こんな猛暑日には、涼しくカフェデートと洒落込むに限る。
軽快なボサノヴァ、ジャングルのように鬱蒼と茂るたくさんの観葉植物、アンティークな意匠が施されたカップアンドソーサー……どれも光のお気に入りであった。自分好みにあつらえたようなこの空間に、謙也の姿はどうにも馴染まないところも面白かった。
お待たせしました、と運ばれてきたレモネードは綺麗にカットされたグラスに注がれていて、窓からの光を受けながらきらきら輝いている。珍しくふたりでお揃いのメニューを頼んでいることにわずかながら照れが生じたが、向かいの謙也が早速ストローに口を付けたのを見てどうでも良くなった。
その店は道路に面しており、重厚な縁取りの窓から行き交う人や車が見える。
ふたり窓の外を眺めてしばらくすると、赤い派手なオープンカーが横切った。謙也が声を弾ませる。
「おっ、カッコええなあの車」
「ええ、そっすか? 派手すぎちゃいます?」
「真っ赤なオープンカーええやん、ええな、俺も免許取ろかな」
「謙也さんが免許? 絶対やめといた方がええと思いますけど」
「なんでやねん」
「真っ先に速度違反で捕まる未来が見えますわ」
「いやなんでやねん! スピードスターかて道路交通法くらい守るわ!」
「当たり前のことを偉そうに言わんでください」
「せやけど財前と一緒にドライブしたいやん。好きな曲かけながらオープンカーで海沿いなんか走ったら楽しいやろな」
ストローで底に沈むレモンの果肉をつつきながら、確かに悪くないと思った。青空のもと風を受けて光る金髪と精悍な横顔、悔しいけれど見惚れない自信がない。知らない道を二人きりでどこまでも行くのも良いかもしれない。
「謙也さんはどこか行ってみたい所って、あります?」
「俺の行きたい所? んー、グアヤキルはいつか行ってみたいけどな。イグアナがぎょうさんいてん。財前は?」
「ブラーノ島とか行ってみたいすかね。イタリアの」
「ブラーノ島……」
聞き慣れない地名をポケットにしまっていたスマホで検索し、謙也は「おお」と喜色を表した。
「めっちゃええなここ! なんやカラフルで」
「カラフルさを謙也さんに指摘されると微妙な気がしてきましたわ」
そう言いながらも光は色とりどりの街並みを歩く謙也の姿を空想していた。きっと彼の装いの激しい色彩は、鮮やかに塗られた家々の彩りにも負けないのだろう。想像するだけで可笑しく愉快な気持ちになり、思わず顔がほころぶ。
「いつか一緒に行こな。行きたい所全部行って、やりたいこと全部やろう」
謙也のまなざしが夏の太陽みたいに眩しい。
未来が無限に開けていて、みずみずしい希望に胸が膨らむ。たとえ叶わぬことがあったとしても、この人と一緒にいたいと思った。
グラスが空になるまで、もう少しとりとめのない話をしていこう。これもまた、やりたいことのひとつだから。