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解放軍本拠地は湖の中心にそびえ立っている古城だ。岩壁をくり抜いて作られたらしい風貌は人が地盤から組んだ建築物とは異なり、どこか冷たい印象を抱かせる。実際、季節が冬へと移り変われば火を絶やせないほどに極寒の地に変貌する。何せ巨竜の屍が腐らずに鎮座している位だ──というのは解放軍に属するものしか知りようもないが。
そんな寒々しくも感じられる湖城を背後に、水面をじっと見詰めている己の姿は異様な姿に映ることだろうが、幸い、周囲に人影はいない。
もしかすると、護衛を兼ねている忍の誰かしらかが、人払いをしたのかも知れなかった。
「ティア殿」
会議を終え、部屋を出ようとしていたティアに声をかけてきたのは、傍にいることが多い解放軍の軍師だった。
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