⭐️と🦊、フォーチュンクッキーを買うウルペスはうんざりしていた。
長蛇の列に並び始めて早1時間。未だ店の入口を見つけることは出来ない。
正直言って人気スイーツ店を舐めていたし、何が悲しくて嫌いな奴と2人きりでキラキラしたスイーツ店へ行かなければならなかったのか。
隣の奴と違って別に甘い物が好きな訳でもないし。
「もうそろそろ着くかな?いや〜フォーチュンクッキー、気になってたんだよねー。占いが出来るお菓子だなんて、是非食べてみたいよね!ねっウルペス!」
「そうですね、ステルラ先輩!結構並びましたから、きっともうすぐ着きますよ!(いやまだ入口見えねーだろ!)」
ーー
バナナ色の体で、バイザーに太陽と月の特徴的なマークがある彼女の名はステルラ。
占いが大好きな占い師で、商売として占いをしたり占いアイテムを売るなどしているが、肝心の占いがめったにあたらないポンコツ占い師である。
ライム色の体で、アイボリー色の獣耳を付けている彼の名はウルペス。
ステルラの後輩クルーであり、丁寧口調の素直で明るい性格。というのは表の顔で、実際は内心他人を見下しバカにしている猫かぶりな妖狐である。隣に占い師の敵である妖狐がいるのにも関わらず、全く気づかないステルラのことを見下して面白がっていたが、最近はステルラのぶっ飛んだ言動により振り回されることが多い苦労人である。
ーー
今日は人気スイーツ店にてフォーチュンクッキーが新発売したとのことで、2人で買いに来ていた。
🥠フォーチュンクッキーとは、おみくじが入っているクッキーのことである。中が空洞になっているクッキーを割ると、紙のおみくじが入っており運勢を占うことができる。
おみくじも占いの1つ。
発売の知らせを聞いたステルラはすぐにウルペスを誘い、はるばるお店にやってきたのだった。
甘い物も占いも好きなステルラにとっては、まさに一石二鳥。更に仲良しな後輩と一緒というのもあり、長時間の待機列も全く苦にならなかった。
一方そのどちらにも当てはまらない上に、嫌いな先輩と長時間一緒だったウルペスにとっては、二重苦、いや三重苦であったことは言うまでもない。
「これさ。普通にクッキーも美味しそうだよねー。なんかデコレーションされててキレイ〜。フォーチュンクッキーじゃなくても食べたくなるやつだこれ」
「そうですね、流石は人気スイーツ店ですね!さぞ手間隙かかっているんでしょうね(このクッキーめちゃくちゃ甘そうだなー…)」
そんなこんな雑談してたら、ようやくステルラ達の番がまわってきた。
「あ!ようやく僕らの番みたいですよ!(ハァ~~~やっと着いた……クッッソ長かった……地獄だったわ全く...)」
「む!何種類かあるのか。では占いで…」
「まぁまぁ、ささっと決めちゃいましょうよ!(後ろ詰まってるんだっつーの!!呑気すぎだろ!)」
「うーん…じゃあ簡単に、カードの出た目の物を…。」
ペラッ
「3と7!3番目の…じゃあコレで!ウルペスは7番目のこっちね。」
「ありがとうございます!(勝手に決めんな!)」
「あとコレとコレとコレと......」
「(結局他の味も買うのかよ)」
無事フォーチュンクッキーを購入出来た2人。
近くのベンチに腰をかけ、カード占いで決めたクッキーを取り出す。
ステルラは黄緑色の抹茶味のクッキー。葉っぱ型のチョコレートが飾られており、植物モチーフのようなオシャレな装飾が施されている。
ウルペスはピンク色のイチゴ味のクッキー。ハート型のチョコレートが飾られており、アラザンがふんだんに散りばめられている。
「(何で俺がこんな無駄に可愛いクッキー食わないといけないんだ…くそ…)」
これを今から食べるのか、と内心げっそりしながらウルペスはクッキーを見つめる。
「じゃあ早速食べよっか!いただきまーす」
「いただきます!」
サクッ…サクッ…
…
「抹茶味だ!美味しい!!
…で、えーっとおみくじは…なになに、
『病気知らずの健康体になれるでしょう』
おー健康体だって!…あ、これ健康に関するおみくじなんだ。」
「僕のはイチゴ味です!(やっぱりくそ甘いな...)
健康体!良かったですね!...あぁ、なるほどクッキーの種類によっておみくじの内容が違っていたんですね(よく見ずに買うんじゃねぇよ!)
じゃあ僕のは……」
そう言った途端、嫌な予感がウルペスの脳裏に浮かぶ。黄緑色のクッキーが健康に関するおみくじだった。そして自分のクッキーは、ピンク色。
チラリと自分のおみくじに目を落とす。
『意中の人との距離が近づくかも!』
「…」
「ウルペスのは恋愛に関するおみくじなんだー。良かったじゃん!ヒュー!好きな人いるのー?誰ー?」
「い、いないですよ!!!いる前提で話すのやめてください!」
「あー照れてる〜」
「てっ照れてねーですよ!!全く!!」
意中の人なんて決していないけど、コイツとの距離はこれ以上近づいて欲しくないなと思うウルペスであった。
そうして、ウルペスの長く散々な1日は終わりを迎えるのだった。
そんなやりとりを遠くから荒い息で覗いているオタクが居たとかいないとか。
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2人で買い物に行ってから1週間。
就寝中に突然ステルラに呼び出されたウルペスは、脳内でぶつくさ文句を言いながら待ち合わせの場所へ足を運ぶのだった。
「先輩、こんな早朝に何かご用ですか?(これでしょーもないことだったらまじ許さねぇ…)」
「そう!ウルペスには先に見せたくてね。
はいこれあげる。結構良い感じに出来たでしょう。ドヤァ…」
そう言ってステルラから渡されたのは、星座の模様が描かれた小さな袋。
中を見ると、先日買いに行ったフォーチュンクッキーと同じ形状のお菓子が入っていた。しかしその装飾は、ステルラを思わせる太陽や月、星などの店で見たものとは違うものだった。
「えっ!これ…フォーチュンクッキー?
先輩が作ったんですか!?凄い...!再現度高いですね…!ありがとうございます!(こんなん作れるなら占い師やめてパティシエ目指せ)
えっと、お代はいくらでしょうか?(で、どーせ金とんだろ)」
「いやいらないよ。これはプレゼント!なんたって私の可愛い後輩だからね」
「…思い出したかのように先輩面しないでくださいよ」
「あ〜ウルペスったら、嬉しくて照れてるの〜?」
「ななんでそうなるんだよ!照れてないですよ!クッキーいただきます!」
サクッ…
…
『とってもすてきな1日になるでしょう』
「おお〜!良かったねウルペス!当たってるじゃん!私に会えて、お菓子食べれて、もう素敵な日じゃーん!」
「…やったー!嬉しいです〜!」
やっぱ、こいつの占い当たんねぇ……。