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夕暮れの気配が屋敷の敷地を包み始めていた。燃えるような西日が中庭の石畳を赤く染め、風に揺れる枝の影が長く伸びている。鍛錬場として使用している草原に立つ少年の背に、その光が静かに降り注いでいた。
ティア・マクドールは長棍を両手に構え、ひと息ごとに型を繰り出していた。その動きは派手さこそないものの、無駄がなく、丁寧に積み重ねられた日々を感じさせるものだった。
額から滴る汗が顎を伝い、地面に落ちる。数度、呼吸を整えるように目を閉じたティアは、やがてゆっくりと棍を納めた。
「……ふう」
肩で息をしながら、ティアはゆっくりと体を起こす。決して軽い疲労ではなかったが、それも心地よい。今日はやけに集中できていた気がする。だが、それはきっと、何かを押し込めるための集中でもあったからだ。
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