《恋人不覚暁》柔らかな朝の陽が、障子越しに室内を明るく照らす。
パッと目を覚ました文次郎はそろりと腕を伸ばして、昨夜布団の横に置いた腕時計を手に取った。
時刻は午前7時過ぎ。
腕時計を畳にそっと戻すと、隣で健やかな寝息を立てる留三郎を見た。
同じ布団の中で文次郎が身じろきした程度では起きる気配は全くなく、ぐっすりと眠っている。
暑くもなく寒くもなく、すごしやすい春の朝だ。
しかし、留三郎がぐっすりと眠っているのは春の朝だからだけではない。
昨夜、盛り上がった勢いにまかせて留三郎を抱き潰してしまったのだ。
春休み、初めての二人での旅行、夜桜、プライベート温泉付き個室、恋人の浴衣姿とくれば、盛り上がるなと言う方が無理な話だ。
求めて、求められて、何度も何度も繋がり合った。
「………。」
眠る留三郎の横顔を見ていると、つい昨夜の艶めいた表情を思い出してしまい、文次郎の男根が生理現象とは別に反応をはじめてしまった。
しかし、さすがにこれ以上は留三郎の身体が心配だ。朝食の時間に間に合うギリギリまで寝かせておいてあげたい。
文次郎は己の欲望を鎮めるべく目を閉じて静かに深呼吸をする。
「…………。」
頭の中で「春暁」を唱えながら、布団の中で繋いだままの手の温もりを感じていた。
おしまい♡