ポカぐだ♀ / ほのぼの / 執着強め「かわいい女の子に「私の王子様」って潤んだ瞳で微笑まれちゃうし、かわいい魔女さんに婿入りの準備はできたか? って迫られちゃうし。
ちょっとどきどきしちゃうよね!
わたしってばモテ期到来じゃない?」
ちょっとは気にしてくれるかな? 焦ったり、フキゲンになったりして!?
なんて、ちょっと期待して大袈裟に言ってみたんだけど。
テーブルの向かいに座るテスカトリポカはただ「そうか。よかったな」と言うだけで。
このひと、わたしの気持ちに気づいていて、でも何も言わないからてっきり好きでいることを許していてくれてるんだと思ってたんだけど。
彼もわたしのこと、それなりに気に入ってくれてるんじゃない? って、思ってたんだけど。もしかしてわたしの思い違い?
……自意識過剰だったかな?
さっきまでの浮かれた気持ちは一気にしぼんでいってしまった。
絆が深まるのもはやかったし、夢火だって笑って受け取ってくれたし。
どんなクエストだって、お願い! って言ったらイヤな顔しないでついてきてくれるし、こうやってわたしの部屋で一緒にお茶してくれるし。
だってずっと一緒にいるんだよ?
仲良くなったって思うじゃん?
余裕綽々な表情で煙草をふかす姿を見ていたらなんだかみぞおちあたりがムカムカしてきて。
その表情をちょっとは崩してみたい! っていう、強がりと完全なる八つ当たりをしたくなっちゃって。さっきよりも声を張り上げた。
「これでも求婚してくれるひと、結構いるんだよね! 望んでくれるひとの中から、誰か選んじゃおっかな!」
わたしの言葉は部屋の隅々まで響き渡って、それから重たい沈黙がおとずれた。
その気まずい空気の中、ふぅっと煙を吐く吐息がいやに響いて居た堪れない。
目の前のひと、無反応。
ちぇー。
やっぱり神様は、こんなちんちくりんのことなんてなんとも思わないかぁ。
なにせ戦士としてもつい最近認めてもらったくらいのへっぽこマスターですし?
背を丸めて口を尖らせる。
わたしの空っぽのカップにふうっと息を吹きかけた。
べつにね、いじけてないですよ?
口尖らせたのも、息吹く予備動作ですし?
ほんとにモルガンかロウヒのもとへ行こうかな? 女の子同士、楽しそうだし。
この前、モルガンからハベトロットと一緒にお茶しましょうって誘われてたし。
なんて、ぐるぐる考え出したわたしの視界にテスカトリポカのコートの裾が映った。
ふと目線だけを上げ、彼の腕を追いかける。
彼の手は吸い殻を灰皿に押し付けだした。
グリグリと。白い部分がぐにゃぐにゃにひしゃげてぺしゃんこになっても、まだグリグリと灰皿に擦り付けている。
押し潰れてゆく吸い殻がかわいそうになってくる。
な、なんか、手から執拗さを感じるのですが??
「さてマスターは誰の手をとるつもりなのかねぇ。……妖精國の女王だって災厄の魔女だって、まぁ誰でもいいさ」
ちぎれそうな吸い殻の行く末をジイっと凝視していると、テスカトリポカの低い声が上から落ちてきた。
温度のない、平坦な声だ。
……え。なに? こわい……
そろり、そろり。
指先からコートの裾へ。そこからテスカトリポカの胸元、首筋へ。
落ちていた目線を少しずつ上へとあげてゆく。
彼の顔まで到達し、三白眼の瞳とバチっとかちあった。
サングラス越しでもわかる、ギラついた目がわたしをとらえる。
今にも喉元を掻き切られてしまいそうな、鋭い視線だ。
彼はわたしを見つめたまま、舌なめずりをするようにじっとりと濡れた声で言った。
「オレの逸話を知っているだろう? ひとのモノを獲るの、燃えるんだよな」
ひょえ……
こ、こわい……っ。
恐怖心でガタガタとからだが震えてくる。
なにせ目が冗談ではないと語っているのだ。
「や、ヤダナー。冗談デスヨ……」
わたしは無理矢理笑顔を作り、縮こまった喉から声をしぼり出すように告げた。
神様の怒りやばすぎる。このままどうなってしまうか予想ができない。
強制的に話を変えなくては。
これまでの旅で培ってきた直感と仕切り直しのスキルをフル活用して、この窮地を乗り越える策を講じた。
「あの。休憩はここまでにして、そろそろ周回行こ?」
予定よりもちょっと早い再開だけれど、本当はもう一個チョコをつまみたかったけれど、そんなこと言ってられない!
彼、戦う者には支援をしてくれるから、無碍にはしないハズ作戦だ。
にっこり笑って、お願い! と手を合わせた。
笑顔とガン飛ばしの睨み合いの戦いの末、彼はしょうがねぇなと呟き、コーヒーカップを呷った。
コーヒーカップのおかげで視線が外れてほっと息を吐く。
ただ見られていただけなのに、からだを拘束されたような、生きた心地がしなかったのだ。
カツン、と空になったカップがソーサーを叩く音で我にかえる。
慌てて立ち上がると同時に彼も立ち上がった。
よかった。少しでも待たせてしまったら、またフキゲンになったかもしれない。
「そら、行くぞ。おまえさんが望むだけ付き合ってやる」
「う、うんっ!」
わたしを呼ぶ声はさっきまでの冷ややかな声から一変して、機嫌の良い弾んだ声で。
よかったぁ。この窮地を乗り越えられたじゃん!
と、ほっと安堵したのだった。
……安堵はしたものの。
さっきの鋭い視線……蛇に睨まれた蛙の心地を思い出す。
アレは絶対にガチのやつ。
もしわたしが誰かの手を取ったら、それが誰であっても本当にわたしを奪い取って彼のものにされてしまいそう。
……このひと、わたしのことそれなりに気に入ってくれてる……どころじゃ済まないような気がするなぁ!?
もしそれがほんとうなら、うれしいような、でもちょっとこわいような?
胸はどきどきと早鐘を打つ。
このどきどきがどっちの理由かはわからないけれど。
もし自分の気持ちがわかるようになったら、もっと彼との絆を深めたら。
わたしの気持ちを彼にちゃんと伝えたい。
わたしのことどう思ってるか、彼の口から聞いてみたい。
なんて、先の未来の目標を立てたのだった。
この数日後、周回しすぎて思っていたよりもはやくテスカトリポカとの絆が最大限深まってしまって慌てるハメになるのだった。
しかも彼はにんまり笑って「オレのことどう思ってるワケ?」と聞いてくるもので、わたしは目を白黒させることになるのだった。
わたしの目標、知ってるワケ??
好きですよもー!!