ぎゅっと抱きしめて「せんせ。」
私に言葉をもらえないとわかっている君は切なげな表情で微笑んで、こちらに両手を伸ばす。
「ぎゅっと、抱きしめてください。」
言われるがまま、君を抱きしめる。鼻を掠める汗のにおいと、ふわりと甘く香る香水らしきにおいに胸の奥がじんとする。
「先生、フィグ、さん……フィグさん、すきです。だいすき。」
君の言葉につい口を開きかけて、小さく息を吐くと再び口を結んだ。
ぎゅうぎゅうと苦しいくらい抱きしめてくる目の前の友に小さく苦笑して苦しいと伝える。そうすると少しだけ力が弱まって、二人は至近距離で見つめ合うことになった。眉の下がった君の顔に思わず笑うと、むっとした君がかぷりと私の鼻先を甘噛みした。
突然の刺激にびくりと体が震える。こら、と手で押し退けようとするとその手を取られて今度は指先に口付けられた。
熱を宿したその瞳はずっとこちらを見つめていて、まるで目を逸らすことは許さないと言っているようだった。
「フィグさん。」
言葉よりもよほど雄弁に語るその瞳に、ほとほと困ってしまう。困ってはいるけれど、決して嫌ではない自分にもまた困るな。
そっと顔を近づけてきた君に、この心臓の音が聞こえませんように。
言葉で返せない分は、行動で君に、愛を返そう。