母の味おかあさんの作る料理が好きだった。
ふわふわなオムライス、ほかほかでやわらかい煮物。いつ食べても心があったかくなるおかあさんの料理。
家は貧乏だからおなかいっぱいになるまでは食べれないけど、家族といっしょに食べるおかあさんの料理はとっても美味しくて、それだけで幸せだった。
ぼくのおかあさんは毎日朝早くから夜遅くまでおしごとをしに出かけてる。
だからおかあさんを待ってる間、少しでもおかあさんの役にたてるようにお勉強してるんだ。
今はお料理を1人でも作れるように練習してるけど、卵をきれいに焼くのがちょっと難しい。
今日おかあさんが帰ってきたらおしえてもらおうかな。
そして、いつか美味しい料理が作れるようになったら、おなかをすかせてる妹や弟に美味しいおやつを作ってあげたいなぁ。
今日もまた、おかあさんの帰りを待っていた。
しかし、普段帰ってくる時間になってもおかあさんの姿は見えない。
「おかあさん、遅いなぁ…」
待てども待てども、おかあさんはいつまで待っても帰ってこない。おかしいなぁ。どうしたんだろう。もしかしておしごとが忙しいのかな?それならお手伝いしにいこうかな。少しでもおかあさんの役にたてるように。
家に妹達を残し、おかあさんを探しに出かけた。
どこ?どこ?おかあさん。おかあさんのしごとばはどっちだっけ。
どれだけ走り回っても見つからず、空腹感で思わず座り込む。おなかすいた…。
すると、目の前に影が落ちたことに気がつく。
「やぁ、小さい黒のクルーくん。お腹が空いたのかい?」
それはグレー色の体をした女性だった。手に鍋のような物をを持ち、薄い笑みを浮かべこちらを見ている。
「あの、、おかあさんを…探してて…」
「そうかそうか。でもその前にキミ、お腹が空いているんだろう?とっても美味しい料理があるから、食べていきなさい。」
「え!ご飯くれるの!?おなかぺこぺこだったんだ!」
グレー色の女性は鍋から1杯掬い、手頃な量をお椀によそい入れる。豊満な匂いが鼻をくすぐり、思わずよだれがこぼれ落ちる。
グレー色の女性がくれた料理は、いつものおかあさんの味とは違うけど、凄く美味しかった。
味が濃くて、すごくじゅーしーだった。
出された料理の8割を食べ切る頃には、かつてないほどお腹が満たされているのを感じた。
「おばさん!これ、とっても美味しいよ!いつものおかあさんの味とは違うけど美味しい!こんなに美味しい肉、今まで食べたことないよ!」
「そうかそうか。美味しいか。それは良かった。
あぁ、お肉ね、そのお肉はね......」
キミのお母さんだよ。
猛烈な嘔吐感に襲われ、口の中の物を地面に吐き出す。ぐにゃりと視界が歪み、また、グレー色の女性の口角も歪んでいるのが微かに見えた。
え?
え?
お かあさん?
この お肉が、おかあ さん?
なに を、いって いるの ?
「黒のクルー、いや、ヴァルチャーくん。どうだい?クルーのお肉は美味しいだろう。にしても、ヒッヒヒ…お母さんの味とは違うって…、可笑しいねぇ、お母さんの味なのにね」
「げほっ、げほっ、、、、
あ、ぇ、、?、う、、うそ、だ、、、、」
今思い返すと、確かにそのお肉は不自然に黒っぽい色をしていた気がする。
それに、妙に細長くて不思議な形をしているお肉があったような...。
それは まるで
人の指のような
ぼくは、おかあさんを、食べた、の?
あれ?
さっき、なんて言った?
・・・
ぼくは、さっき、なんて言った?
「 とっても美味しいよ 」
おかあさんを、大好きなおかあさんを食べて、
美味しい?
ありえないありえない
なんで、どうしてどうして、おかあさんおかあさんおかあさんおかあさん
「嘘じゃあないよ。ホラ、これさ、お母さんのバイザーの傷と同じだろう?」
そう言って出されたのは、ひび割れ半分になったバイザー。そこに付いている傷は、産まれて以来毎日見ていたおかあさんのものと同じだった。
「う、、、あ、、、、、あ、、、、、、
わああああああ!!!!わああああああああああん!!!!!!」
「あら…行っちゃった。もう少しで完食だったのに、勿体ないなぁ…ヒヒ…」
その後、とにかく走って走って、家に帰った。
女性から逃げた後のことは頭の整理が追いつかず、どうやって帰ったかはよく覚えていない。
けれど
おかあさんはもう帰ってこないことと、
自分はおかあさんを食べたことは、
嫌でも忘れることは出来なかった。
帰宅後、妹達には1人でご飯を作った。
おかあさんのことについては本当のことは言わずに、仕事の都合で遠くへ行くからしばらくの間帰ってこないと話した。
だからぼくが、おかあさんの代わりになれるよう頑張るんだ。
…
自分はヴァルチャーという、
クルーの肉を食べる種族らしい。
クルーはもう食べたくない。
そして他の人にも食べて欲しくない。食べさせて欲しくない。
クルーの肉を食べなくても良いように、
クルーよりも美味しい料理を作れるようになってやる。
沢山勉強して、沢山料理を作って、母の料理を思い出して、
自分も、自分以外の人にも、クルーの肉を食べなくても良いような料理人になってやる。
たとえ一生腹が満たされることが無いとしても。
ただ、
料理人になった今でも、あの味を超える料理は1度も作れた試しがない。
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️「皆~~!美味しいご飯が出来たわよ~!
たっくさんあるから、いっぱいおかわりしてちょうだいねぇ~!」
料理人であり、マフィアである黒のヴァルチャーは、料理が山のように盛られた大皿を
したっぱ構成員とともに食堂へ並べていく。
あらゆる欲が、食欲に置き換えられるような
美味しそうな料理がズラリと並ぶ。
「うまそーっ!」
「腹へったぁー」
ぞくぞくと構成員が集まる中、一際大きな椅子に座るタン色のマフィアが先に箸を付ける。
傍には金の首輪をつけた茶色のインポスターが骨を齧っている。ほとんど知能を有していないが、タン色のマフィアの護衛である。
「う~ん、やっぱ美味しいねー!後でお金あげちゃうね!」
「ありがとうドン!でも別にお金はいらないわ~」
「貰っておけばいいのに...フヒ...」
「...別に人の勝手でしょう」
怪しい笑みを浮かべているのはグレー色のジャニター。死体掃除屋であり情報屋でもある、タン色のマフィアの側近のような人物である。
食堂に集まってきた他の構成員達も、各々料理を食べ始める。
「うめー!」
「しみるわ~」
「家の飯思い出すわー」
「母の味って感じだよなー」
構成員が舌鼓をうちつつ自由に感想をもらす中
グレー色のジャニターが呟く。
「フヒ...母の味、ねぇ...」
「ん!?なんか面白い話ある?聞かせて~!」
「うーん、そうだねぇ...どうしようかな……」
「おーい!おかわり頂戴!」
「あ、はーい!今行くわ!まだまだあるわよぉ~!」
グレー色のジャニターが話し始めようとしたその時、構成員に呼ばれた黒のヴァルチャーが席を外す。
「丁度いいや...。そう、母の味ね。
母の味は...、母に伝え聞いていたほどは美味しくなかったんだよね...フヒヒ...」
「んお?母に母の味を伝え聞く??なんか話が噛み合わない気がする!詳しく教えてよ〜!」
「はいよ...。ボクは子供の頃、貧乏な暮らしをしててね…。飢えを凌ぐために、母親を食べたことがあったんだ…。まぁボクはクルーだからさ、インポスターやヴァルチャーほど美味しく食べれなかったわけだよ...」
「へーーっっ!そっちの母の味ね!面白ー!!お金あげる!!それでそれで?」
「そう、それで...母から伝え聞いたというのがね...
昔母親が、子供のヴァルチャーにその子の親を食わせたことがあったみたいでね…。それはもう、凄く美味しそうに食べてたんだってさ...」
グレー色のジャニターは薄い笑みを浮かべた。