【カタバミ、合い食み】「…………ァ?」
池田が、花を吐いた
その日はたまたまポキが上で、その日はたまたま前戯が長くて、その日はたまたま池田が先にダウンした
勿論のこと、人体から花が出るなんて聞いたこともないし、見るのだって当たり前だが初めてだ
聞こうにもオちたせいで聞けないし、ポキ自身も割と限界が近かったのもあるから取り敢えず手に取って眺めてみた
白い花弁が5つ並んでいて、中心は少し黄色く道端に咲いているカタバミのような見た目をしている
(ン、マテよ。カタバミに似てるなら食えるのでは?)
普段なら思いつきもしないし、よく分からない植物を食べるなんて正気の沙汰でもない
それはそれとして池田から出てきたものだからまぁ食えるか
いざ行かん
……酸っぱ?!
「食べられなくはない、か……?」
どうしろってんだ、マジで
残りの花をベッドサイドに除け、睡眠
口内に池田の味が少し残っている
◇◆◇◆◇◆
さて、池田はまだ起きない訳だが依然として花はまだベッドサイドに存在している
夢じゃねぇな……
少々萎れたそれを横目に、ぐっすりすやすやと夢の世界で呑気に散歩をしている池田の頬をつつき、花びらが出ないか確認
どうやらもう出ないらしい
ムクリと体を起こして眉間を揉む
人体って訳が分かりませんなやっぱ
池田に布団をかけ、花を手に取りキッチンへ
浅い皿と青のマグカップに水を注ぎ、皿の方に花を浮かべてマグカップの方を飲み干す
互いの服を洗濯カゴに放り込み、軽くシャワーを済ませて清潔を保ったらまた新しいシャツと短パンを着用する
花は依然として皿の上で瑞々しく花開いている
(ここまで新鮮ならいっそ、サラダに添えるか……?)
脳内でカチャカチャとレシピを組み立てる
多少の蜜の味を伴ったカタバミは、水を吸ってたっぷりと水面に揺れていた
さて、兎にも角にも先ずは野菜だ
いっそここまで綺麗な花なら彩り鮮やかな方が見目にもよろしかろう
ベビーレタスをちぎって深めの器に貼り付け、作り置きしてあるポテトサラダを盛り付け、軽く塩胡椒を足す
新鮮なプチトマトをストンと半分にして添えるだけであっという間にポテトサラダだ
潤いがしっかりと蘇ったカタバミをちょんと乗せて仕舞えばあっという間に鮮やかに
冷蔵庫に常備してある冷凍食品の小さなカツレツを器に移してレンジにかけている間にインスタントの味噌汁とピンポン玉サイズのおにぎりを数個ほど用意する
至ってシンプルなメニューだ
「ん、んぁ………」
目をこすりながらふらりと池田が現れる
パッと見異常はなさそうだが
「おはよう。メシ作ったけど食うよな?」
「たべる……」
毛先の猫の耳のような部分が少し乱れて飛び跳ねている
寝起きか最中でしか見られない貴重な姿だ
気のせいか、濃厚な花の香りが池田から強く漂っているような気がする
ポキには何があったかはトんとわからんが、さりとて池田が日常に戻る手助けくらいならばマァできるでしょう
「とりあえず顔を洗ってこいそして服を着ろ」
池田の背中を押しながら洗面台がある方へ押しやる
近づくと、やはりあの花の香りが鼻腔をくすぐった
どうでもいいけどコイツ触り心地が柔らかいんだよな……
◇◆◇◆◇◆
「ん、池田の箸」
「サンキュ」
すっかり手慣れた仕草でポキと同じ長さの箸を手渡す
「ところでポク男、このサラダに乗ってる花なんだ?」
「お前から出た花」
「なんだって?」
誰だって聞き返す、ポキだって聞き返す
池田だって聞き返した
「え、何?俺から出た花をサラダに添えてるの??」
「そうだが」
池田はサラダをガン見し、ほおを抓っている
そのまま眉間に手を当てて親指でぐりぐりし始めた
「大丈夫か?一回病院行くか?」
「失礼な!ポキは年中健康優良児として名を馳せているんだぞ」
「肉体じゃなくって精神のだよバカ」
呆れ顔でため息をついた池田がとりあえず箸を手に取り手を合わせ、食事に手をつけようとする
「味は保証しますぞ」
「待って食ったのお前嘘じゃん」
「生食には丁度いい酸味でした」
池田に習い、ポキも手を合わせて食事を頂き始めた
「バカ!!!!!ポク男お前ほんとバッッッッカ!!!!!!!ポックル野郎!!!!!」
「食事の場で大声を出すのは礼儀が悪いですぞー」
器用にテーブルにうつ伏せながら叫ぶ池田は昨日あんなに声が出ていたとは思えないくらいに元気が有り余っているようだ
「ん、やはり思っていたとおりサラダ系と相性が抜群ですな」
「冷静にレビューすんじゃねぇよお前ぇ…………」
「マァそう言わずに、池田も食ってみ?」
渋々といった様子でサラダに口を付けた池田の表情が複雑ながらも黙々と箸が進んでいるのを見て、改めてポキも食事に集中するのであった