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    peg

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    ひっそり酒盛りする⚔️と🕒
    最終的には⚔️🕒します

    カラスミ「おい、ゾロ」

    固い声に足を止めた。食事後のダイニング。珍しく今日はまだ、この男と喧嘩をしていない、そんな日。
    何かいちゃもんをつけてくるのかと片眉を上げる。しかし固い声を出した男、サンジは、仲間達が完全に席を外したことを確認すると、それでもゾロの耳元に顔を寄せ、

    「今夜……一人で、アクアリウムバーにいろ」

    と囁いた。意味もなくゾクリと首筋が栗毛立つ。青い一重の目が意味深に流し目を向けてきただけなのに。
    妙な感覚に頭をかきつつ、そしてこの妙な誘いに胸をざわつかせつつ、ゾロは「わかった」と頷いた。



    夜が更け、ゾロは言われた通り、アクアリウムバーにいた。一人で酒瓶をくわえ、ぼんやりと魚たちを眺める。
    あの魚はルフィが釣ったやつだ。あっちのタコはウソップが網ですくったやつ。そっちの小さい小魚は、チョッパーがうれしそうに見せにきたっけ。
    とりとめのないことを考えて時間を潰していると、やっと、夜食を出し終えたらしいサンジが降りてきた。目線だけを向ける。サンジは終始、人目を気にしている。

    「誰にも言っちゃいねえだろうな」
    「ああ。何のようだ」
    「……まあ待て。そう慌てんな」

    サンジはバーカウンターへゾロを呼ぶ。手に持っていた籠を置き、人差し指をゾロへ突き出した。人を指差すなと睨めば、それどころじゃないと睨み返される。

    「良いか。今日これから起こることは、おれとお前だけの秘密だ。約束しろ、約束バカ」
    「ああ?どういうこった」
    「良いから!はやくしろよ、人が来るかもしれねえ」
    「……」

    腑に落ちないが、とりあえず。ここは頷いておくのが良いだろう。
    ゾロは「わかった」と頷いた。そして約束した。これから起きることを口外しないと。
    すると、サンジは満足そうに鼻を鳴らし、籠に手を入れた。

    「……前の島で仕入れた魚に、偶然入ってたんだ……」

    こと、と、固い音を立てておかれたソレ。黄色いふたつの、丸みを帯びた、棒状の――

    「こりゃもしかして、カラスミ、か?」
    「そう……!やっぱりお前なら知ってたか!」

    っと、声がでかかったな。慌てて音量を落としたサンジが、掠れた小声で言う。

    「この前仕入れたボラに偶然状態の良いのが入ってて……カラスミにするには膜が破れてちゃいけねえんだ。でも店で売るときは鮮度を保つために内臓を抜くだろ?そんときに一緒に抜かれるか、残されてても傷が付いてたりして、今までは作れなかったんだ」
    「当たり前のことだが、作れるもんなんだな……」
    「おれもはじめて作ったから、まだ味は保証できねえけど。たぶん成功した」

    すげえ、とそのまま口に出せば、サンジが楽しそうに笑った。料理の話だけは機嫌良く話す男なのだ。

    「他の奴らに出そうにも、まだ味がわからねえし、つうかおれも正解を知らねえし。お前は食ったことあるだろ?」
    「ある」
    「だからさ、味見してほしいんだよ。酒のつまみにもなるって聞くしよ、ほら」

    ほら、と次に取り出されたのは上等な米の酒だった。ごくりとゾロの喉がなる。
    カラスミは珍味だ。好き嫌いがわかれるだろう。ちなみにゾロに限っては好物である。
    その、好物が。この男の手にかかり。上等な米の酒と合わさったら。

    「最高だな、てめえ」
    「へへっ、味見役に選ばれたこと、光栄に思えよ」
    「わかった」

    素直に頷くゾロに驚いた顔をされるが、今回ばかりは運が良いと言えた。選ばれて良かったと素直に思う。
    いそいそとカウンターに座ると、サンジが「酒に関しては素直だな」とぼやいたが、それでも機嫌良くグラスを取り出した。

    「カラスミ、コノワタ、いぶりがっこ、とかさ。ワノ国で話だけは聞いて、でも在庫がねえっつーんで食えなくて、気になってたんだ」
    「コノワタは……ナマコの腸か。あれも作れんのか?」
    「塩辛みたいなもんだろ?たぶんいけるけど、やっぱ見本っつーか、作る前に食べておくのが一番なんだよな。でもなかなか売ってねえの」
    「だろうな。あと売ってたとしてもたけえだろ」
    「ああ、らしいな……いぶりがっこはそうでもねえだろ?」
    「買ったことはねえが、おそらく……?燻製した大根だし」
    「燻製するにもチップがな……はぁ、買い物してえ」

    サンジはまな板と包丁を取り出すと、カラスミの表面を撫でる。どこから切るかを悩んでいるようだった。その間に、ゾロは籠の中を覗いてみた。中にはクリームチーズとクラッカーが入っている。

    「洋風の食い方だな」
    「ああ。チーズやクリームに合わせたのは食ったことあるから、ハズレねえとおもって」
    「なんだ、食ったことあるんじゃねえか」
    「いや、こういうのじゃなくて、んー……まあなんつーか、ちょっと違うやつだ。おれが食ったことあるのは」

    ふうん、カラスミにも種類があるのか。ゾロは適当に頷き、しかし米の酒を持ってきたからには、サンジはワノ国風の食べ方をしたいのではないかと思った。手を伸ばし、サンジから包丁を取る。サンジは存外あっさりとゾロに包丁を渡した。

    「カラスミは炙って食うんだ。厚さは……こんなもんだな」
    「炙る?」
    「そうだ」

    見本で一枚切ってみせると、サンジはプラス5枚程スライスした。その横で、ゾロは元々手にしていた米の酒をカラスミに塗る。

    「で、これを炙る」
    「へえ……上のコンロで炙ってくる」
    「おう」

    欠けた破片を指に付け、ペロリと舐める。うまい。つい目を見張った。
    カラスミは故郷で何度も食べたが、ここまで素材の味が活かされ、かつちょうど良い塩気のものはなかった気がする。やはりあの男の手にかかると、恐ろしいほどにうまくなる。
    少しして、サンジが早足で戻ってきた。小皿を差し出され、こんなもんかと聞かれたので、こんなもんだと頷く。

    「お前も座れ。食うんだろ」
    「食う。あ、酒も」
    「わかってる」

    サンジのグラスに酒を注ぎ、自分も少し考えてからグラスに酒を注ぎ。
    隣に腰かけたサンジを確認してから、黄色い欠片をつまみ上げ、口に放り込んだ。ぐいっと酒を煽り、声を上げる。

    「うっ……めえな!酒が進む!」
    「へえ、炙るとこうなんのか!うめえ、はー、なるほど……」

    籠からノートを取り出したサンジが、カラスミを少しずつ齧りながら、サラサラと文字を書き込んでいく。ゾロはその間に新しいカラスミをつまみ上げ、口の中に入れた。
    広がる香ばしさと旨味。続けて飲む米の酒のなんとうまいことか。
    上機嫌で飲んでいると、自分の分であろう三切れはすぐになくなってしまった。一度に大量に食べるものでもない。ペロリと唇を舐めて味を反芻していると、サンジが二切れ、ゾロの前に差し出した。

    「食わねえのか」
    「いや、食う。これは3切れで足りるうまさじゃねえ、追加でカットする」
    「はっ、同感だ」

    サンジは立ち上がり、またカラスミに包丁を差し入れた。ゾロは籠からクリームチーズを取り出し、切った端から落ちる破片を乗せて口に運ぶ。
    行儀が悪いこの行為も、二人きりでマナーもくそもないと思っているのか、サンジは特に咎めなかった。

    「あー、これは、やっぱコノワタも手出したくなるな。ナマコ取ってこさせるか」
    「ありゃ潜らねえと取れねえだろ、うめえ」
    「折角持ってきたんだからクラッカーも使えよ」
    「めんどくせえ」
    「ったく……」

    指に付いたクリームチーズを舐め取っていると、サンジがクラッカーにクリームチーズを乗せ、カラスミを乗せ、ゾロの前に差し出した。手で受け取ろうとしたが面倒なので、そのままぱくりと口で受け取る。
    ああ、とてもうまい。非常にうまい。クラッカーの塩気があるほうがうまい気がする。この男の言う通りの食べ方をする方が得だ、めんどうだけど。
    モグモグと租借していると、サンジがやけに静かなことに気がついた。見れば、そこにいない。立ち上がってカウンターの中を覗くと、なぜかしゃがみこんでいる。

    「なんだ、もう酒が回ったのか」
    「……ちげえよ、落としたんだ」
    「もったいねえことすんな」
    「うるせえ」

    立ち上がったサンジが手をすすぎ、またカラスミをカットする。ゾロは酒を飲みながら、時たまぱかりと口を開けた。あきれた顔のサンジが、クラッカー乗せやら、持ってきたバーナーで炙ったものやら、次々放り込んでくれる。これはいい食べ方だ、楽だしうまい。

    「なあ」
    「んだよ」

    自分の口にもカラスミを放り込んだサンジが、眉を寄せながらゾロを見る。はて、機嫌を損ねるようなことがあっただろうかと気になったが、それより言っておかねばならないことがあった。

    「このカラスミ、他の奴に出すなよ」
    「はあ?なんで」
    「また食おうぜ、こうやって、二人で」

    ゾロはこの時間が楽しかった。二人きりで酒をのみ、こっそりと珍しいものをつまむ時間が。なんとなくだが、またやりたいと、この時間が欲しいと思ったのだ。
    ゾロの提案は意外なものだったのか、サンジが目を見開く。そして柔らかく笑った。ゾロに向けるにしては、ずいぶん珍しい表情だ。
    なぜかまた胸がざわつき、外装の合わせ目をさわるが、理由は良くわからない。

    「じゃあ、次はお前も、なんか持ってこいよ」
    「なんか?」
    「そう。おればっか準備してちゃ割に合わねえだろ」

    ソレも自腹なんだぜ、と指をさされたのは上等な米の酒で、やけに良いものを出されたと思ったら、ポケットマネーだったらしい。それは確かに、ゾロも何かしらを持ってこなければ不公平だろう。

    「わかった。その代わり、おれの好みになるからな」
    「はは、別にそれで構わねえよ」

    酒を煽り、動きを止める。サンジを見るが、サンジは何食わぬ顔でカラスミを炙っているところだった。

    「ほら口開けろ」
    「んあ」

    放り込まれたものを咀嚼しながら考える。
    はて、今、「それが知りたいんだから」なんてことを言われた気がしたが、気のせいだっただろうか。

    そうじゃなかったら良い、なんて、柄じゃないことを思った。
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