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    Sdat07

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    Sdat07

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    ふと頭の中に思いついたのを書き出した小説の顔したメモ書きです。

    一応ピク

    稚拙な文章、超展開色々ありますので、ご注意ください。

    パーペチュアルチェックの終わりは呆気なく 「隊長、チェスできるんですか?」

     「すごい上手い奴がいるんだ。そいつに教えてもらった。勝てたのは一回ポッキリだけどな」

    ***

    「チェス、しませんか?」

    ピアーズが唐突にそう問いかけてきた。
    空がすっかり夜の帳を降ろした頃、暖色の光が照らすリビングのソファーに腰掛け微睡んでいた時のことだった。どうやら以前の休暇で実家に帰省した時にチェスを見つけたらしい。ピアーズ の大きくたくましい手に掴まれているチェス盤は所々傷ができており、年季を感じる。

    「俺は、遠慮するよ。そういう頭を使うものは苦手なんだ。それにルールもよく分からない」

    「大丈夫です。俺が教えますから。とりあえず一回やってみましょうよ。ね、いいでしょう?クリス」

    チェスなんてほとんどやった事がない。大昔にクレアと一度遊んで「兄さん下手すぎ」と言われてしまった時以来だ。ここで断ることは容易だが、なんだか俺はこいつとプレイしたい気持ちが不思議と湧いてきた。その理由はこんなに必死に説得しているのが可愛らしく感じたことと、不思議と二人の時間が貴重なものになる感じがしたからだ。

    「一回だけだぞ」

    「ありがとうございます。クリス」

    俺はソファから腰を上げて、すぐ近くにあるダイニングテーブルに移動した。 ピアーズはチェス盤をテーブルに置き、木製の箱から駒を取り出すと、慣れた手つきでそれを盤の上に整列させていく。

    「さぁ、準備完了です。簡単にルール説明しますね」

    ピアーズの説明は懇切丁寧で、とても分かりやすかった。言ってしまえば自分のキングを守りつつ、相手のキングをチェックメイトさせれば勝ちだ。
    そのためには、ポーン、ルーク、ナイト、ビショップ、クイーン、そしてキングの駒を巧みに扱わなければいけない。俺の駒は白色。つまりは先攻だ。きっと初心者だからと気を使ってくれたのだろう。俺は時たま駒の動かせる範囲を聞きつつあたふたしながらもゲームを進めていった。

    「おー。そう来ますか。うーんどうしようかな」

    始める前から分かってはいたが、ピアーズは強かった。何手先のことまで予測し、部下の駒に指示を出す。考えていること全てが見透かされているような気がした。俺の駒は次々と倒れていきあっという間に窮地に立たされた。

    「チェック! さて、どうしますか。クリス」

    にんまりとした表情、まるで子供の相手をする親のような雰囲気でそう言ってきた。チェック。つまり次の一手で俺のキングは詰むということだ。

    「あんたができることは三つある。一つ目はキングが安全なところへ逃げること。二つ目は他の駒がキングを庇うこと。三つ目は果敢に立ち向かって相手の駒を討つこと。さあ、選んでください」

    悩んだ末に俺はキングを襲ってきた駒から逃がした。

    「チェックメイト。残念でした」

    ピアーズは少し奥の方に潜んでいたクイーンの駒を移動させて俺のキングを討った。

    「今の、あそこのルークで討つべきでしたね」


    「……もう一回だ」

     年甲斐にもなく少しムキになって再戦を申し出る。ピアーズはキョトンとした後に微笑んでそれを快諾した。

    「何度でも相手になりますよ」

    ***

     初めてピアーズとチェスをしてから二ヶ月ほどが経過し、いつの間にか一緒にチェスをすることが毎日のルーティーンになり、任務で家を空ける日を除いて一日に一戦するようになった。俺が勝てたことはまだ一回もないが、少しは上達してきている実感がある。ピアーズも「ここまでハマってくれるとは思いませんでしたよ」と言うぐらいには熱中していた。本当のことを言えば、チェスのプレイ自体よりかは、お互いが一つのことに集中する時間そのものが楽しかった。だから何度負けたとしてもつまらないとは思わなかった。そんなことは恥ずかしくて言えるはずもなく、当たり障りのない理由でそれとなく誤魔化した。

     「本当、最初の頃に比べるとすごく上手くなりましたね。もう高みの見物できないな」


     「……まだ一回も勝ててないけどな」

     頬杖をつきながら、じっくりと戦況を読む。縦横八マスの戦地で俺は指揮をとる。できるだけ少ない犠牲で相手を討つ手立てと守備を同時に思考する。こういう状況だとどう駒を動かすのか、先の未来を予測して駒を動かす。ピアーズも最初の頃よりも長考するようになった。俺のレベルが上がってきた証拠なのならば少し嬉しいと思う。

     「これは、マズイな」

     アイツが初めて弱音を吐いた。戦況は俺が有利な状況で、駒の配置的にもピアーズが勝利することは不可能な状況だった。ピアーズは頬をさすりながらひたすら盤上を見続ける。アイツが頬をさすっているのは大概焦っている時だ。なかなか良いものを見れて少し得した気分であるのと同時に、年相応の可愛らしさを感じられて幸せな気分だった。

     「やっとお前に勝てそうだ」

     「……油断は禁物ですよ」

     先程までの焦りの表情が消えて、いつもの少し余裕そうな表情に戻った。そしてピアーズはビショップを移動させると、それの攻撃範囲に俺のキングが入ってしまった。チェックだ。俺はすかさずキングを移動させチェックメイトを回避する。しかし次の手でピアーズがルークを動かすとまたチェックされた。

     「……」

     テーブルに置いてあったワインを一口飲みつつ、俺は盤面を見て悟った。ここでルークから逃げたとしても次の手でまたルークがチェックをかけてくる。つまり。

    「パーペチュアルチェック、引き分けですね」

     パーペチュアルチェック。永遠にチェックが続く状態で、いつまで経ってもゲームが終わらない状態。強制的に引き分けにする上級テクニックらしい。

    「引き分けか……」

    「ええ。どうでした俺の演技、焦ってる感じ出てましたかね?」

    生意気な口をたたく目の前の恋人に思わず笑みをこぼす。グラスに残ったワインを一気に飲んで、次こそは「降参です」といわせてやろうなんて考えながら駒を片付ける。

    「この勝負次の休みまで持ち越しですね」

    「ああ。イドニアから帰ってきたら、今度こそ勝たせてもらう」

    「期待してます。隊長」

     木箱の中、チェスの駒はしばらく眠りについて、次の対局を待つ。

    ***

     目を覚ますと空はすっかり白んでいた。どうやらソファーで眠ってしまったらしい。全身がだるく体を起こすことさえ億劫に感じる。目の前にあるローテーブルに置いてあるテレビのリモコンをつけて、朝のニュースを真剣に見るわけでもなくどちらかというとBGM代わりに垂れ流し、体を起こして洗面台へと向かう。

     『八月十二日、突如発生したバイオテロは、昨晩完全に鎮圧したと国連が……』

    洗面台までの道中で脱ぎ散らかしていた洗濯物を洗濯機に入れる。アイツなら色のついてる服と白い服は分けたり、刺激に弱い素材は洗濯ネットに入れたりしただろうが、そこまでの余裕は俺にはなく、乱雑に放り入れた。洗剤も目分量。洗えたらそれでいい。流れで隣の洗面台で顔を洗う。鏡に映る自分は、連日続く不眠によってできた青クマ、何日も整えていない、伸び切った髭、側から見たら「この人、何かあったのだろうか」と勘づくような顔をしていた。二本ある歯ブラシのうち、青い方を手に取り歯を磨く。もう片方の歯ブラシはもう使うことはない。そろそろ処分しないといけないと思いつつもどうしても出来ない。口に歯ブラシを咥えたままリビングのソファーへ戻る。正直、この部屋にいることが辛くて仕方がなく、自分の中ではもう受け入れたつもりだが、この部屋の全てにアイツの思い出が詰まっていて、過去が俺の心に棘を刺してくる感覚がする。一人になってしまったから、余計に2LDKは広すぎるなと感じた。

     【部屋どうこうよりも、休暇だからってちょっとだらけ過ぎなんじゃないですか。隊長】

     聞き覚えのある声がして、咄嗟に振り返った。自分の目と耳を疑った。驚きのあまり口から歯磨き粉とよだれが混ざったものをこぼしてしまう。とうとう俺はおかしくなってしまったのだろうか?

     「あーあ! ソファーにシミが出来るでしょう。ほらすぐに拭いて!」

     混乱する頭をどうにか動かして、アイツ? の言うとおりに濡れタオルで汚したところを拭き上げ、その後もアイツの言うようにビールの瓶や細かいゴミを捨てたり、溜めに溜めた食器類を洗ったりした。こんなこと起こり得ないのに、朝から掃除なんて疲れるのに、気分はどこか夢心地だった。

     「いやー。綺麗になりましたね。やっぱり部屋が綺麗だと気分も違うでしょう?」

     「あ……いや、その通りでは、あるんだが、お前は、その」

     しどろもどろとはまさにこのことで、非現実なことの連続で頭が処理しきれず、上手く言葉が紡げない。

     「あ、幻覚とかそういう類では、いや実質幻覚みたいなものなのかな……」

     ピアーズ曰く、気がつくとこの家にいたようで、何度も俺に干渉しようとしていたらしい。実体は持っておらず、エネルギーの塊……言うなれば霊体に近い存在になったそうだ。

     「やっぱりあれが心残りなのかも」

     ピアーズが指を刺した先には、チェス盤とその駒があった。埃をかぶっていてパッと見てもしばらく使われていなかったことがわかる。それは一人でに宙に浮いてピアーズの手元で静止する。「ポルターガイストって本当なんだな」と呟いて、どこか得意げな表情を浮かべていたかと思うと、俺に目線を合わせて呟く。

     「あの時の約束、まだでしたよね。 俺と最後の勝負、してくれますか?」

    ***

     俺はソファから重い腰を上げて、すぐ近くにあるダイニングテーブルに移動した。 ピアーズはチェス盤をテーブルに置き、木製の箱から駒を取り出すと、慣れた手つきでそれを盤の上に整列させていく。駒たちは再び目を覚ました。

    「さぁ、準備完了です。簡単にルール……はもう説明しなくても大丈夫か」

     そう言うピアーズの顔は微笑みながらもどこか寂しそうで切なげだった。縦横八マスの戦場に、それぞれの駒が隊列を組んでいる。

     「じゃあクリスが先……」

     「俺が後攻でいい」

     ピアーズはキョトンとした後に微笑んでそれを快諾した。お互いがポーンを前に進めていく。朝日が差し込む少し大きめの部屋に陽の暖かく心地良い光が差し込む。駒と盤が重なる音が切なく響いて消える。

     「これが終わったら、お前はいなくなってしまうのか」

     「ええ。多分。俺の心残りといったこれぐらいですから」

     手元だけしか見ることができなかった。今顔を見てしまうと、なんだか得体の知れないよどみが目から溢れ出してきてしまいそうで。これが最後なら一秒でもその顔を見ておくべきなのに、どうしても直視できなかった。ポーンを取られるたびに、ポーンを取るたびに【終わり】が近づいていく実感が喉の奥を締め上げてくる。後悔はしたくなかったから俺は口を開いた。

     「ピアーズ。本当はな、チェスにハマったんじゃなくて、お前と一緒に同じことをするのが楽しかったんだ」

     黒のルークが白のナイトを討つ。

     「得意げに笑うお前を見ているのが好きだった」

     白のクイーンが黒のクイーンを討つ。

     「お前との時間が好きだった」

     手に温かい感覚を覚えた。ほんのりと透けた手が俺の手を包んで。この温みがすごく懐かしく、それでいて頼もしく感じる。それは俺の顎を持って、顔を上へと向けさせた。そこにはあの時から変わっていないアイツの微笑みがあった。

     「俺もですよ。クリス。本当はチェスじゃなくてもよかった。あんたと楽しめればなんだってよかったんだ」

     「アンタの悩んでる顔、ちょっとムキになってる顔、負けた時の顔を見るのが幸せだった」

     黒のビショップが白のルークを討つ。盤上の戦いは、いよいよ終局を迎えようとしていて、それは彼との別れでもある。きっとこんなに虚しいゲームは最初で最後だろう。そう考えた瞬間に一つの駒に目をつけた。七列目にいるポーンだ。俺は、それを八列目に動かすと、クイーンの駒に置き換えた。

     「プロポーション。いつのまに覚えたんですか」

     「自主練、してたからな。チェックだ」

     さあ、どう出る。ピアーズ。にんまりとした表情、アイツはまるで子供の相手をする親のような雰囲気で俺に説いて来た。

     「クリス、チェスはね、パスできないんです。だから必ず決めてくださいね」

     刹那的な出来事だった。ピアーズはキングのコマを横にずらしただけで、それは一言で言うと悪手。それでは先程のクイーンにやられてしまう。まだピアーズにはキャスリングなど回避する方法などいくらでもあったはずだ。一分一秒でもお前とすごしていたい、その気持ちは同じはずだろう?

     「隊長は俺にとってのキングだ。だから守れたことを誇りに思っているし、後悔もしていない」

     「だから生き残ったアンタは【三つ目】を目指してほしい」

     「クリス、アンタの口から聞きたいんだ。もう時間がない」

    ピアーズは強かった。何手先のことまで予測し部下の駒に指示を出す。考えていること全てが見透かされているような気がした。そんな奴にこれを言う日がこんなにも早く来るとは思いもしなかった。それが俺のレベルが上がってきた証拠なのならば少し切ないと思う。

    「チェックメイトだ。ピアーズ」

    「降参です。クリス、おめでとう。いい笑顔ですね」

    ***

     結局なぜあんなことがが起こったのか、なぜわざとアイツは負けたのか、理由はわからなかった。あれは幻覚だったのかも知れないし、夢だったのかも知れない。なぜ最後に笑えたのか分からなかった。ただ、見えるもの触れるもの全てに現実味のなかったあのモラトリアムな時間が尊く暖かいものだったことは確かだ。
     
     「チェスでもしてみないか?」

     かなり年季のはいったチェス盤と木箱を持って懇親会に参加した部下に問いかける。

     「隊長、チェスできるんですか?」

     「すごい上手い奴がいるんだ。そいつに教えてもらった。勝てたのは一回ポッキリだけどな」

      木箱の中、チェスの駒は次の対局を待つ。
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