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    プチ企画で応募してくれた6人をランダムで出られない部屋に入れてみた✨

     会議室に集められた六人は困惑していた。何故このメンバーなのか、何の目的があるのか。互いに顔を見合わせ、あるいは一人で考えこんで。

    「皆さん、揃いましたか」

     いつの間に会議室に入ってきていたのか。そう語りかけたのはマスタークラス二年の鍵谷潤である。彼は何故かアメリカンハットに赤い蝶ネクタイをつけたクイズの司会者のような格好をしていて、六人の困惑は増すばかりだ。

    「はい、では今から『第一回、脱出せよ! 出られない部屋大会in陽ノ月学園』を開催いたします」

     カンペを読みながらそう宣言した潤を、皆ぽかんと見るばかりだ。なんだその大会は。

    「皆さんには二人一組になっていただき、この会議室の隣三つの教室のどこかに入ってもらいます」

    ・ペアと入る部屋はくじ引きで決める。
    ・入ったら中に指令書があり、それを実行すると部屋の鍵が開く。
    ・一番早く脱出し、会議室に戻ってきたペアの優勝。

     概要を説明した潤はくじ引きの箱を取り出した。

    「優勝したペアには一週間俺がおにぎり差し入れます」

     それではくじを引いてください。
     何が何だかわからぬ内に引かされたくじによりペアが決まり、あれよあれよという間にそれぞれが部屋に放り込まれて。

    「Lock」

     カチャッと鍵が閉まる音が響く。
     潤の能力によって、条件を満たさなければ鍵は開かなくなった。さぁ、ゲームの始まりだ。

    ◇◆◇

    ルーム1『逆立ちして納豆を完食しないと出られない部屋』一山吹&森薗風音

     教室に入った二人は目を見合せて肩を竦めた。

    「も~、なんなんだろこれ」
    「そうだねぇ、ま、楽しそうじゃないの」

     パキンと板チョコを一口齧り、気だるげに溢した風音に、山吹は飄々と返した。よくわからないまま部屋に入ってしまったが、脱出するには協力しなくてはいけないらしい。
     キョロキョロと教室内を見回し、脱出の手掛かりを探そうとする二人は、教卓に置かれているあるものを同時に見つけた。

    「何これ。納豆?」
    「納豆だね。それと……」

     ヒラリと山吹が机から取り上げたのは一枚の紙切れ。

    「えーっと? ここは『逆立ちして納豆を完食しないと出られない部屋』です。頑張ってください……だってさ」
    「はぁ~?」

     何それ意味わかんない! と言う風音を、山吹はまぁまぁと宥めながら納豆の容器を手に取った。ご丁寧に割り箸も用意されている。
     パキッと蓋を開けると、間違いなく新品未開封の納豆だとわかる。ちなみにスーパーで売ってる中でもちょっとお高めの納豆である。山吹は「ひゅう、おいしそ」なんて呟いて口笛を鳴らした。

    「別に何か仕込まれてる、とかじゃなさそうだね」
    「……ちょっとさぁ、ぶっきー」

     ピリッとした空気を纏って、風音が山吹に話しかけた。タレをかけて納豆をチャカチャカ混ぜながら、山吹は耳を傾ける。

    「黙って能力使おうなんて、俺に通じないの知ってるよね~」
    「……やっぱりバレた? さっすが風音くん」

     山吹が不自然にならないよう鳴らしたはずの音、能力発動のトリガーの第一段階。能力を使えれば風音にやってもらえると思っていたが、心を読む風音の能力の前ではそんな考えも丸裸同然だったようだ。

    「も~! どっちがやるかはちゃんと話し合って決めよ~よ」
    「ごめんごめん」

     ぷうっと頬を膨らませる風音に山吹は軽く謝って、机に準備のできた納豆を置いた。
     逆立ちして完食、ということはどちらかが逆立ちして、どちらかが食べさせなくてはならない。
    さて、ではどちらがこれを食べるかだが。

    「風音くん納豆食べれる?」
    「普通に食べれるけど~? 昔よく朝ごはんに出てたじゃん」
    「そうだった。じゃあ公平にじゃんけんしようか」

     能力は使わないでね、と念を押す山吹に風音がはいはいと答え、じゃんけんぽん、と出した手は。

    「ええ~!」
    「風音くんよろしくぅ!」

     握りこぶしと開いた手のひら。軍配は山吹の方に上がった。仕方ないな~、とぶつくさ言いながらも風音は壁に向かって軽々と逆立ちをする。

    「はい。頭に血上っちゃうから早くね~」
    「はいはい。いくよぉ」

     納豆を片手に山吹が風音の前にしゃがむ。よく混ぜられた納豆が糸を引き、はいあーん、と風音の口元に運ばれた。

    「ちょっ! 待って待って鼻に糸つくから! くっさ! ていうかさぁ、逆立ちしてたら飲み込めなくない?!」
    「大丈夫大丈夫。風音くんならいけるよ!」

     ぴゅう、と口笛を鳴らした山吹はずずいと納豆を風音の口に突っ込んだ。むぐむぐと咀嚼してなんとか飲み込んだ風音はぎゃあぎゃあと文句を言うが、山吹はどこ吹く風とばかりに次々納豆を風音の口に運んでいく。

    「ぶっきーズルい! この状態じゃ能力防ぎようない……むぐ」
    「頑張れ頑張れ! 風音くんならすぐ食べきれるよ」
    「んむ~~!!」

     山吹の能力によって逆さになった胃袋に気合いで納豆を送り込み、二人は見事逆立ちで納豆を完食することに成功した。
     カチャッと鍵が開く音がする。それと同時に、納豆責めにされた風音の怒りの拳が山吹のみぞおちに決まった。

    ◇◆◇

    ルーム2『暗闇でラジオ体操をやりきらなければ出られない部屋』一方井通行&薬ノ木三ツ葉

     二人が足を踏み入れた教室は、遮光カーテンが引かれ、光が入りそうな隙間も全て目貼りされた真っ暗な部屋だった。扉が閉まり鍵が掛けられると互いの顔もわからない。まぁ元々通行の顔は面布で隠されていてわからないのだが。

    「あの、よろしくお願いします。中等部一年の薬ノ木三ツ葉と申します」
    「ご丁寧にどうも~。僕は一方井通行といいます。よろしくお願いしますね、ミッちゃん」

     見えないながらも丁寧にお辞儀をした三ツ葉に、通行はかわいくニックネームで呼び掛けた。
     面布で顔を隠しているから怖そうな人かと思っていたが、意外といい人なのかもしれない。これならすぐに脱出できそう、と。そう思った三ツ葉のイメージは、この後わりとすぐにガラガラと崩れることになる。

    「真っ暗で何も見えませんね……何をしたらいいんでしょうか」
    「うーん、困りましたねぇ」

     手探りで教室を調べると他の教室と同じように机も椅子も配置してあるようだ。カツカツ、と通行が持っていた杖が机を叩く音がする。
     しかしこう暗くては脱出条件を探そうにもなかなか難しい。暗いせいですぐにぶつかってしまいそうになるし、二人はひとまず教室後ろのスペースに集まりどうするかを話そうとした。
     その時だ。突然教室のスピーカーがガガッと音を立てた。

    『ここは『暗闇でラジオ体操をやりきらないと出られない部屋』です』
    「あ、説明してくれてますね」
    「ラジオ体操……ってどんなのでしたっけ?」
    「え?」

     通行の一言で三ツ葉は一気に不安に襲われたが、脱出方法を説明する放送はそんなことには構いもせずに一方的に続いていく。

    『灯りになる物や能力は使用禁止です。互いや壁などにぶつかったらやり直しです。頑張ってください』
    「え、ぶつかったらやり直しって厳しいですね……」
    「この暗さじゃあ距離感も掴みづらいですしねぇ」

     とりあえずぶつからないように二人が距離をとろうとすると、説明を終えたスピーカーからはお馴染みのラジオ体操のメロディが流れ出した。
     始まっちゃった、と慌てて三ツ葉は曲に合わせて体を動かし始める。

    「いち、にっ……」

     早起きの兄に合わせてラジオ体操をよくしていた三ツ葉にとっては、いくら周りが暗くともこの課題は簡単だ。しかし。

    「肩から、頭? こうですかねぇ」

     少し離れた位置からする通行の声には不安が増すばかりである。一体どんな動きをしているのか、恐らく杖がヒュンと風を切る音がする。

    『ラジオ体操第二ーっ』
    「第二まであるんですか……?」
    「あらら、なんだかもっと難しそうですねぇ」

     楽しげな通行の声に、三ツ葉はもう恐怖すら抱いている。
     ひとまずちゃんと終わらせなければ、と。三ツ葉は気を取り直してスピーカーから流れるナレーションに集中した。

     最後の深呼吸を終え、スピーカーが一旦プツリと途切れた。うまく二人ともできていれば鍵が開くはずだが、その気配はない。

    「おやおやぁ? やっぱりちょっと違ってましたかね」
    「あ、つ、次! 頑張りましょう」

     すみませぇん、と謝る通行だが、下級生の三ツ葉がそれを咎めることはできない。
     しかし、暗闇で姿が見えなくては動きを教えることもできないし、ナレーションを聞きながら想像だけで正しく体操するのは無理があるのでは。
     三ツ葉がそう気付いたところで、再びラジオ体操のメロディがスピーカーから流れ出した。

    (あれ、これもしかして、ずっと出られないんじゃ……?)
    「さぁ、気を取り直して次いってみましょ~」

     こうして、地獄の無限ラジオ体操が幕を開けたのだった。

    ◇◆◇

    ルーム3『自分史上最大の大声を出さなければ出られない部屋』金剛虎丸&六野菫

     つかつかと教室に入る虎丸に続いて、菫はそーっとその後に続いた。いつもクラスでは賑やかだなぁとよく眺めているが、虎丸と二人で密室に入るとなると内心穏やかではいられないのが菫の正直な気持ちである。

    「チッ……腹減ってんのに、んだよこりゃよぉ!」

     ぐるりと部屋を見た虎丸は苛立ち紛れに戸口に蹴りを入れるが、能力によって封じられた扉はびくともしない。

    「ま、まぁまぁ金剛くん。とにかく出る手掛かりを探そ?」
    「あ? うるせぇな、俺に指図してんじゃねぇぞ」

     ギロリと睨む虎丸だが、よほどお腹が空いているのか舌打ち一つ落として座り込んでしまった。
     こっそりホッと息をつき、菫は何か脱出の糸口はないかと机の一つ一つを見て回る。すると教卓の上に一枚の紙が置いてあるのを見つけた。手に取りそれを読んで、菫はむぅと眉を寄せる。

    「ねぇ、金剛くん」
    「ああ?」

     見つけた紙を見せると、虎丸はまたチッと舌打ちをしたが、仕方なさそうに立ち上がった。

    「さっさと出て握り飯食うぞ。やらないと出られねぇんだろ、とっととやれ」
    「ええ……わ、わかったよ」

     優勝商品のおにぎりは欲しいんだ、と思ったが口に出さなかった菫は賢明である。
     二人が手にした紙にはこう書かれていた。
    「ここは『すっごい大声を出さなければ出られない部屋』です。自分史上最大の音量でお願いします」と。

    「わ、わああーー!」
    「ぬりぃ!!」

     大声、大声とは、と考えた菫が頑張って出した声は、虎丸のダメ出しに簡単に掻き消された。虎丸は心底呆れたように首を横に振って菫を見下ろす。

    「お前舐めてんのか?」
    「舐めてないです!」
    「んなぬりぃ発声で出られるわけねぇだろ! 腹から声出せぇ!」
    「は、はいっ!」

     ギンッと睨み付けられ、思わず敬語で返してしまった菫である。再度挑戦しようとすうっと息を吸い込んだが、なんとそこで早くも虎丸からのダメ出しが追加された。

    「ちげーよ、もっと足開け! 腰も少し落とせ! 腕は腰んとこに固定しろ!」
    「は、はいっ!」

     虎丸がする見本のようにまず姿勢を正す。まるで喧嘩でも始めそうな構えだが、虎丸の教えなので正に喧嘩の時の構えなのかもしれない。

    「んで腹筋に力入れろぉ! うおおおぉぉ!!!!」
    「うおおおぉぉ!!」
    「もっと声出せぇ! ゴラアァァァ!!!!!!」
    「うおおおぉぉ!!!!」

     もはや女子であることをかなぐり捨てた菫の雄叫びであるが、虎丸はまだ満足していないらしい。もっと、もっとだ! とさらに菫を煽り、菫もそれに応えるように声を出す。

    「ウオオオォォ!!!!」

     スウッと菫の瞳の色が変わっていく。するとゆらりと教室内の机が揺れ、ゆっくりと浮かびはじめた。

    「ウオオォ、おん? おい、おい六野ォ! 待て、能力止めろ!」
    「ウオオオォォ!!!!!!」

     ハッと気付いた虎丸が制止の声を上げるが遅かった。ふわふわと浮かんだ机達は一つの塊となり虎丸の頭上に集まっていく。菫は集中しているためか、雄叫びで聞こえないのか、虎丸の声を完全に無視している。

    「おい、おまっ……ふざけんな! 止めろぉ!」
    「ウオオオォォォォ!!!!!!!!」
    「うおおおああぁぁ!!!!!!!!」

     どごぉん! と机が落下したのと同時に、カチャッと鍵が開いた。我に返った菫は、床に頭を擦り付けんばかりに謝り、しばらくの間虎丸に料理部で作った料理を献上することを約束した。

    ◇◆◇

     潤が手に持っていた鍵が一本、フッと消えた。ドタンバタンと騒がしかった音も止んだし、どうやら誰かが脱出に成功したようだ。
     さて、一番に戻ってくるのは一体どの組か。

    ガラッ!

     勢いよくドアが開き、入ってきたのは。

    「オラァ! 握り飯よこせやゴラァ!」
    「うう、私は……私は一体何を……」

     オラつきながら迫ってくる金剛虎丸と、ずぅんと頭を抱える六野菫であった。

    「おめでとうございます。お二人が一番乗りです」
    「いいから飯よこせよ、オイ!」
    「ううう……」

     部屋で一体何があったのか。虎丸は妙に埃と擦り傷にまみれているし、菫は嘆き続けている。
     まぁとにかく優勝は優勝だ。潤は用意してあったおにぎりが山積みになった大皿を二人に差し出した。

    「今日のところはこれで。肉巻きおにぎりです」

     差し出すやいなや手を伸ばした虎丸は、パクリとそれなりに大きめのおにぎりを一口で食べてしまった。かたや菫は小さくいただきますと呟いてチマチマと食べている。

    「うめぇ! もっとよこせ!」
    「どうぞ。一週間こんな感じでおにぎり差し入れますね」

     一日十個まで、味のリクエストがあれば受け付けます、と。潤が優勝商品の説明をするが、二人は聞いているのかいないのか。
     そうこうしている内に二本目の鍵が消え、廊下を走る音が近付いてくる。

    「え~?! 嘘でしょ、あんなに頑張ったのに負けたの~?」
    「……」

     戻ってきたのは残念そうにため息をつく森薗風音とみぞおち辺りを押さえて無言の一山吹である。

    「お疲れ様でした。惜しかったですね」

     司会進行役を貫き、潤は敬語で丁寧に二人を迎えた。多分一番条件としては過酷な部屋だったと思うが、こうして脱出してきているのはさすがだ。

    「あ~あ、俺もおにぎり食べたかったな~」
    「……ボクは今いいかなぁ」

     こちらも一体何があったのか。唇を尖らせてそう言う風音とは反対に、山吹は腹を擦りながら弱々しい笑みを浮かべている。
     おにぎりを食べ終わった虎丸、菫と、風音、山吹には企画の協力に感謝を告げて解散した。さて残るは一組、なのだが。
     待てど暮らせど鍵は開かず、一時間ほど待ったところでタイムアップとして潤は自ら部屋を解錠した。

    「Unlock」

     鍵が消えてカチャッと鍵が開く音がする。ほどなくして暗い部屋から出てきた二人は。

    「うう~! よかった、もう出られないかと思いました……」
    「おや、もう時間切れですか? いや~もう少しで掴めそうな気がしたんですけどね~。残念です」

     ぜぇはぁと息を切らして、よろよろしている薬ノ木三ツ葉に続いて、いつもと何一つ変わらない様子で微笑む一方井通行。

    「いやぁラジオ体操って難しいですねぇ。僕にはちょぉっと難易度が高かったみたいです」
    「もうラジオ体操の曲聞きたくないですぅ……」

     約一時間半は部屋にいたことになるだろうか。延々繰り返されるラジオ体操は確かに嫌になるだろうな、と潤は主に三ツ葉に同情した。

    「……お疲れ様でした」

     労いの言葉を掛けると、三ツ葉は疲れているだろうに丁寧に頭を下げ、通行は「また面白いことがあったら教えてくださいね~」と楽しそうに帰っていった。





    第一回、脱出せよ! 出られない部屋大会in陽ノ月学園、結果

    一位、金剛虎丸&六野菫ペア
    二位、一山吹&森薗風音ペア
    リタイア、一方井通行&薬ノ木三ツ葉ペア
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