14漆黒短いものまとめ「きらめきからめをはなせない」
水晶公初対面とヒカセン
初めて彼の姿を見たとき、記憶の中の人物と無意識のうちに重ねてしまった。そして、そうであればいいと思いながら投げ掛けた問いに彼はあっさり否と返してきた。そうだろうな、と思いつつもやはり少しだけ残念な気持ちは隠せなかった。彼に『また』あえたらたくさん話したいことがあったのに。
それでもどことなく彼に似た姿の彼──水晶公に親しみを覚えてしまうのは仕方ないだろう。
だからだろうか、彼に名前を呼ばれるのは悪くなかった。そして、彼が向けてくる信頼に少しでも応えたいと思ってしまう。
たとえこの出会いが、いつかくる別れを迎えるための始まりだとしても。
脳裏にちらつく鮮烈な赤と銀が。
緋と金が。
そして未来へ希望を届けるために眠った『彼』の赤を思い出す度にそれもきっと悪くないと思える。
「俺は」
きらめきの中で眠った友を思い浮かべながら自然と口角があがる。
水晶公が例え彼でないとしても、彼に協力したいと思ってしまった時点できっと負けなのだ。
──
愛射れぬ相容れぬ
アゼムとエメトセルク
「本当に、いくのか」
ローブのフードを外したあいつがゆっくり振り返り頷いた。
「『星の意志を創り出す』なんて、わたしには到底賛成できない。……それに、何度議論を重ねたところでわたしは意見を変えるつもりはないよ」
「お前……」
「星のために死ねだなんて、そんなことわたしにはいえない」
「だがもうこれしかないんだ!」
「わかっている。……でもそれだけは賛成できない」
そういって、あいつはわらった。
その笑顔を見たときに改めて確信した。こいつは、もうここには戻ってこないということを。
「わたしは星に住まう人々も救いたい。わたしがであって、はなして、愛しいと思った、そんな人々を死なせたくないんだ」
私には、私にしかできないことがきっとある。
その声はどこまでも穏やかなのに強い決意を秘めていた。
「だから、しばしの別れだ盟友よ。またいつか穏やかな光のもとで語り合おう」
そしてためらいなく背を向けたあいつがあまりに眩しくて、思わず唇を噛んだ。
それだけで理解してしまった。
魂で、これが彼との今生の別れだと理解ってしまったのだ。
「お前が役目を果たして星に還るときは、私が手を引いてやる。……おまえは、すぐどこかにいってしまうからな」
小さくなっていく背中にそう言うとちゃんと聞こえていたのか、あいつは振り返らずひらりと片手を上げることで応えた。その仕草にはどこか見覚えがあってこんな時にも変わらないあいつに思わずため息が漏れた。
じっと彼の背中をみつめる。
目に、脳に、心に彼のエーテルを焼き付けるように。
決して忘れてしまわないように。
数多の魂の中から彼の魂を間違えずに選ぶことができるように。
──
IF
大罪食いになりそうな過程で記憶を取り戻すヒカセンとエメトセルク
あのなりそこないの口からぽろりとこぼれおちた自身の名に動揺してしまった。なぜ、いや、もしかして。思わず目の前の『あいつ』に手を伸ばしかけた。
『お前』はもしかして。
しかしなりそこない『だったもの』は、むしろ強い光を宿した瞳でこちらを見つめ返してきた。それがわずかに拒絶の色を宿していることに気づいて、伸ばしかけていた手をぐっと握りしめた。
忘れられない、記憶の中のあいつと同じ目だ。
「お前……」
「……久し振り、ハーデス」
「ああ、お前はいつも……やめろ、そんな目で私を見るな……」
「、……わたしは昔も、そしてできれば今も、君の友でありたい」
でも、とあいつは私を真っ直ぐ見据えて続ける。
「わたしは──俺は、星を救うためにみんなの命を捨てさせるなんてこと、できない」
───
永遠などないとしっていた
アゼムとエメトセルク
厭だ厭だといいながら、与えられた役目は必ずきっちりと最後までやりとげるひねくれものなのだと知っていた。
彼のそんな様子を小さく笑うと見えない仮面の奥が不機嫌そうな色になったのがなんとなくわかる。それを感じ取ってわたしはまた笑った。そのいつものやりとりがとても愛しかったのはきみには伝えていなかったね。
「これが私なんだ。……お前こそ、私で遊ぶのはほどほどにしないか」
「ふふ、ハーデスはなんでも許してくれるからつい甘えてしまうね」
「……これだから」
そういって肩をすくめてみせながらもその口調は穏やかだ。
座についてからこうして個人として話をする時間は減った。だからだろうか、永い時の流れを一層永く感じている気がする。永遠を生きる私達だからこそ急ぐことはないのに、きみに会えると思うと気が急いてしまう。
そんな些細なことが嬉しくて嬉しくてたまらないんだ。
「ねえ、ハーデス。きみに会わない間にまた新しいイデアを考えたんだ、一番最初にきみがみてくれないだろうか」
「今度は一体何を考えたんだ」
「それはみてからのお楽しみさ」
無意識のうちに声が弾んでしまう。新しいものを想像するのは楽しい。そしてそれについてかけがえのない友と意見を交わすのが楽しい。
きっと彼もそうだろう。その証拠にほら、仮面の奥で小さく笑っている気配がする。
「やれやれ、いいだろうまたお前に付き合ってやるさ」
「そうこなくちゃ」
責任感が強くて、ひねくれていて、それでいて私という友には甘い大切な友人。伝えたいことはたくさんある。けれどそれと同時にわたしたちには時間もたくさんあったのだ。
ずっとこのままでいられたらいいと思っていた。
海の向こうの災厄の話がこの街に届くまでは。