寒天に輝いたカシオペヤ座まっくらだ。
前も後ろも自身の体さえも見えない。自分は一体いつからここにいたのだろう。いや本当はわかっている。これは夢だ。
何処にも逃げる場所のない、逃げることを許されないそんな夢だ。多くの仲間も希望もすべて砂都に置いてきた。かろうじて掬えた一握りの温もりだけは離さぬよう必死に逃げて、逃げて。それだけしかできなかった。光の戦士、英雄、そんな大層な肩書きで呼ばれたとしても俺自身にできることはちっぽけだ。
わかっていたはずだ。それなのに英雄だなんて持ち上げられて調子に乗っていたのかもしれない。どれだけ強大な力を相手にすることができても目の前の仲間を守ることすらできなかった。
焔神のときも岩神のときも、俺だけが助かって、そして死んでいった人々が耳許で囁くのだ。
「光の戦士さま」
「こわい」
「英雄殿」
「たすけて」
「振り返るな」
「忘れるな」
「しにたくない」
「生きろ」
「友よ!」
その声が聞こえた途端ぱあっと目の前が明るくなった。
月のない夜にひときわ輝く星のように、彼の存在は力強く美しく俺の心をあたためてくれた。英雄ではなく一人の友として接してくれる彼にどれだけ心が救われただろうか。
今だけは『人』でいていいのだと、そう言われているようだった。
「おはようオルシュファン」
「おはよう友よ!よく眠れただろうか」
わざわざ仕事をしていた手を止めて愛しそうな瞳でこちらをみる騎士。それにどうしようもなく嬉しくなってしまう自分がいる。
ああやっぱり君のそばはとても心地がよくて、でも自分にとってはきみのほうが太陽なんだといっても受け入れてくれないだろうから。
「オルシュファンは」
「ん?」
「……きみは」
「私が?」
「いつもイイ汗をかいていて輝いているよ」
「フフッありがとう友よ!」
嬉しそうに笑うオルシュファンにつられて笑みがこぼれた。
オルシュファンがいたから道に迷わずにいられたなんて照れくさくて言えないけど、騎士として守るべきもののために命を燃やし続ける彼はとても美しい。がむしゃらに走り続けてきた自分に休息を与えてくれた彼は、この極寒の地で時に激しく時に穏やかに燃え続けている。
自分は太陽なんて大層なものではないけれど、彼を守るためならばきっと何でもできる。
そう思いながら美しい輝きを見つめるのだ。