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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ⬜️🐜。現代転生してる⬜️🐜を目撃する👅

    #死瘴

    そこになかったらないですね 新三郎は壁にかけられた時計を見やる。バイト上がりまであと半時間。面倒な客さえ来なければ何事もなく終わるだろう。
     小さな駅のそばにあるコンビニエンスストア。利用者はその小さな駅の利用客や近隣住民だけで忙しくはない。田舎特有の広い駐車場があり、遊び場がない中高生の溜まり場になる。
     新三郎はレジの空いたスペースに教科書とノートを広げていた。店内に客はいない。暇なら宿題をやっていてもいいと寛容な店長が言うので、せっせと問題を解いていた。
     すると入店音が鳴る。「いらっしゃいませ」と、ほぼ語尾だけ発音してから、新三郎は顔を上げた。入ってきた客の顔は見えなかったが、男二人だった。一人がカゴを持って行ったので、購入点数が多いのだろう。広げた教科書を端に寄せながら、その客を目で追った。宿題には飽きていたし、何かしらの予感があったのかもしれない。
     酒が並ぶ棚の前に立つ男は三十代半ばくらいだろうか。体格がよく、ゆるい癖のある髪をしていた。もう一人のカゴを手にした若い男は、弁当のコーナーで迷うことなくいくつか手に取ってカゴへと入れている。こちらはサイドを刈り上げて上部の髪をお団子にしていた。平日の夜だが、二人とも会社帰りのサラリーマンには見えなかった。
     すると体格のいいほうの男が場所を移動した。男が向かったのは衛生用品などの売り場だった。絆創膏や歯ブラシなどが並ぶ。男はその売り場の前で屈むと、いくつか商品を手に取っていた。
     新三郎の中で、ひとつの確信が芽生えた。コンビニで働くうちに、自然と身についた特技だ。
     あの男はコンドームを買う。
     新三郎は勿論、このコンビニのどこにコンドームが売っているか知っている。衛生用品コーナーだ。そしてその場所であの男のようにコンドームを選ぶ男を何人も見てきた。そのうちに、コンドームを買う客かどうか見分けがつくようになってきた。この時間帯に絆創膏を買う客がほぼいないからである。そのコーナーで商品を選ぶ男は十中八九、コンドームを買う客なのだ。
     新三郎は高校二年生。多感なお年頃で、こういう場面に妙な胸騒ぎを覚える。たとえ前世で戦乱をくぐり抜けた記憶があっても、今の肉体は若造のものだ。そして今世にはコンドームなるものがあって、まだ自分は使う機会がないことに悶々としていた。客がコンドームを買っていく度に、密かに嫉妬心を燃やしていたとは口が裂けても言えない。
     するとカゴを持った若い男がきょろきょろとしながら店内を回り出した。もう一人の男を探しているらしい。
     新三郎は二人の男をそれぞれ目で追った。早く選び終えないともう一人の男がくるぞ、と余計な心配をする。それとも大人はコンドームを買っているのを他人に見られても慌てないのだろうか。
     すると、若い男が衛生用品コーナーにたどり着いた。すると体格のいい男が立ち上がって持っていたコンドームを若い男が持つカゴへ無造作に入れた。
    「無くなってただろ」
     新三郎は一瞬固まった。それから二人の関係の認識を再構築する。歳の離れた友人同士や親族ではなさそうだ。
    「俺、こっちのがいい」
     若い男はカゴに入れられたコンドームを戻して別のコンドームを手にする。薄いこと強調するパッケージのものだ。ということは、そのコンドームを実際に使うのは若い男なのだろう。
     新三郎はまたしても確信する。暇なコンビニで時間を潰すために、動物園で動物を見るように客を観察している新三郎である。人間観察と称して妄想力を磨いていた。
     あの二人はデキている。そしてあの体格のいい歳上のほうがネコである。
     確かめる術はない。故に新三郎は己の推測が当たっていると妄信していた。外れることも多い推測だが、今回ばかりは当たっていた。
     新三郎が自分の推測に自画自賛していると、二人の男がレジへと来た。新三郎はにやけ顔のままカゴを受け取る。そして二人の顔を見て目をひん剥いた。
    「あ」
    「え」
    「ん?」
     三人は一様に固まった。新三郎、瘴奸、死蝋の再会であった。
    「……新三郎殿?」
     瘴奸は驚いたように言ってから笑みを浮かべた。その表情に昔のような険はない。頭を丸めた姿しか知らなかったから、近くに来るまで瘴奸であると気が付かなかった。
    「新三郎って誰……ああ、あー、はいはい!」
     死蝋は新三郎を見て破顔すると、手を伸ばして新三郎の肩をばんばんと叩いてきた。思いのほか強い力に新三郎はイラッとする。
    「まさかこんなところでお会いするとは」
     瘴奸は言いながら、はっとしたようにカゴを見た。積まれた弁当の上に乗ったコンドームを思い出したのだろう。瘴奸はさっと目を逸らした。そして何事もなかったように作り笑顔を浮かべる。あえて触れないで押し切る気らしい。
    「ところで、大殿も今世におられるのですか?」
    「叔父上……貞宗様も元気にしてるよ。兄上もね」
     もうすぐ迎えに来る頃だと新三郎は時計を見る。兄の常興はいつも新三郎のバイトが終わる頃に車で迎えに来ていた。
    「ではいずれお会いしたいとお伝えください」
    「兄上ならもうすぐ来るけど」
    「今日は急ぐのでまた今度」
     瘴奸は早く会計を済ませてくれという圧をかけてきた。新三郎はニンマリと笑ってゆっくりとハンドスキャナーを手に取る。弁当や缶チューハイなどのバーコードを一つずつゆっくりとスキャンしながら、瘴奸に言った。
    「このあたりに住んでるのか?」
    「今日はたまたま通りかかって」
    「そいつと一緒に住んでるんだ?」
     確信があったわけではない。だが二人分の弁当と、コンドームの残りがないことを把握しているあたりに、同棲の匂いがしたのだ。
     一瞬の沈黙。
     瘴奸は観念したように目を伏せて、死蝋はなぜわかったのかと驚いてから、瘴奸の腕を取った。
    「よくわかったな」
     べったりとくっついてみせる死蝋に、瘴奸は俯いている。その耳が少し赤いことに気づいて乾いた笑いが出た。
     幸せならいいんだよ、と思ったが、口に出すのは癪だった。
     新三郎は最後にコンドームのバーコードをスキャンして、これみよがしに袋へと入れた。
     すると死蝋がそのコンドームと指差して言う。
    「それの十二個入りってねえの?六個じゃ足りなくね?」
     新三郎の口が引き攣った。瘴奸の顔も引き攣った。
    「そこになかったらないっすね」
     なんとか答える新三郎だが、死蝋は瘴奸の腕を揺さぶる。
    「もう一箱買っていい?」
    「……好きにしろ」
     瘴奸は手で顔を覆っていた。死蝋は機嫌が良さそうにコンドームをもう一箱取ってくると新三郎に手渡す。新三郎は箱を握り潰さないように気を付けながらバーコードをスキャンした。
    「お支払いは?」
    「コード決済で」
     瘴奸は目を逸らしながらスマートフォンの画面を提示する。そのバーコードをハンドスキャナーで読み込めば、軽快な音の後で「スクラッチチャンス!」と大きな音が鳴った。
     瘴奸の顔に居た堪れないと書いてある。新三郎は笑うのを堪えながら「ありがとうございました」とかろうじて聞き取れるほど崩して言って二人を見送った。
     だがその二人がコンビニを出たのと、駐車場に兄の車が爆音で駐車されたのはほぼ同時だった。さらに兄は叔父上を助手席に乗せていた。その二人が瘴奸に気付かないはずもなく、また盛大な再会が繰り広げられる。
     目のいい叔父上なら死蝋の持つコンビニ袋の中にコンドームがあることに気付くかもしれない。新三郎はその瞬間を見逃すまいと、じっと四人を見つめ続けた。滅多にない祭りの始まりだ。
     
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    kisaragi_hotaru

    MAIKINGガンマトとハドポプが混在している世界線のお話の続きです。マトポプは師弟愛です。ひたすらしゃべってるだけです。
    ダイ大原作と獄炎のネタバレを含んでおりますので、閲覧の際には十分にご注意くださいませ。
    捏造と妄想がかなり激しいです。いわゆる、何でも許せる人向け、となっております。
    このシリーズは一旦ここで完結という形を取らせていただこうと思います。続きを待ってくれておりましたなら申し訳ないです……。
    大魔道士のカミングアウト 5 「――ハドラー様は10年前の大戦にて亡くなられたと聞き及んでいたのだが」

     本日二度目のガラスの割れる音を聞いた後、ガンガディアから至って冷静に尋ねられたポップは一瞬逡巡して、ゆっくりと頷いた。

     「ああ、死んだよ。跡形もなく消えちまった」

     さすがにこのまま放置しておくのは危ないからと、二人が割ってしまったコップの残骸を箒で一箇所に掻き集めたポップは片方の指先にメラを、もう片方の指先にヒャドを作り出し、ちょんと両方を突き合わせた。途端にスパークしたそれは眩い閃光を放ち、ガラスの残骸は一瞬で消滅した。

     「そうか……ハドラー様は君のメドローアで……」

     なんともいえない顔でガンガディアはそう言ったが、ポップは「は?」と怪訝な顔をして振り返った。
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