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    雑魚田(迫田タト)

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    トーからムリのことを色々教えてもらうモブオペレーター視点の話
    ほんのりトームリ

    【とある駐カジミエーシュ事務所後方勤務オペレーターの私的記録】

     本日は来客があった。近日ロドスと契約を一件交わす予定である民間組織の代表者、トーランド・キャッシュ氏だ。彼があの・・オペレーター、ムリナール氏の友人だということは先輩オペレーターからこっそり聞いていた。
     ムリナール氏といえば、これまたあの・・ニアール氏やブレミシャイン氏の叔父であり、その実力は彼女たちにも一切劣るところがないと聞いている。この事務所で何度か会ったことがあるが、見るからに厳格で、高潔で、騎士の中の騎士という近寄りがたい印象を私は抱いていた。そのため私は、その友人であるトーランド氏もそういった雰囲気の人物だと思っていたのだ。
     しかし、誠に勝手なことながら、実際のトーランド氏の印象は私の想像とは随分かけ離れていた。最初に対応したのは私だったが、名前を伺うまで本人だとは微塵も思わなかった程だ。

     幸いなことに、私は彼と直接話す機会を得た。契約の協議が一段落し、休憩に入った彼にコーヒーをお出しした時のこと。コーヒーを受け取った彼が、自ら私に話しかけてくれたのだ。
    「お、ありがとよ。……その顔、お前さんも俺に〝友人〟のこと聞きたいってクチかい?」
     そんなに顔に出ていただろうか、と私は恥じ入り俯いた。だが彼は別に気を損ねた様子もなく、ただ私が会話を継ぐのを待っているようだった。
    「いいのですか?」
    「どうせ本人には近寄り難くてなかなか聞きたいこと聞けないんだろ? 自分から世間話を始める奴でもねえしなぁ。だから、他からちょいと情報漏らしてやるくらいで丁度いいんだよ、あいつは」
     苦笑しながら頬杖をついたトーランド氏は、こうなることを楽しんでいるように見えた。この時点で、ムリナール氏と非常に仲が良いことはこちらにも十分に伝わってきた。
     それでもやはり、ムリナール氏の印象と目の前の男性の印象がどうにも繋がらない。そう思っていると、トーランド氏にはそれも見透かされていたようだった。
    「意外な取り合わせってんだろ? 分かるぜ。俺だって〝騎士様のご友人〟って聞いてこんなのが登場するとは思わねぇよ」
     そう言って、彼はからからと笑った。それでいくらか緊張が緩んだ私は、お言葉に甘えて色々と話を聞かせてもらうことにした。
     トーランド氏は、ムリナール氏とは若い頃からの付き合いだそうだ。戦場に身を置いていた時期のムリナール氏を知る人物はあまり多くない、と他のオペレーターから聞いていたため、そんな貴重なうちの一人に出会えたことに私は興奮した。
     私は今は内勤のため、ムリナール氏の戦いをまだ生で見たことがない。そのため、彼がどれほど凄い人物と聞いても、自分の経験だけではイメージしきれない──そういったことをトーランド氏に伝えた。するとトーランド氏は、戦場におけるムリナール氏のことについて語ってくれた。
     多少の不利であればたった一人で覆せてしまうほど圧倒的な実力を持つこと。
     光の雨のようなアーツがとても美しく、なのに恐ろしいまでの殲滅力を誇ること。
     判断力に優れていて立てる計画も信用できるが、それが具体的な段階になればなるほどいまいち信用できなくなっていくこと(これはあくまでトーランド氏の言であり、私の意見でないということは強調しておきたい)。
     また、彼の言葉や態度が突き放すようなものに感じられることがあるかもしれないが、それは彼なりの想いがあってやっているということ。
     そして、向けられた敬意や信頼を、彼の側から・・・・・裏切ることは絶対に無いということ──
     それらを語るトーランド氏の表情は、とても穏やかなものだった。見ている私の脳内には、ふと〝愛情〟という単語が浮かんだ。それが彼らの中でどういう形を取っているかは分からないし知るつもりもないが、彼らの間に〝友情〟よりももっと深い、心からの信頼と理解に基づく絆があることは確かだと思った。
    「──とまあ、こんなもんかな。あいつは自分から進んでお喋りするタイプでこそないが、決して人が嫌いなわけじゃない。話しかけて邪険にされることはまず無いはずだぜ。だから、聞きたいことがあったら直接聞いてみりゃいい。答えられる範囲できっと真面目に答えてくれるさ。……個人的なことになるとだいぶその範囲は狭まるが……ま、少なくとも質問しただけで怒るような高慢な奴じゃない。そこは俺が保証しよう」
     そこまで話を伺ったところで休憩が終わりに近付き、契約の協議が再開されることになった。貴重な時間をいただいたことに感謝を述べると、彼は最後に少しだけ付け足した。
    「扱いづらい奴だろうが、まあ、悪く思わないでやってくれ。今のところ本人もなかなか楽しそうにやってるんでな」
    「楽しそう、ですか?」
     意外な言葉に、私はつい聞き返してしまった。私の目にはとてもそうは見えなかったからだ。しかし、この人が言うのであればそれはきっと間違いないのだろうと思った。
    「ああ。本人が気付いてるかどうかは知らねぇけどな。少なくとも、ここに籍を置く前よりはよっぽど生き生きしてる。だから、俺は正直あんたらにこっそり感謝してんだよ」
     そう言ったトーランド氏は、少しはにかんだように笑っていた。
     私はいつの間にか空になっていたコーヒーのカップを受け取り、改めて謝意を伝えてからその場を後にした。トーランド氏は、ひらひらと手を振ってそれに応えてくれた。

     実に良い経験をさせていただいた。トーランド氏と話せたことで、どこか雲の上の存在のように見えていたムリナール氏にも親しみを感じられるようになっていた。
     今の彼は我らと同じ、一人のオペレーターなのだ。彼には彼なりの考えがあり、あらゆる感情を抱えて行動している。そんな当たり前のことに気付かせてくれたトーランド氏には感謝しかない。

     次にムリナール氏と顔を合わせる際には、直接話をしてみようと思った。叶うなら、彼から見たトーランド氏のことも聞いてみたいとも思う。


    以上
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