#1.1 暗がりの光拍手の中。中央を示すバミりの元へ足早に歩みを進めて、深くレヴェランスをする。
更に大きくなった拍手や歓声に自然と笑みが溢れ、真直ぐ顔をあげた。
称賛は暫く収まらなかった。隣にアルブレヒト役のダンサーがやってきて、いのりは彼と共にもう一度レヴェランスをしてから振り返り、壇上のメンバー達に微笑んで拍手を送った。
ロマンティック・バレエ『ジゼル』の公演が終わった。
ジゼルは所属団の芸術監督もプリンシパルを差し置いていのりへ主役を託す演目だった。
着替える暇すらなく挨拶や見送りをしていたいのりだったが、打ち上げは後日、と今は多くのスタッフが既に帰路についたらしく舞台裏は静けさに包まれている。
一人の楽屋に戻ると強い花の香りがした。バレエダンサーへの差し入れは花が多い。
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