第88回お題【におい】　恋人を悩殺する魔法のオイル、夜のリードもこれで万全ムードを演出する香水と晋作のタブレットにはいくつものタブが並んでいる。
　多様性の世の中か彼氏というフレーズではなく、恋人としているがサイト内の仲睦まじいカップルは男女で、レビューもどれも似たような内容ばかりである。
　同年代の女性を悩殺するアイテムはないか、晋作は様々なワードを駆使して調べ上げたが、お手上げだった
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　事の始まりは恋人である、長可とのデートのたびに、姉妹でお出かけなんて仲が良いですねという店員の言葉に晋作がげんなりしたからである。
　晋作にも長可にもきょうだいはいるが二人は恋人同士だ。
　これがまだ晋作が姉として見られたら、ひっそりと「僕の恋人可愛いだろう」と自慢げな顔をさらすが、残念ながら長可との身長差、体格差から晋作が妹としてみられてしまうのだ。
「そんなに僕って子どもっぽいかな」
「気にするな、」
　長可が平均身長を大きく上回るだけで、晋作はけして小さくもない。
　カップの違いはあるが、晋作だって長可と付き合いだしてからは思春期から十数年ぶりにブラのサイズが成長した。
　ファッションの問題か、赤いよりもやや薄い髪に勝ち気な瞳は何を着ても似合うが、晋作はどちらかといえばボーイッシュなスタイルを好む。
　白のタンクトップに赤のパーカー、脚線美を晒すレギンスと脚と変わらない太股を隠すホットパンツ。
　長可とのデートの時はおそろいのアイテム付けようねと、独占欲からあれこれと写真を送りつけて長可に身につけるようにとお願いをする。
　長可も晋作と似たようなファッションで、彼女の場合メリハリのあるボディーラインを披露したくないのかだぼっとしたパーカーやスカジャンが多い。
「んな、薄着じゃ寒いだろう」
　けれど、時折身体の弱い晋作を気遣ってかそれらを羽織らせてくれたりもする。
　打ち上げ花火が終わった後の空気、案外と好みが和風なせいかどこか懐かしさを感じる匂いと混じりあった長可の匂いが晋作は好きだった。
「大事にするからその脱ぎたての服、一枚くれ」
　酔った勢いではなく素面で安定剤だと長可の服に飛びつけば、普段何を考えているのかいまいち読み取れない顔のくせに、明らかに「引いた」と書いてあり、繊細な晋作の心は傷ついたが、どうにかして服を手に入れることは出来た。
　脱線した、とにかく晋作は長可をリードするようなそんな女になりたいのである。
「やあ森君、愛しの恋人が来てやったぞ」
　週末、策を見つけ長可とのお家デートに勇んで乗り込んだ晋作であったが長可からの第一声はといえば
「シャワー浴びてこい」
　その一言である。手順全てすっ飛ばしてベッドとそれも悪くないよねなどと軽口を叩けば、次の瞬間、晋作は浴室に閉じ込められていた。
「あの森君……僕の服は」
「そこに置いてあるだろう」
　大人しくシャワーを浴びた晋作は長可の用意した服に着替え、リビングへ向かう。
　折角今日のために用意したコロンが台無しになり不機嫌なまま、ソファーに座れば長可が満足そうに晋作の髪を拭いていく。
「妙な匂いは取れたな」
「そんなに臭かった？おかしいな……」
　以前に母親から貰ったちょっとお高めのコロンには「侘びている」と反応したから、芳香が嫌いなわけではないはずだ。
　晋作には心地が良いとは言えないが不快にはならず、纏っていても違和感はなかった。
「晋作の匂いが消えちまってる、好きなんだよお前の匂いが」
　スンと鼻を近づけられれば晋作の顔が真っ赤に染まる。
「どんな匂い」
「あとで教えてやるよ」
　その前に俺色に染まれと長可はうんと晋作を甘やかしたのだった