離感!!)
     物理的に衝撃の大きい出会いから数分、既に突っ込みどころが多すぎる。
    (お前は! 何故類に抱き着いている!! 類も何で受け入れているんだ……っあ、今、頭撫でられ……っ?!)
     オレも、撫でてもらったことなんてないのに!!
     漏れそうになった声を慌てて喉奥に飲み込んで、また一人グルグルと百面相を始めた司を気にする様子もなく、ツカサは不意に立ち上がる。
    「そう、そうなんだ類! 以前から練習していたものが、やっとできるようになってな。お前に早く見せたくて、ここまで来たんだ」
     そう言うが早いか、類が何か応える前にツカサはその膝から降り立ち上がれば、ふぅ、と一つ息を吐く。
     途端、ひたりと空気が変わった。
     すらりと伸ばされた背筋。伏せられた視線。衣のように自然に美しさと妖しさを纏う彼は、先ほどまで犬のように甘えていた姿など微塵も感じさせない。その十の指には、銀の指輪が鈍く光った。
    「これ、は」
    「司くん」
     思わず息を飲んだ司に、振り返った類が、しぃ、と人差し指を立てて小さく囁く。
     面白いものが、見られるよ。

    「……さあさ皆さまお立合い。我ら一座の夢遊び。言の葉などでは語れぬセカイ、心ゆくまでご覧あれ」

    【Showtime!】

    ***

    「類、類、どうだった? ずっとうまくいかなかった、ラストの全員で一気に交差するところ! ぬいぐるみたちとたくさん相談して、練習したんだ!」
     ツカサの口上と共にどこからか現れた九体のぬいぐるみ。それはこのセカイでは珍しく自ら動き、喋るものではないらしい。出番を終えた今は、くったりと彼の腕の中や足元で力を失くして伏している。
     しかし。
    (すご、い)
     たった十の指で操るぬいぐるみたちは、あまりにも『生きて』いた。確かに彼らは歌い、踊り、笑い、司たちを彼らのセカイに引き込んだ。ツカサが吹き込む命が、確かにそこにあった。
    (すごい……すごい、すごいすごいっ!)
     頬が紅潮していく。興奮が身体を駆け巡る。体温がぐんぐん上がって、抑えきれない想いが、感情が、制御できなくなりそうだ。
     だから、いつものように、キラキラと瞳を輝かせて同じ温度でこちらを見ているであろう類に、視線を向ける。
     なあ類、今のって。

    「うん、とても滑らかで美しかったよ。あんなに苦戦していたのに、流石ツカサくんだね」
     しかし、視線の先に捉えたのは類の瞳ではなく、その広い背だった。
    (……また、だ)
     ほんの少し、体温が下がる感覚。
     嬉しそうに笑う道化師は、ぐりぐりとその頭を類の肩に押し付けて、褒めて褒めてと言うように笑っている。類はそれに応えるように優しく頭を撫でてやりながら、たった今目の前で行われたショーについて、感想や反省点をつらつらと語る。
     しかし、そんな類の声も、司の耳には入らない。
    (やはり、近すぎやしないか? あいつは何故あんなに類に引っ付いているんだ。類も類だ、ああも甘やかして……)
     もやもや、もやもや。
    引っ込んでしまった興奮の代わりに、おかしな感情が首をもたげてくる。なんで、なんで。
     オレだって、類に触れたい。

     パチリと、類の肩越しにツカサと目があう。む、と眉を顰める司を見つめて一つ瞬きをすれば、類に抱き着く腕を強め、彼はにぃ、と目を細めて笑った。

     そうか。お前、わざとだな?

    「ええい、離れろーっ!!!!」
     二人に駆け寄り、その肩を掴んで無理やり引きはがした。その勢いに驚いたらしい類は目をぱちくりとさせていたが、ツカサはけらけらと楽し気に笑っている。
    「なんだ、急に。羨ましくなったのか?」
    「う、うら、羨ましくなどっ……というか類! お前も何されるがままになっている、少しは抵抗せんか!」
    「えっ?! あ、ああ、ごめんよ、いつもああだったからなんだか慣れてしまって」
    「いつもだと~っ?!」
     火に油を注いでいく類と、顔を真っ赤にさせて怒る司。それを楽しそうに眺めながらも、ツカサは類の膝にまた戻ってくる。
    「お前、だから近すぎると言っているだろう! 降りろ!」
    「類もさっき言っていただろう、オレはいつもこうだ。類に許されているんだから、お前に口を出されるいわれはないな」
    「ちょ、ツカサくん、言い方が……」
    「ええいうるさい! そもそも司、司と同じように呼ぶんじゃない、紛らわしい!」
    「僕が怒られるのかいこの流れ?!」
     もはや半分パニックの司は、八つ当たり気味に類に食って掛かる。だって、類の右腕は膝の上で満足げに笑う道化師を抱きしめるように回されていて。無意識であろうその仕草に『慣れてしまう』ほどそうして二人で過ごしていた事実を突きつけられる。
     なんで、なんで、なんで!そいつもオレと同じ顔なのに、同じ声なのに!オレでいいじゃないか!!
    「いや、一応呼び分けてはいるのだけど……」
    「どこがだ?!」
     ぎゃんっ、と吠える司に臆することもなく、類は頬をかきながらぼそりと呟く。
    「きみは司くん。彼はツカサくん。彼は、片仮名で呼んでいるんだよ」
    「わ、わかるかぁっ!!」
     そんな感覚だけで人の名前を呼ばないでほしい。わかるかそんなもの。
    「はっ、お前は類が呼んだのがどっちなのかもわからないのか? オレはわかるがな」
    「なっ……?!」
     ふす、と勝ち誇ったように司を見上げるツカサは、その口の端に余裕を漂わせて笑っている。
    「う、ぐ……」
    「つ、司くん……?」
     急に俯いて呻きだした司を、心配そうに覗き込む類。その瞳と目が合わないうちに、司はバッと顔を上げた。
    「くそ、今はその場所を譲ってやる!だが見てろ、すぐにオレが類の一番になってやるからな!!絶対に!オレを!選ばせてみせるからな~っ!!!!」
     キーン、と類とツカサの耳を劈く声。ぐわんぐわん、と脳を揺さぶられる感覚から立ち直った頃には、司の背中は遥か遠く、米粒サイズになっていた。
    「追わないのか?」
    「退く気もないのに、よく言うよ」
     相変わらず大きな猫のように類の膝の上に鎮座するツカサは、口を開けて笑った。
    「ははっ、それはそうだな!」
     そうしてペタリと類に引っ付けば、機嫌よく目を閉じる。
    「なあ類、お前、わかってるんだろう?」
    「……いや、うん、えっと……やっぱり、そういうことなのかい?」
    「なんだ、歯切れが悪いな」
     よしよし、とツカサを撫でる手は、セカイのぬいぐるみたちを撫でる手つきと同じで。
     きっと、ツカサと同じ顔をした彼が同じようにその膝の上に乗ってきたら、こうも平然となんてしていられないだろう。
     類は、司に恋をしていた。その想いは随分と前に自覚したものの、司に伝えるつもりはなかった。
     仲間、親友、そんな今の立ち位置が心地よくて。壊してしまう勇気なんてなかった。だというのに。
    「その……司くんって、やっぱり僕のこと、好きなの?」
     そう、ここしばらく、肝心の司の態度がおかしいのである。
     台本について話そうと隣に座れば、びゃっと飛び上がって声が裏返る。
     顔についた汚れを拭ってやれば、真っ赤になって持っていたペットボトルを引っ繰り返す。
     かと思えば類が会話に興が乗ったクラスメイトに肩を組まれれば、いつの間にか隣に来ていた司がさらりとその腕を外してしれっと類の横を陣取るのだ。
     そうして極めつけに、さっきの捨て台詞。
    「お前なぁ……」
     まだ確信を持てない様子の類に呆れた声を出すツカサ。しかし、類にだって言い分がある。
    「だって、司くん、僕のこと好きだって自覚してないだろう?」
     そう、そうなのだ。こうもわかりやすく、類本人にすらバレバレの態度を取っているというのに、司には類に恋をしている自覚がないらしい。隠し方が下手なだけならまだましだったかもしれないが、まったく気が付いていないのである。
     司の様子がおかしくなり始めたあたりに、類は「最近どうしたんだい、どうにも落ち着かないようだけれど」とカマをかけてみたのだ。そこで顔を赤くでもしてくれれば、そのまま押していたかもしれないけれど。
    「うん? ああ、なんだかお前といると、しょっちゅうそわそわとした気分になってな! なんだか胸元のあたりがざわついて、たまに心拍数もおかしくなるんだ。数か月前からなんだが……なんでなんだろうな、わかるか?」
     なんて、逆に真っすぐな目で聞き返されてしまったのだから目も当てられない。
     それ、明らかに恋だよ。きみだっていろんなショーや映画で見たことあるだろう?なんでわからないのさ。
     そうなってくれば、もはや『類に恋をする』なんて、司にとってありえないことなのでは?だから思い浮かびもしないのでは?とネガティブな声が脳内でグルグルと回り始めてしまって。結論なんて出せないまま、今に至る。
    「あー……」
     ツカサも類の言いたいことが分かったのか、普段は楽し気に釣り上げている口元を緩めて苦笑する。やはり、類の考えすぎではなかったらしい。
    「類が、というより、自分と『恋』という言葉が結びついていないんだろうな。はは、ショー馬鹿ここに極まれり、だな」
     類の膝の上から降りて、二股にわかれた柔らかな帽子を脱ぐ。そうして類の膝に頭を乗せて、一つ伸びをした。
    「お昼寝かい?」
    「ああ、類に撫でてもらいながら眠ると、いい夢が見られるんだ」
    「しれっとおねだりも混ぜてきたね……かまわないけれど」
     目を閉じて満足げに笑うツカサの髪をそっと撫でる。柔らかい。司の髪も、こんな風に柔らかくてふわふわなのだろうか。
     ふわふわ、もちもち。
     触れられない想い人を浮かべながら自身を撫でる手に、ツカサは特に文句を言うこともない。類の手は優しくて好きだった。司が自覚するまでの間くらい、独り占めさせてもらおう。



     紫のハート形をした雲がポコポコと生まれて、しゃらしゃらとそこらじゅうで柔らかな光が舞って。
     そんな中、顔どころか首も身体も真っ赤に染めた司が「類~っ!!!!」とでっかいデシベルを響かせながら駆けてくるのは、三十分後のお話。

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