柔らかな寒色「友よ」
「……オルシュファン」
ぼんやりと砦の壁の上に座り、クルザスの雪原を眺めていたら声をかけられた。ゆっくり振り返ると片手をあげたエレゼン族の青年──オルシュファンがいた。近づく彼の銀色の髪が動きに合わせてきらきらと輝く。
隣に来た彼を見上げると目が合う。すると彼は少しだけ肩をすくめて見せた。
「さすがのお前でもずっと外にいれば慣れない寒さで体を壊すぞ」
「……心配してきてくれたの」
「当たり前だろう。お前が体を壊したら心配するものがいる。もちろん、私もな」
そう言って微笑む彼に少しだけ気持ちが持ち上がる。彼の言葉には嘘がない。まっすぐな感情を向けられて嬉しさと同時に、どこか気恥ずかしさもある。
それでも今は彼のその言葉が素直に受け止められた。
「ありがとうオルシュファン」
自然とそう口に出せば、オルシュファンは嬉しそうに笑った。
「うむ、イイ笑顔だ。お前は鍛えぬかれた無駄のない体もイイが、笑顔もすばらしい」
「そんなこというのきみだけだよ」
「皆が言わないだけだろう」
さ、中にはいろう。
促されるままに頷いて、座っていた城壁の上から降りた。彼の隣に並ぶことで自分の2倍、もしくは3倍近くある身長差を改めて実感する。見上げるとちょっと首がいたい。エレゼンの彼とララフェルの自分では見ている世界が異なる。それでも隣に並ぶと安心するのだ。見えている景色は違っても、向いている方向はきっと同じだ。
「お前がよければまた部下たちの訓練に付き合ってやってくれ」
「しばらくはゆっくりさせてもらうつもりだからいつでも声をかけてくれればいいよ」
「そうかそうか、それはイイな!」
「きみもお仕事頑張って」
「ああ、お前がここにいるというだけで活力が湧いてくる。もしもディーターがよければ今夜辺りでもどうだ、わたしの部屋で語らうというのは」
「いいよ、何を聞きたいか考えといて」
そう言うとオルシュファンは目を輝かせ、そのままぐっと両方の拳を握った。
「もちろんだ!ああ、イイな……友と語らう時間のために私も残りの執務を終わらせてしまうことにしよう」
「まだ途中なのかよ……コランティオさんに怒られるぞ」
「はは、今回はそのコランティオに送り出されたのだ。お前と共に戻れば小言をもらうことはないだろう」
オルシュファンのその言葉に思っていたよりも彼の部下に心配をかけてしまっていたことに気づく。いや、きっとここのみんなが自分達を心配してくれている。そのことが嬉しくあると同時にむずがゆくもあった。そんなふうに、心配してもらえることなんてなかったから。
「どうした友よ」
「んーん、イイ友人に巡り会えたなって思っただけ」
「そうか!私もお前という盟友を得ることができてとても嬉しいぞ!」