大学の飲み会で知り合ったドストライク美人に告白したら「年上好きなんだ」と言われてフラれた話国立大学の経済学部に通う20歳の男子大学生。大学の文化祭後に仲間たちと行った居酒屋で偶然同じ大学の法学部のグループとはちあわせる。そのうちいくらかには顔馴染みがいたため、せっかくだからと同じテーブルにつくことにした。
相手側のグループには女子が何人かいて、彼女にフラれたばかりの俺は、これは運が良いと喜んだ。
それから20分頃経ち、頭に少しばかり酒が回り始めてきた頃、法学部の連中が「おぉ、来た来た!」と店の入口側に向かって手を振り始める。振り返ってみると、そこには……映画女優のような外見をした特上級の金髪美人がいた。
「遅くなってごめんなー」と軽い調子で返事をする声が男性のものだったことに二重に驚き、さらにそんな姿を目にして「アリだ…」と思ってしまう自分の感性にも三重で驚かされた。
法学部の連中が「ここ空いてるぞ」と進めたのはあろうことか俺の席のすぐ隣だった。金髪美人は俺に向けて「よろしく」と華麗にはにかみながら挨拶する。恋に落ちるのは一瞬だった。
満席のテーブル内はすっかり狭くなり、自然と二人の距離も近くなる。男と膝が触れ合うほどの距離で密着して座っているというのに、不快感はまるでない。彼の体からは清涼感のある爽やかな香水の香りがする。
彼は同じ大学の法学部に通う三年生で、名前はディア・テラスという。年齢は俺の一つ上。
少し様子を観察しているだけで、人当たりがよくて聡明な人柄をしているとわかった。俺に対しても初対面なのに気軽に話しかけてくれて、しかも会話するのが楽しくて自然にテンションが上がってしまう。酒のせいもあったかもしれないけれど、本当に、見れば見るほど魅力的な人間だった。
飲み会が終わり、二次会に行くかどうかの話が出始めた頃、ディアのケータイに着信が入る。画面を見たディアは表情を明るくしながら少しの着信相手と話をしていた。
「ごめん。迎えが来てくれるみたいだから、俺はここで解散するよ」
ディアがそう言うと、法学部の連中は事情を知っているのか「気をつけて帰れよ」「オマエが夜道を歩くのは女より危ないからな」笑いながら承諾した。
二次会にも参加する気満々だった俺は、ディアが不参加と聞くや否や興ざめして「俺もやめとく」と断ってしまう。
二次会参加組が別の店に移動し始めた頃合を見計らって、俺は改めてディアに話しかけた。
「今日はディアのおかげで楽しかったよ。初対面とは思えないくらいでさ」
「そうかい? 俺も経済学部の学生がどんな生活してるのかわかって楽しかったよ。色々ありがとう」
「せっかく会ったんだから、連絡先を交換しない? 俺、またディアと話してみたいな」
「ははっ、何それナンパ?」
「似たようなもんかなぁ〜って」
「んー、でもごめんね。君のことは嫌いじゃないけど、俺の個人情報ってすぐ悪用されちゃうから、管理が大変なんだ。初対面の人に簡単に教えたりなんかできなくてさ。またキャンパス内で会った時にでも、懲りずにきいてみてよ。その時には教えてあげられるかもしれないからさ」
「そ、そっか? うん……じゃあそうするよ。同じ大学だもんな。うん。はははっ、じゃ、またの機会にってことで! 今日はおつかれさま!!」
遠回しにフラれた。作り笑いを浮かべながら手を振り、彼の前から立ち去る……振りをして、曲がり角の壁に身を隠して迎えを待つディアの様子をうかがうことにした。
フラれた……いや、俺はまだぜんぜんフラれてなんかいないのだが、それとは別で、迎えに来るのがどんなヤツなのか気になっていたのだ。
普通に考えたら、家族かタクシー。だがもしかしたら彼女かもしれないし、さらにもしかしたら彼氏かもしれない。
あの極上美人と楽しそうに会話していた人物がどんなヤツなのか、この目で見ないことには納得できない。
そうやって張り込みを始めてから五分ほど経った頃、居酒屋の店前に一台の高級車が停車した。
まさか、アレか?
高級車を見つけたディアは迷わず車の前まで歩み寄っていき、ガラス越しに車内を覗き込む。そのすぐ後に、車の中から誰かが降りてきた。
高級そうなスーツを見事に着こなした、五十代半ばほどに見える男性だった。紳士的な立ち振る舞いでにこやかに微笑んだ彼は、ディアの方まで近づいていき、車のドアを開ける。
ディアは扉を開けてくれた紳士に……ぎゅっと軽いハグをした後に、車の中へ入っていった。
あんな美人にいきなり抱きつかれたらどんな男でも動揺すると思うのだが、彼はそうではなかった。慣れているのかもしれない。
しばらくして二人が乗った車は出発し、夜の街の中へ消えていった。
後に残された俺は、一人ぽつんと立ち尽くしたまま、ただただ呆然としていた。