椅子からこぼれ落ちた金色の尾が、ゆらゆらと不規則に揺れている。その毛先が箒のように床を擦っている様を、トーランドはもどかしい気持ちで眺めていた。
せっかく綺麗に整えられた金の毛束が、このままでは埃まみれになってしまう。すぐにでも手を伸ばして毛先を拾い上げたかったが、今そうするわけにはいかなかった。
今はムリナールがついている席の隣で、小綺麗な服装に身を包み、ただただ会話の脇役に徹することこそが、トーランドに与えられた役目なのだ──
遡ること、約二ヶ月。
ムリナールがトーランドと出会ってからいくらか時は経ち、仲間と共に行動することにも慣れてきた頃の、とある夜のことだ。
特に定めたわけではないものの、何となく拠点のようになっていた森の一角で、彼らはその日も野営をしていた。テントを張り火を焚き、それを囲んで狩ってきたばかりの獲物に食らいつく。ずいぶんと肌に馴染んできたそんな日常を享受しつつ、ハンターたちの会話の中で勃発した些細な口喧嘩の様子を眺めていたムリナールの頭の耳が、不意にぴくりと跳ねて外を向いた。
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