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    highdoro_foo

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    ワードパレットでお題「煽るだけ 素直 うそつき」
    高校生の謙光。続くかもしれない。🏩は18歳をすぎてから。

     甘酸っぱく不器用な告白を経て、所謂お付き合いというものを始めた二人は大阪じゅうを駆け巡っていた。
     水族館のジンベエザメ、堀江のカフェで食べたガレット、日本一高いビルから見下ろす満点の夜景。そのどれもに心を躍らせはしゃぐ謙也の横で光はそのどれもに「まあまあ、ええんやないですか」とつぶやいた。
    「素直やないなあ。普通にすごいとか美味いとか言えばええやん」
    「言葉にすると感動が薄れるやないですか」
    「そういうもんか? まあ、感動しとるならええけど」
     付き合いたてのきらきらした思い出は二人をより一層強く結びつける。二人とも口に出しては言わないが、明日が待ち遠しくて仕方なかったし、あさって起こるであろう出来事はもっと眩しく輝いて見えた。季節が巡って夏になったら何をしよう。そんなことばかりを考えていた。

     四天宝寺中を出て学び舎を違えた二人、時間と都合が許せば放課後に会って近況をとりとめもなく話した。互いが互いの預かり知らぬところで何かをしているというのは不思議な感覚だった。医大受験コースを歩む謙也の学業はかなりハードであること、光が進学した高校は四天宝寺中に負けず劣らず自由な校風であること、ペットのイグアナや犬の自慢。エトセトラ、エトセトラ。
     今日もいつものカフェで話し込んだ。光が毎回期間限定メニューを頼んではスマホで写真に収めているのを謙也は目を細めて見ている。
    「ちょお、謙也さん映り込んでるんすけど。これブログに上げるんで、彼氏匂わせみたいになって嫌やからどいてくれます」
    「匂わせも何も彼氏……やんか」
    「何自分で言うて照れてんすか」
    「ええやろ別に! せや、ピースしたろ」
     そんなふうに戯れつつも、ほんの一瞬ではあるがこちらを見てくる謙也の眼差しにただならぬ真剣さが含まれているのを光は感じた。まるで虎か何かの猛獣に狙われているような心地になり背筋がぞくりとするが、まばたきをした間にその気配は消え失せていた。
     店を出てしばらく歩いたところで右手をつつかれ、謙也は大袈裟に身体をびくつかせた。光がちら、と一瞥をくれる。
    「まだ人おるけどええん?」
    「謙也さん、ビビッてんすか」
    「ビビッてへんわ、こうすればええんやろ」
     半ば強引に手を取られた。握られた手はしっとりと汗ばんでおり謙也の緊張が伝わってくる。結局、指を絡めるまでもなく分かれ道が来て解散となってしまった。
    「やっぱビビってるやん、うそつき」
     そう吐き捨て、光は路傍の小石を蹴飛ばした。
     中学生だった頃はもっと気兼ねなく触れ合っていたはずなのに、恋人という関係になってから謙也は光の身体に触れることに極めて慎重になっているようだった。
     大切にされていると言えば聞こえはいい。だが光はどうしてもそれが気に食わない。下手な遠慮はむしろ不安を煽るだけだ。それに今日感じた謙也の視線は何より雄弁に彼の奥底で燻る欲望を物語っていたし、光はそれを暴いてしまいたいと思った。

     その日は夕方になっても暖かく、春から初夏へと変わりゆく予感を思わせる。駅前のモニュメントの前に光の姿を見つけ、謙也は駆けていった。
    「遅いっすわ、謙也さん」
    「スマン、時間ジャストやから遅い言わんといて。今日どないする?」
     返事の代わりに指と指とを絡ませた。ぎょ、と謙也の目が見開かれ、顔がみるみる紅潮していくのが面白い。
    「……行きたいとこ、あるんすけど」
     手を引いてすたすた歓楽街の方角へ歩き出す。謙也の手汗はこの前よりもひどい。顔を見なくても、どんな表情をしているかがわかった。
     猥雑な通りを抜け、二人はコンクリート打ちっぱなしの外壁で覆われた建物の前にたどり着いた。一見普通のビルに見えるのだが、すぐそばの看板に休憩3時間の文字を見て謙也は頭を抱えたくなった。
    「ちょ、ほんまに入るん? これって」
    「ええから。行きますよ」
     光の頑なな態度に気圧されて、言われるがまま部屋まで入ってきてしまった。大きなベッドやガラス張りのバスルーム、妖しげな照明が謙也をくらくらさせた。これまた大仰なソファの上で膝を抱えて座り込む。
    「なぁ、マジであかんて。俺らまだ……」
    「まだ、何なんすか?」
     着ていた制服の上着を脱ぎ捨てれば、謙也の喉仏がごくりと動いた。
    「素直やないのは謙也さんの方っすわ。普通に欲しいとかしたいとか言えばええのに」
     いつか似たような事を言ったな、と思った時にはすでに手遅れで、のしかかられるようにして光に唇を奪われていた。肘置きの部分に頭を押し付けられながら深く口付けられ、はじめて交わす唾液の甘さに理性という名の防壁ががらがら音を立てて崩れていく。もう後には退けない。謙也は覚悟した。
     宙を掻いていた手を覆い被さってくる光の背に回すと、潰してしまいそうなくらい強く抱きしめた。苦しげな息が鼻から漏れる。なおも口内を散々弄び、やがて間近に顔を見据えて言った。
    「はじめてはもっと大切にしたかったんやけど、しゃあないやんな?」
    「あくまでも俺のせいにするんすね」
    「……わかった、俺の素直な気持ち、聞いて?」
     ぐり、と押し付けられた怒張に光は呼吸を忘れた。謙也の口の動きに全ての感覚を集中させる。
    「毎日毎日思ってた、いつかお前をめちゃめちゃにしてしまいたいって。何度も夢に出るほど思っとったわ。数えきれへんほど抜いた。お前を、光を、抱きたい」
     聞きながら光は全身に甘い痺れが駆け巡るのを抑えられなかった。一度忘れた呼吸はなかなか元通りにならない。胸がいっぱいで何も言えなくなって、引き寄せられるように再びキスをした。己を、自ら罠に掛かりにいく鼠のようだと思いながら。
     ほどなくして、ベッドが軋む。
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