ポカぐだ♀ / 甘い / 甘やかしテスカトリポカに好きですって伝えたのは、好きで好きでどうしようもなくなっちゃって、このままこの気持ちを抱えていたら戦いにも悪い影響が出ちゃいそうだったからで。
戦いに支障が出るかもしれないからって言ったら、テスカトリポカならからかったり嘲笑したりしないで、そうかって言ってくれるかなって思ったんだよね。
神様だし、崇拝されることとか気持ちを向けられることには慣れてるかなぁって。キモいって思わずに好きでいるのをゆるしてくれるかなって考えもあって。
世界が大変なことになって生きるか死ぬかのこと状況で、恋なんてしてられないよねぇ。とは思ってたの。
……思ってたんだけど。
恋ってほんと突然で、自分の気持ちとか関係なしに落ちてしまって。
恋、してみたかったなぁって恋に憧れる気持ちは、たぶんずっと心の奥底にあったんだと思う。
だってさ、世界のために生きるためにって戦ってきたけど、わたしだって女の子だもん。
好きって気持ちはほんとすてきで。
彼と一緒にいる毎日がほんと特別で大切で、かけがえのないものになったの。
どきどきして力が漲るこの感じを、どうしても捨てたくなかったの。
好きって気持ちは誰にもバレないように隠し通そうって思ってたんだけど、もう好きで好きで、心が破裂しちゃいそうで全身から溢れ出してしまいそうで。
だから、好きですって伝えてスッキリして、この気持ちをきらきら輝く勲章みたいに飾って。
訓練も戦いもめちゃくちゃがんばれると思ったんだ。
「テスカトリポカのことが好きです」
面と向かって勢いよく言ったんだけど。
テスカトリポカはただ一言、そうかって言ってくれたんだけど。
これは予想通りだったんだけど。
彼は「そうか」と言ったあと、笑ってぎゅーっとハグしてきて。
あれ? なに? なんで?
とわたしが思考停止状態に陥ってる間に、ちゅっとキスをしてきたのだった。
そう、くちびるに。
「? ???」
ぽかんと固まるわたしに再び笑いかけて、きれいな顔が近付いてきた。
圧倒されてしまって思わずぎゅっと目を閉じる。
テスカトリポカはふっと笑って、その息が鼻先に吹きかかった。
なに? え。
びっくりして肩が跳ね上がる。
さらさらの髪が頬に落ちてきて、つんつんくすぐったい。
くちびるはゆっくりと重なって、ぐっと押しつけられて。
それからふに、とやわらかく喰まれ、ゆっくりと離れていった。
ぴっとりとくっついたくちびる同士はまるで別れを惜しむように張り付いて、ぷるんと震えて離れていった。
そうっと目蓋を開ける。
視界いっぱいにテスカトリポカのきれいな顔があって、凪いだ湖面みたいにきれいな瞳がわたしをじいっと見ていた。
わたしの頭の上のほうにあると思ってた顔が目の前にあって心臓が跳ねた。
瞳から視線を少し落としてうすいくちびるを見てしまい、かああっと顔に熱が集まってくる。
あ、さっき、えっ、な、なんっ……
一度大きく跳ねた心臓は落ち着くことなくバクバクと大騒ぎしている。
脳内も大混乱だ。
「なんっ、なん……」
なんでと尋ねようとするも、口を開くと(あ、ここにキスされたんだ)と意識してしまって言葉が出てこない。
テスカトリポカは口角を上げ、ずいっとさらに顔を近づけてきた。
また息がかかってきてしまいそう。
「なんでって、好きなんだろ?」
「えっ、うん。……あ、はい……」
なんとか答えるも、目はあっちへこっちへ泳いでしまう。
だって好きなひとがこんなに近くにいるんだよ?
もう顔どころかからだ中熱い。汗が噴き出そうだ。
「カレシはカノジョにキスするだろ。ふつう」
「かっ!? カレ……えええっ!?」
カレ!? は? カレシって言った!?
どういうことっ!? と真意を掴むためにテスカトリポカを見つめ、彼はたのしそうに笑った。
「あぁ、やっとこっち見た」
いたずらっ子みたいな笑い顔がかわいくてキュンとなる。
……って今それどころじゃない!
「カレ……カレシってなにっ?」
カレシなんて単語を口にすることに動揺して、でもちょっとうれしくもなっちゃって、自分の浮かれた気持ちにも狼狽えてしまう。
「なにって、好きなんだろ?」
テスカトリポカは目を丸くして小首を傾げた。
うーんかわいい。……じゃなくって!
こっ……恋人になれたらきっとすっごく幸せな気持ちになれるんだろうけど、でもわたしのわがままに無理矢理付き合わせるなんて絶対したくない。
支援の一環でかりそめの恋人関係なんてつらすぎるもん。
ありがたい申し出だけどお断りしよう。
そう思って慌てて告白の理由を口にした。
「好きでいさせてもらいたいなって思ったから、好きって言ったの。
付き合うとか、そういうつもりなくて……」
そこまで言うとテスカトリポカはムッと顔を顰めた。
「なんだ? もしかして世界救うのにカレシいちゃダメだとか言われたのか?」
「言われてないけど……」
「おまえさんのことだ。これまで以上に訓練に戦いに、励むつもりだろう?」
「うん」
これには即答した。
だって、手を抜いたり怠けたらテスカトリポカに嫌われそうだし。嫌われるっていうか殺されそうだし。
なによりテスカトリポカと一秒でも長く一緒にいたいから、生きるためにめいっぱい努力するつもりだ。
テスカトリポカはわたしの答えを聞いて、そうだろ? とニヤリと笑った。
「おまえさん、恋にうつつを抜かして怠惰になる…….なんてことはなさそうだし。むしろ恋を活力に替えて前へ進むタイプだろ?
なら、恋人がいたっていいじゃないか。世界救うのにカレシがいたって構わないだろ?」
いい声で紡がれる言葉はわたしにとってあまりに都合がいい。
そうかな? そうかも? テスカトリポカがいいって言うなら、いいのかな?
天秤が揺らいでいるところで、テスカトリポカから爆弾発言が落とされた。
「オレもおまえさんのこと好きだし」
「はぇっ!?!?」
天秤どっかいった!!
目を剥くわたしの肩を抱き、テスカトリポカがカラカラと笑った。
「いやぁ、おまえさんの好意にはすぐ気づいたんだけどな。いつコクってくるんだ? って、ずっと待ってたんだよ」
ええっ! 隠してたつもりだったけど、バレバレだったってこと?
やばい。超恥ずかしい!
恥ずかしさに耐えられなくて顔を覆うわたしのことなど気にせず、テスカトリポカはご機嫌麗しく歌うように言葉を続けた。
「なに、少しは楽しみってやつがないと……って言っただろ?
戦いに励むカノジョはめいっぱい甘やかしてやるよ」
あれ?
もしかしてやっぱり無上な支援の一環なのかな……?
なんで砂糖菓子をくれたの? と尋ねたときと同じような言葉にちょっと不安になる。
わたしのことを好きっていうのも、「好ましい人間」くらいの感覚なのかもしれない。
まぁでも、いっか。
仰ぎ見た横顔がたのしそうで、やっぱり考え直してと今言うにはしのびない。
もしテスカトリポカが無理してたら、ただわたしの気持ちに付き合ってくれているだけだったら。
そのときはお礼を言ってお付き合いをおしまいにしよう。
そう心に決めたんだけど。
このひと、顔を合わすたびにキスをするし、部屋では膝の上にのせてくるし、な……名前で呼んでくるんですけど!
あまい! あまいよ!!
で、困ったことに「公平でないとな?」って笑って、同じことを求めてくるの。
わたしのことほんとうに好きじゃん!!
わーん! 好き!!