「アズくんは何か趣味ある?」
「えぇ、入間様史を綴ることです」
「えーっと他には?」
「入間様がお食事しているところを拝見することです」
「僕の事以外!」
ないですね、と言われてしまってはう〜と唸ることしかできない。なぜこんなことを聞いたのか、特に理由はないがアリスの趣味が入間に関することしかなかったとは思わなかった。アリスはよくわからないことをするがそれは入間にとって悪い気はしないし、正直にいうと入間も嬉しいので良いのだけれども......
「じゃあ、僕がアズくんの新しい趣味見つけるよ!」
「私の新しい趣味、ですか......?」
アリスはよくわからないといった顔をするが、入間のことに関する趣味しかないことの方がよくわからない。
「うん! ほかにアズくんがハマりそうな趣味あるかもしれないでしょ!」
「入間様に関わること以外の趣味がなにかあるのでしょうか......」
「そうだなぁ、アズくんって結構継続してできるからテラリウムとかどうかなぁ」
「てらりうむ......ですか?」
そうか、悪魔は飽き性だからそういうのはないのかもしれない。入間はそう判断するとアリスにテラリウムというものがどういうものか説明した。入間はやったことはないが、テラリウムの専門店でアルバイトをしたことがあったため知識はあるのだ。
「植物をガラスの中で育てて霧吹きを二週間に一度かけるのですね......なかなか興味あります! 入間様はやはり博識なのですね! ぜひ教えてください!」
――数年後
白い光がカーテンの隙間から差し込んでとても眩しい。入間は二人寝ることができる天蓋付きのベッドでもぞもぞと居るはずの温もりに触れようとするが、誰もいない。もう先に起きたのか、と自分も起き上がると入間が探していた愛しい悪魔は窓際の低い棚に置かれているガラス瓶に霧吹きをかけている。たしか、あれは......
「アズくん、まだやってたんだねそれ」
アリスは長い髪をなびかせて振り向くとおはようございます入間様、と美しい微笑みを浮かべた。入間はそのガラス瓶を肩越しに覗く。
「えぇ、入間様に教えていただいてから続けていますよ。このテラリウムというのは心を落ち着かせてくれるようで」
「そっか、よかった。僕のこと以外の趣味もできたんだね」
学生の頃はアリスに別の趣味を勧めたことに特に理由はなかったが、今は勧めてよかったなと入間は思う。人間と悪魔が一夜を共にし愛を誓えば生も死も共にするための契りが結ばれ、寿命に関する問題はなんとかなったが。魔王になってから入間は遠征が増え、日帰りもあれば泊りがけで行くこともあるためアリスと共にいることができないことがある。それではアリスに寂しい思いをさせてしまうと思ったが、別の趣味で気を紛らわせられるので良かった。まぁ、自分のことを考えないときがあるのはちょっと嫌だが。
「いえ、勘違いをしていらっしゃるようですが、このテラリウムを知ったのは入間様が教えてくださったことがきっかけですよ。これは入間様との思い出の一部なのでより大切にしなければなりません」
ずるい、ずるすぎる。この悪魔はかわいすぎてずるい!
朝になったばかりなのに昨日の夜の続きをしたくなるのは自分のせいだろうか、いや、この美しいピンク色の長い髪をもつ悪魔が平気でそんなことをいうのだから仕方ないだろう。
「うん......そうだね......」
入間はアリスの腰に後ろから腕を回しながら熱のこもった声でそう囁いた。