「……おい。何をしている」
「何って、菓子食おうとしてんだよ」
がさごそという雑音と、左肩のベルトと右腰に伝わってくる揺れ。それに乗って右斜め後ろから返ってきた言葉に、ムリナールは小さく溜め息をついた。
「なぜ人の鞄を勝手に開けている、と言っているんだ」
「なぜって、ここに菓子があるからな」
「そんなものを入れた覚えはない」
「そりゃそうだろ、俺が入れたんだもんよ」
「……許可した覚えもない」
「おう、許可も取ってねえからな」
悪びれる様子もない応答にいい加減うんざりして、ムリナールは構わず歩みを早めた。声の主──トーランドはワンテンポ遅れて、慌ててそれに追随する。
「おい待て待て! 怒んなよ、ちゃんと分けてやるから」
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