共寝の翌朝。予定があるから、と早々に起床したムリナールが身なりを整えていく後ろ姿を、トーランドはベッドに寝転がったまま何となく眺めていた。
ムリナールはトーランドの視線など今更気にも留めず、お気に入りらしいロイヤルブルーのシャツを羽織り、上からボタンを留めていく。次にスラックスを手に取り、それに脚を通して引き上げたところで、見ていたトーランドは「おっ」と小さく声を出した。
「……先程から何だ、じろじろと」
ムリナールはトーランドに背を向けたまま、不服そうに言った。もちろんその顔はトーランドからは見えていないが、声色からそれを想像するのはトーランドにとっては容易なことだ。
「ズボンの穴に尻尾通すところ、じっくり見るの初めてだなと思ってよ。俺はいつも脱がすしかしねぇからなあ」
お気楽に笑うトーランドに対し、ムリナールは相変わらず背を向けたままで黙っている。また妙なことを言い出した、と呆れているのか、もしくは──昨夜脱がされた時のことを思い出しているのか。
「ま、気にせず続けてくれや」
トーランドは止めるつもりなど微塵もなく、また観察の構えに戻った。
ムリナールは気が進まない様子だったが、もちろん服を着ないわけにもいかない。ムリナールは少々ぎこちなく手を後ろに回し、尾を根元から持ち上げた。ボリュームのある豊かな毛を途中で纏めて折り返して掴み、それをスラックスの内側から穴に通す。そして、外側から地道にその毛を引き出していく。
一連の工程を、トーランドは感心しながら眺めていた。明らかに根元より太い先の方をどう外に出しているのかと思えば、それはひどく地味な作業の積み重ねで成り立っているのだ。
「上側でボタンか何かで留めるタイプじゃダメなのか?」
トーランドはふと頭に浮かんだ疑問をムリナールの背に投げかけた。ムリナールは少しだけ肩を落とす。
「……尾自体が重いからな」
「なーるほど! ボタンが吹っ飛んで脱げるわけか」
その光景を想像し、トーランドは思わず声を上げて笑った。もし衆人環視でそんなことが起きてしまえば目も当てられない。
「それ、むしろ不意打ちに使えるんじゃねえの? 敵さん絶対二度見するぜ」
「茶化すな」
まだ笑っているトーランドの方を、ようやくムリナールは振り返った。話しているうちにすべて引き出し終えていた尾が、動きに合わせてゆったりと揺れる。
振り返ったムリナールは、言葉に反して少し口角が上がっている。自然な表情を返すムリナールが新鮮で、トーランドは何となく嬉しくなって目を細めた。