キリエ+桃悟くん 突然、隣の気配が遠のいた。
ふと振り向くと、数歩後ろで足を止めた桃悟がいる。
「……桃悟?」
キリエは疑問に思いながらも近付き、桃悟の顔を覗き込んでみたが、口を噤んだまま固まっているようだ。
つい先ほどまで雑談を交えながら、次の授業へと向かっていたはずだった。
肩を並べて歩いていたのだが、立ち止まった今の桃後は床を見詰めたまま、そこから動こうとはしなかった。ニフラーのチャチャが彼の肩で「きゅうきゅう」と声をあげている。小さな体を慌ただしく動かしながら、家族の心配をしているようだ。
「どうしたの、具合悪い?」
キリエは静かに問いつつ、チャチャの頭を撫でて落ち着かせた後、桃悟の背に軽く触れて言葉を促したが、彼の顔色は次第に青ざめていくようだった。言葉を発することもなく、よく見ると体を震わせている。手のひらに伝わる体温は、いつもよりも低く感じられた。
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