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    ioio68026495

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    絵じゃねえ〜〜〜!!!
    縦書き機能お試し。ひぜなんワンライで投稿したちょっとホラーな話。Oヘンリー「賢者の贈り物」を後味悪くした感じ
    12月に出せたら出すツイログ本に収録予定

    愚者の贈り物 やあ、今晩は。夜更に部屋まで押し掛けて、済まないね。しかし梅雨も明けて、蒸し暑い夏の盛りといえば……そう、我が主のお好みの、怪談話と洒落込もうじゃないか。なに、堀川くんから主が何やら妖の類の話を蒐集していると聞いてね。僕も一つ、披露してみようと馳せ参じたのだよ。……まあ、まだ真夏ではないからね、にっかりくんの持ち話に比べれば、大した事もない。楽にして、そう、寝転びながらでも聞いてくれたまえ。
     時に主は、「何でも売っている万屋」というのを知っているかね? 当然、普段行くあの便利な万屋ではないよ。……そこはありとあらゆる品物を取り揃え、訪れる者が望む物、全てを売っているらしい。らしい、というのはね、僕はその店に行った事がないのだよ。その存在すら、つい最近知ったくらいだ。ある大雨の日、僕が書庫で雪崩れた本に埋まっていた時の話だ。歌仙くんに食材の買い出しを頼まれていたはずの肥前くんが、手ぶらで駆けてきて僕を掘り起こすなり、何やら忙しなく捲し立ててきてね。何事かと尋ねても、「いいから早く来い、とんでもねえ店がある」などと凄むから、僕も思わず根負けしてね、渋々大雨の中、その店へと向かったのだよ。
     ……しかし奇妙な事にね、彼に腕を散々引き回され、いつもの万屋の四方八方を雨に濡れて探し回ったが、終ぞそんな店どころか、そこへ続いているという薄暗い道とやらにも辿り着けなかった。……今になって思うに、その店は客を「選んでいた」のではないかな。強い願望を持つ者、失った何かを追い求める者、そのためならば、何でも差し出せる者……。その時はそこまで思い至らなかったが、その奇妙な気配に、関わってはいけない、面倒な輩の仕業だと直感したよ。彼とてそれくらいの事は分かっていたはずだ。
     八百万の神々には、「触らぬ神に祟りなし」の言葉通りの者も多いからね、そういう者達とは、あまり関わり合いにならない方が賢明だ。……とまあ、このような事を彼にも言ったのだがね、まるで聞く耳を持たない。問い質してようやく、彼が店で見たという「金の栞」の事を話した。……昔の話になるがね。まだ刀として生まれたばかりの僕に、かつての肥前くんが贈ってくれた唯一の品が、それだったのだよ。……しかしまあ、昔の彼ときたら、無愛想な物言いは今よりもずっと意地が悪いし、何かにつけて年下の僕を従えようとしたり、それに…………。
     まあ、この話はよそう。聞いていて気分の良いものではないだろうからね。とにかく、そんな彼が物を僕に寄越すだなんて、滅多になかった、という事だ。……だからとても嬉しかった。僕もようやく彼の……友人、として認められたのだと思えて、書を読む時は必ずその栞を挟んでいた。懐かしい、思い出の品という奴だ。……そんな大切な物だが、彼が折れた日以来、その栞は忽然と消えてしまった。彼が作り出したまやかしの道具は、この世から消滅してしまった。しかし、例の店にはその栞が売っていたと肥前くんが言うのだから、驚いたよ。なにせ彼には折れる前の記憶がすっかり抜け落ちているのだと思っていたからね。思わず「君、昔の事を覚えているのかい?」……なんて聞いてしまってね。え? そういう事ではない、と……そうかね? まあそれで僕もついはしゃいでしまって、少しだけ、と小さな声で呟く彼に、矢継ぎ早に昔話をあれやこれやと投げかけてしまった。……子供のように浮き立つ僕と違って、彼の顔は何処か、悲しげだったように思う。これもまた、その時は気が付かなかった。
     僕の下らない話を聞き流した彼がね、帰り道でこう言ったのだよ。「自分の大切な物と、自分が大切にしている誰かの大切な物、交換できるとしたらどうするか」と。僕は何と返答したかな、まあろくな返事ではないのだろうけど、彼は俯いて、何故か穏やかな笑みを浮かべて、ただ一言「分かった」と言って、踵を返して行ってしまった。どこへ行くのかその背中に尋ねれば、寄る所があると言い残して、大降りで白く霞む雨の中に、消えてしまった。
     その晩、彼が部屋に戻るのを、布団の中で書を読みながら待っていたけれど、いつの間にか眠ってしまってね。いつものように、「いつまで寝てんだ先生、いい加減起きろ!」と怒鳴る彼の声で目が覚めた。慌てて枕元に投げ出した眼鏡を掛けて、昨日の出来事について詰問でもしようかと目を向けたら、言葉も出なかったよ。
     ……肥前くん、僕よりもずっと背丈があった。髪も腰まで長くて、紅い目は朝日を受けて、爛々と輝いていた。口元は薄ら笑って、「早く起きなきゃ、お仕置きだな」なんて実に愉しそうに零していた。何よりもね……彼の首、包帯がないんだ。あの傷痕も、綺麗さっぱり無くなっていた。夢を見ているのかと思って部屋を見回せば、枕の横に置いた書に、昔懐かしい金の栞が、挟まっていた。それを認めた瞬間、僕の脳裏には昨日別れる直前に彼が口にした言葉が、浮かんだよ。
     肥前くんは、脇差の肥前忠広は、自らの逸話を売り払い、過去の思い出を買った。
     ……先程から不思議な顔をしているね。それもそうだ。……これは一種の歴史改変だ。肥前忠広が折れた事実は「売り払われ」、消滅した。だから人斬りの刀、太刀の肥前忠広が正史となった。政府も審神者も気付かぬ間に、歴史は捻じ曲げられた。……この僕だけを、置き去りにしてね。
     ……ふふ。どうだったかな。中々上手く出来た話だと思わないかね? 歴史の「もしも」に焦点を当てた、朝尊式恐怖怪談話二号改だ。ふむ。怪談話ではなくてただの作り話じゃないか? ……そうだね。まさしく、その通りだ。さて、そろそろ部屋に戻らねば。肥前くんに叱られてしまう。僕にはこの頃「門限」が定められているからね。では、お寝み。



    「遅えよ先生、一分遅刻だ」
    「済まないね、主に大切な話があって」
    「いいから早く。……こっち来いよ」
    「ん……」
    「あぁ……先生、可愛い……」
    「……ねえ、肥前くん。君は、もし……もしも、君の鋒が折れたとして……例えば、脇差になってしまったとして、その事実を消してしまえるとしたら……」
    「はあ、まーた小難しい話かよ。それもああだったら、こうだったら、ってぼやけた話だ。おれはそういうの、好きじゃねえな」
    「うん、分かっているよ。でも……」
    「あのな、折れたら折れたでそん時ゃそん時だ。無かった事に、なんてできねえから必死こいてしがみついてんだろ、この、やらしい体にな……!」
    「ああ、もう。……やはり君は、そう考えるのだね。だから……全部僕のせいだ」
    「そら、もうお勉強は終わりだ。さっさと楽しもうぜ……何しけたツラしてんだよ?」
    「うん……ごめんよ、肥前くん、ごめんよ……僕は、本当に……」
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    ioio68026495

    PAST絵じゃねえ〜〜〜!!!
    縦書き機能お試し。ひぜなんワンライで投稿したちょっとホラーな話。Oヘンリー「賢者の贈り物」を後味悪くした感じ
    12月に出せたら出すツイログ本に収録予定
    愚者の贈り物 やあ、今晩は。夜更に部屋まで押し掛けて、済まないね。しかし梅雨も明けて、蒸し暑い夏の盛りといえば……そう、我が主のお好みの、怪談話と洒落込もうじゃないか。なに、堀川くんから主が何やら妖の類の話を蒐集していると聞いてね。僕も一つ、披露してみようと馳せ参じたのだよ。……まあ、まだ真夏ではないからね、にっかりくんの持ち話に比べれば、大した事もない。楽にして、そう、寝転びながらでも聞いてくれたまえ。
     時に主は、「何でも売っている万屋」というのを知っているかね? 当然、普段行くあの便利な万屋ではないよ。……そこはありとあらゆる品物を取り揃え、訪れる者が望む物、全てを売っているらしい。らしい、というのはね、僕はその店に行った事がないのだよ。その存在すら、つい最近知ったくらいだ。ある大雨の日、僕が書庫で雪崩れた本に埋まっていた時の話だ。歌仙くんに食材の買い出しを頼まれていたはずの肥前くんが、手ぶらで駆けてきて僕を掘り起こすなり、何やら忙しなく捲し立ててきてね。何事かと尋ねても、「いいから早く来い、とんでもねえ店がある」などと凄むから、僕も思わず根負けしてね、渋々大雨の中、その店へと向かったのだよ。
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