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    sdmahiru

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    2023.8月のインテ無配だった夢の国に行く流三です〜
    令和軸です

     学生時代は、一に部活二に部活。二人で過ごせる時間があっても、結局はストバスコートで気付けば一日過ごしていた、なんてこともざらにあったから、ど定番な「デート」というものは記憶を遡っても思い当たるものがなかった。
     そんな若かりし頃を埋めるがごとく、先日引退を発表し指導者への道を選んだ恋人は、最近ベタなデートスポットへ行きたいというようになった。水族館、映画、ドライブ。どれも学生時代にも、遠距離恋愛時代にも足を向けることはなかったデート先だ。流川は、三井が望むことならなんでもしてやりたいし、なんでも叶えてやりたいと思っている。なのでお互いのオフが重なって、さあ出かけようという際は出来るだけ三井の意見を尊重するようにしているのだが。これは、どうなんだろうか……?

    「なあ、お揃いにする?オマエ女の子の方の耳つけろよ」
    「……なんでっすか」
    「だってオレの方が名前似てるだろ」
    「違う。耳、要りますか」
    「要るだろ」
     はあ、とつい溜息を吐いてしまった。定番デートコースの一通りを制覇した恋人は、今度はテーマパークへと行きたいと言い出したのだ。流川は、人混みが苦手だし並ぶのも好きではない。けれど、愛しい人が行きたいというのなら吝かではなかったから、了承したのだ。しかし、こんな、耳のついた変なものをつけさせられるなんて聞いてなかった。
     テレビや東京駅でこの耳をつけた人たちを見たことはあったので存在は知っていたが、まさか二メートル近い自分がこれをつける日が来るなんて思ってもみなかった、一生無縁だと思っていたそのアイテムだが、しかし三井には、もともと生えていたのかと思えるほどに似合っている。選び終えてしっかりと装着した三井の姿を認めた流川は驚きのあまり目を見開き、可愛すぎる恋人を網膜に焼き付けるためしっかりと見つめた。
    「寿さん、すっげー似合う。オーダーメイドみたい」
    「なんだそれ、耳のオーダーメイドとか意味分かんねえ。楓も似合ってるぞ!」
    「お揃い?」
    「うん、お揃い」
    「じゃあ許す」
     ?と疑問符を飛ばしながらも「おう!」と返事をする三井こそこの園内のどこかしらにいるというプリンセスというやつなのではないだろうか。ポップコーンはやっぱ塩だよな、と言いながら早速ワゴンに並んでいても、流川には誰よりも可愛らしく見えるのだ。

     四十周年記念だというポップコーンバケツを首から下げ、アプリのマップと睨めっこしている姿はとてもアラサーには見えない。流川も『老けない』とよく言われるが、三井も相当なものだ。二人のことを良く知る学生時代の仲間からは、「時の流れが狂ってるカップル」と言われている。喜んでいいのか悪口なのか微妙なラインだが、恋人がいつまでも可愛くて元気ならそれが一番だと流川は思っているので、誉め言葉だと思うことにしていた。
     事前に「アトラクション、何乗りたい?」と聞かれてはいたが、正直そう言われても何があるのかさっぱり知らないし、調べようとも思わなかったので「寿さんにお任せで」と返すと、嬉しそうに胸を叩いて「オレに任せろ!」と頼もしい台詞が返ってきていた。だから今日のコースは三井に全て委ねてある。一体何に乗せられるのだろう、とぼーっとキャストの持つ風船を眺める。色とりどりの揺れるそれを指さす子どもの姿も見える。あれでバスケしたらどうなるんだろう、なんて考えていると、急に右腕を引かれた。
    「人、多いからさ。だれも見てないと、思うし」
     前を向いているせいで表情は見えないが、真っ赤に染まった耳がすべてを物語っている。照れるくらいならやんなきゃいいのになんて思うけれど、それでも手を繋ぎたいと思ってくれるのが嬉しかった。
    「うん、はぐれたら困るしね」
     そう言って、三井の手をぎゅっと握る。こんな言い訳をしないと手すら繋げない初心な恋人がただただ愛しい。

     二人の影ににょきりと生えた耳を見て、ふっと笑みが零れる。青春を取り戻すかのようにはしゃぐ三井の隣に並び手を繋ぎなおすと、唇をツンと尖らせて照れ隠しの言葉を紡ぐから、いつまでも変わらないその癖を確認してはほっとしている。
    「何だよ、急に」
    「その口、やめて。チューしたくなる」
    「は⁉」
    「していい?」
    「な、あ、だ、だめ!帰ってから!」
    「……帰ってからならいいんだ?」
     こうして自分でどんどん墓穴を掘っていくところも相変わらずだ。恐らくアトラクションの中には二人きりで乗ったり暗くなるものがあるだろう。家に帰りつく前に、タイミングを狙ってその迂闊な口を塞いでやろうと不穏なことを考えながら、マップ片手にずんずんと歩く三井の隣を歩くことのできているこの時間を噛み締める。次はどこへ行きたいと言い出すのだろう。一緒ならどこだって、いいのだけれど。
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