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    潰れたsを連れ帰るlのLS

    背中クラクラする頭をそのままに、サンジは薄く目を開けた。
    久しぶりにたどり着いた、活気のある島。売り言葉に買い言葉で始まった飲み勝負。ゾロと、あとは何人かの船乗りがいて、ゾロは途中から別のテーブルにいて……あれ、その後どうなったんだっけ。
    ぼんやりする頭では、いくら考えても無駄だった。ひとつわかるのは、今、誰かにおぶられているということ。
    顔を少し上げ、前を見てみる。まっすぐ船まで歩けているようだ。ということは、これはゾロ以外におぶられていることになる。
    顔を動かし、首筋に鼻先を擦り付けてみた。少しの汗の匂い。あとはお日様のような。ということはジンベエやブルックじゃない。フランキーも体格的におんぶは出来ないから、彼でもない。
    ならばウソップか?そんなことを考えながら、手を持ち上げて頭だろう場所を触ると、モサモサで硬い毛質ではなく、柔らかくてふわふわなものに触れた。
    あれ。チョッパーでもない。この触り心地はもしかして。
    「……るふぃ、か?」
    ろくに呂律の回らない口で言うと、サンジをおぶっている相手――ルフィがぴたりと足を止めた。
    顔が横を向きかけて、しかしすぐに止まり、また前を向く。あのまま横を向かれていたサンジの唇がルフィの頬にくっつきそうな近さだった。もしかすると酒臭かったかもしれない。
    「なんで……マリモは……?」
    「……。ゾロはまだ飲んでる。サンジ。飲みすぎだぞ」
    「るせ、うまい店だったんだよ……」
    そう、あそこは良い店だった。持ち上げていた顔をまたルフィの肩口へ戻し、鼻先を首筋に埋める。先程までごちゃついた匂いの中にいたからか、この船長の子供らしくも単純な匂いがやけに落ち着くように思えたから。
    「店はいって飲んでたらマリモが来てさ、そっから喧嘩になって飲み比べて、……ああ、なんか、俺のが先に酒が回って、介抱するからって奥のテーブル席に……あれ?そーだ、あのやろうどこだ……?」
    ゾロと飲み比べをしたことは何度かあるが、毎度つぶれて終わってしまう。それでもそこまで飲むことが楽しいからとふざけて始めた勝負は、周りの人間の煽りが加わり、いつもよりハイペースに進んだ気がする。
    足元が覚束なくなる程飲んだつもりはなかったが、途中から本当に頭がぐらぐらしてしまって、みかねた他の客に席を移動させてもらった記憶があった。カウンター席は転げて危ないだろうと。
    他の客に肩を貸されカウンターから降りる際、ゾロが「おい」と言ったが、指をさして「ああ助かる、あいつに介抱のセンスはねえ」と笑ったら、キレて度数の高い酒を追加していた。一気飲みするところは店全体が盛り上がって、そりゃあ良い雰囲気だった。
    そんなことをペラペラ話すと、ルフィがつまらなそうに「ふうん」と言った。ルフィは酒が好きじゃないから、飲みの場の話に興味がないのかもしれない。ならばと今度はゾロの話をしてやることにする。
    「前にマリモと飲み比べして、たぶんはじめてまけて、でも負けんの悔しくて無理に飲んでたらまじで、立てなくなるくらいになったこと、あってさ」
    「へえ」
    「そんときも、気づいたらおれァおぶられてて、それはマリモだったんだけど」
    「そうか」
    「もー、くせえしズカズカ歩くからゆれるしで、居心地さいあくで。二度寝できなくてもんくいってやろーとおもったけど、あれ船ぜんぜん着かなくね?て思って、しばらく目あけて見てたら、あいつ、まじで同じとこぐるぐるしてて」
    「ゾロは方向音痴だからな」
    「そー、ホンモノなんだよな、はじめて体験して、おれァもう我慢できなくて、ゾロの背中で爆笑してよ」
    「ゾロは怒りそうだ」
    「そりゃーキレたな、わはは!んでも、そんな、同じとこぐるぐるしたことなんてねえから、ほんっとおもしろくて、笑い止まんなくて……あまりにもおれが笑ってっから、あいつ余計キレて、おれのこと落として一人で帰ろうとしてさ」
    「ふうん」
    「でも真っ直ぐいきゃ船って道を、曲がってくんだよ!まじでどこ行く気なんだって!見えなくなってもおかしくて、ずっと笑ってて、だんだん酒も抜けてさぁ、適当な木に登って寝て、朝くらいに船戻ったんだよ。そしたらゾロまだいなくって!」
    「……ふははっ、サンジより先に歩いていったのに」
    「そう!もーおれは、ほんとおかしくて、あいつがくたびれて帰ってきたのが更におかしくって……飲み勝負に勝ったはずなのにおれがあいつの方向音痴笑いすぎたせいでさ、暫く拗ねてて、折角勝ったってのにぜんっぜんその話出さなくなって、」
    そう、だから、えっと。何が言いたかったんだっけ。
    言葉を止めたサンジが気になったのか、ルフィが少しだけ顔を横に向ける。起きていることをアピールするためにしがみつく腕の力を強めた。すると、ルフィはやっと、歩くのを再開した。
    「んー、ああ、そうだ」
    「うん?」
    歩き出したルフィの背中。心地よい揺れ。ああこれはまた眠ってしまうやつだ、と思うが、船長と二人きり、穏やかな時間が終わるのはもったいなくて、目を擦り付けて起きようとしてみる。勿論擦り付けるさきはルフィしかないが、まあ、こまめに風呂に入るやつじゃないので、多少涙やよだれが着いたところで構わないだろう。たぶん。
    「ルフィの背中は、あんしんするな、って」
    「安心?そうなのか?」
    「そう、ちゃんと連れてってくれるから……」
    ドラム王国でもそうだ。ルフィの背中に乗っていて、気づくと城にいた。ちゃんと連れていってくれた。
    きっと今日も、ちゃんと宿か船に連れていってくれるんだと思う。心配などせず、全てをまかせて大丈夫なのだ。
    もごもごと顔を埋めながら言ったが、この距離なのだしちゃんと聞こえているだろう。無言のルフィを急かすことなく、サンジは「でも」と続ける。
    「なんでルフィがいるんだ?さかばなんて、ふだん、寄り付かねえのに」
    「……なんか、行った方がいい気がして」
    「さかばに?」
    「ああ。行って良かったしな」
    「ふーん」
    そうなのか。でも、何か飲んだのかと聞くと、飲んでないという。何か食べたのかと聞いても、何も食べてないという。
    「そうかぁ、宿か船、ついたら、なんかつくるか?」
    ふわふわした口調でそう聞くも、ルフィはフルフルと首を振った。
    「いや、おれもうなんか、腹一杯だ」
    そうか。珍しいこともあるものだ。
    何もつくらなくていいと思ったら気が抜けて、今度こそ睡魔に負けてしまった。






    泥酔したサンジを背負ったルフィが船に帰ると、そこには船番のロビンがおり、芝の上で月を見ながらコーヒーを飲んでいるところだった。
    「おかえりなさい、ルフィ……珍しいわね。サンジと飲んでいたの?」
    ルフィはキョトンとしたあと、首を振って否定する。
    「ただいま。いいや、サンジと飲んでねえ。ゾロと飲み比べして潰れて、変なおっさんに手つけられそうだったから、持って帰ってきた」
    「そう。ご苦労様」
    「おう」
    ルフィはロビンの横にサンジを降ろし、更にその隣に座った。ロビンが水を持ってきつつ、スンと鼻をならす。
    「お酒の匂い。どれだけ飲んだのかしらね」
    「わかんねえ。おれが行った時には、もうぐでんぐでんだった」
    「明日、二日酔いにならないと良いけど」
    クスクス笑うロビン。ルフィがふぅと息を吐く。ロビンからもらった水を飲んでも、あまり調子は変わらないような気がする。
    「……わかりやすかったか?」
    伺うような目を向けられ、ロビンの大きな目が優しく細められた。
    「二人して顔が真っ赤だったから、お酒を飲んできたのかと思ったわ」
    カァ、と。ルフィの顔が更に赤くなったのは、ロビンだけが知っている。
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