声が出なくなった天馬司(声が……出ない)
最初、異和感に気づいたのは1年ほど前だった。
ショーの練習を始める前、発声練習をした際少し声が出しずらかった。
きっと声の出しすぎだろうと思いとその場しのぎで喉飴を口に含んだ。
が、中々収まらず寧ろ日に日に声がかすれていっているような気がした。
念の為かかりつけの耳鼻科に言って軽く見てもらったが
「喉風邪でしょう。薬を出しておきますので様子を見てください」で終わりそれ以来薬を服用しながら普通にショーをしていた。
が、どうやらそれが駄目だったらしい。
「つ、司くん?!どうしたの?!」
パクパクと口を動かすしかできない。いつもならうるさいと言われるほどの声が出るその白くて太い首元に何かが突っかかる様で思ったように声が出ない。
混乱し頭が回らない状態で魚のような口の動きをしていた所をえむが気づいてくれた。
「司くんどうしたの?!しんどいの?!」
「.....................」
「声が出ない……の?ちょっとまっててみんなを呼んでくるから!」
(すまん……申し訳ない)
そう思っても伝えられないのがとても辛かった。
ーー
「司、声が出ないって本当なの?!」
寧々と類が血相を変えてこっちに走ってきた。
こくり、こくりと頷くことしか出来ない無力さに胸が苦しい。
「寧々、彼を急かしてはダメだ。司くん、声が出ないのならこれを使ってコミュニケーションを取れないかい?」
そういい類がオレに差し出したのは顔と同じくらいの大きさのホワイトボードと黒のペン。きっと類は筆談を使ってオレと話をしようとしてくれているのだろう。
相変わらずの優しさに胸がぎゅっと引き締められる。本当にいい仲間を持ったな、と涙が出るほどだ。
渡されたホワイトボードとペンを持ちスラスラと文字を書いていく。いつもは元気いっぱいの字だが今はそんな気分では無いからか少し力のない字にはなってしまったがあいつらならきっと読んでくれるだろう。
『申し訳ないな。実は1年前くらいから声が出にくいなとは思っていたんだが』
「そう……だったの?私全然気づいてあげられなかった……」
「じゃあ司くんはずっと無理して……?!ごめん司くんあたし何もしてあげられなかった……から」
急に下を向き、そう2人が呟く。元は自分が無理をして、仲間を頼らなかったから。オレが悪いのに。
『そんなこと言わないでくれ!お前達は何も悪くない』
「司……くん」
4つの影が黒く、長くなっていく。ホワイトボードの水滴の数が増えていく。
ダメだ、声が出せないなら大好きなショーも……
「取り敢えず今日の練習は中止にしよう。僕は先に司くんを連れて病院に行くから寧々とえむくんは司くんのご両親と着ぐるみさん達に事情を説明してくれないかい?」
「わかった」「わかった!」
そう言うと2人は背中を見せ走り去って言った。
「さぁ、司くん立てるかい?」
そう言われ頷く。声が出ないだけで他の部分は度が過ぎる位元気一杯だ。
其の儘類について行った。