錆びた歯車は動き出す ずっと子供でいたかった。
そんなことを言っても、もう何もかもが遅いよ。
ずっと子供でいたかったな。
ぽつりと再びそうこぼしたいつかの自分を、俺は鼻で笑った。そんなの、ただの現実逃避だよ。それを聞いて恨めし気にこちらをみる前世の大人の自分と、十五歳の今の自分が対峙する。随分とやつれた様子の過去の自分をみて目を細めた。この時の自分は自分の命がすぐに失われることを知らなかった。そして生まれかわることも。
人生二回目なんて経験したくてもできないことだ。かつて社会の歯車の一つとして働いていた自分は錆びていたけれど、今の自分は違う。若くて、他の人にはない不思議な力もあって、大切な守りたい人も出来た。その大切な人を守るために、この世界でいきるためには大人にならなければいけない。子供のままでいることを許してはくれない。
むしろ、早く大人になって彼を守るための力と知恵をつけなければならない。僕の力が足りないからもう一人の大切な友人はこの手をすり抜けてしまった。それもあってなおさら彼──セバスチャンのことを離したくないと思っているのかもしれない。でも、生まれ変わったと分かった時に今世は自分の好きなようにいきるって決めたんだ。だからセバスチャンのことをいつの間にか好きになっていたのも、守りたいと思うようになったのも全部自分の意思だ。
彼に幸せになってほしい。その願いは本物だった。彼の首元で揺れる幸運薬の入ったネックレスを見るたびに、自分の感情の重さを自覚する。彼にあげるためだけに半年鍋に向かい続けていたことを考えると、恥ずかしくなって顔を覆ってしまいたくなるくらいには。
学年が上がって少しずつセバスチャンの笑顔が増えてきたことに少しだけ安堵しつつ、夜はうなされる彼にそっと付き添っている。悪夢をみる彼を揺り起こして、目が覚めて眠れない彼にいつしか前世でみたアニメや漫画の話を寝物語代わりに聞かせるようになっていた。子供じゃあるまいし、と最初こそ聞こうとしなかったけれど次第に興味が湧いてきたのかいつのまにか彼はそわそわしながら話の続きを聞くようになっていた。そこには眠そうにするオミニスの姿もあった。
そんな二人に前世だとまだ高校生くらいだしなあと思いながら、今日も話の続きを話す。
「さて、それじゃあ昨日の続きから話そうか。」
どこまで話したっけと思い出していると、セバスチャンが小さな声で言う。
「……炎の魔獣を倒すところまでだ。」
「そうそう、ありがとう。まだまだ序盤だね。」
魔法がある話は食いつきがいいというか、その技を現実でどう再現しようかなんて話をして今度はそっちで盛り上がってしまって結局朝まで眠れなくなってしまうなんてことも時にはあった。修学旅行の夜みたいにわいわいはしゃぎながら考えるのは楽しくて仕方なかった。三人で新しい呪文を考えるのもおもしろそうだなあなんて夢を見たりして。
早く大人になりたいのに、まだ子どものままでいたいという矛盾した心を抱えながら俺たちは今日も眠る。二人分の寝息を聞きながら、そっと目を閉じた。