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    あおたに。

    十二国記(臥英)メイン。現パロなんかも書いてます。

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    あおたに。

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    小説をあげられると知って、テスト代わりに一つ。常世の臥英(付き合ってないけど)。これの続きの話を本にしたいなーなんて思ってます。

    ##臥英

    昔の話 英章――、と巌趙に呼び止められたのは、騎房に騎獣を預け、戻ってきたときのことだった。
     内乱制圧に尽力した禁軍左軍が鴻基に凱旋したとして、王宮内にはどこか浮かれた空気が漂っている。今宵は宴だな、なんて声もあちらこちらで囁かれていて、英章は辟易する気持ちを隠すことなく、不機嫌な顔で巌趙の方を振り返った。
    「なんです」
    「お前、臥信を見なかったか」
    「私は今戻ったばかりですが」
    「そうか。なら――」
    「嫌です」
     続く言葉を待たずに言えば、巌趙は開いた口をいったん閉じて、それから何が面白いのか、からりと笑って「そうは言うなよ」と肩を叩いてきた。
    「臥信がいないんだ」
    「それはもう聞きました」
    「なら、わかるだろう?」
     にやりと笑う巌趙が肩を抱いてくる。重いです、と間髪入れずに文句を言えば、もう一つ楽しげに笑われた。そうしてさらにのしかかられて、英章は舌打ちするのを我慢しながら、肘で巌趙を押し返した――が、巌のようなその身体はぴくりとも動かず、笑う顔にも変化がない。
    「……そのうち戻ってくるでしょうに」
     とうとう溜息まじりにそう告げるが、巌趙はそれを良しとしなかった。
    「そういうわけにもいかんのだ。主上が主だった者たちを集め、労いたいとおっしゃっている」
    「そんなの、驍宗様と貴方と――あとは霜元あたりがいけば間に合うのでは?」
    「それだと頭数が足りないだろうが」
     いくら軍事に興味がなくとも、師帥が何人出陣したのかくらいはご存じだぞ、と囁かれ、英章は小さくそっぽを向いた。
    「面倒くさい……」
    「お、ついに本音が漏れ出たか。――が、仕方がないだろう。お前にしかあいつは見つけられんのだ」
     背中を大きく叩かれて、英章は一瞬息を詰めた。痛い、と文句を言ったところでどうせ改善されることはないので、ここも黙って我慢しておく。すると巌趙は満足したのか、軽やかな足取りで立ち去っていった。
    「まったく……」
     残された英章は苦虫を噛み潰したような顔をしながら巌趙の背中を睨みつけ、それから視線を空へと向けた。腹立たしさは残っているが、それはそれ、驍宗に迷惑がかかるとなれば話は別だ。
    「まあ――代価は追々あいつに支払わせるとしよう」
     英章は小さく鼻を鳴らすと、風下に向かって歩いて行った。

     白圭宮には大小様々な建物が建っている。正寝を中心とした宮殿群は言わずもがな、少し離れた園林にも意匠を凝らした四阿や閣亭が設えられていた。
     そんな中を英章は時折足を止めながら進んでいく。空を見上げて風を読み、注意深く周りを見回しながら歩いて行けば、それはほどなくして見つかった。
     もう一度周囲を窺うが、人の気配は感じられない。けれどもそこには踏みしめられた草の跡が残っていた。
     まったく――と。
     英章は内心で独り言ち、迷うことなく歩いて行く。そうして数百歩ほど進んだ先に、それは無造作に落ちていた。
    「――臥信」
     声を掛ければ、彼はぴくりと指先を動かした。しかしそれ以上の反応はない。辺りに脱ぎ捨てられた皮甲をまたいで近づけば、ようやく「はあ」と大きな溜息が零された。
    「……どうして毎回見つかるのかなあ」
    「隠れるのが下手だからだろうね」
    「そんなにひどい?」
    「ああ、ひどいね」
     にべもなく言って臥信を見下ろす。
    「今度はどこだ」
    「……右脇の下」
    「それはまた珍奇なところを怪我したものだ」
     冷たく言い放てば、臥信はちらりと笑みを浮かべた。よくよく見れば、右脇の下に茶褐色の染みが出来ている。
    「手当はしたのか」
    「うっかり証博にばれそうになったので」
    と、そういう割に臥信の動きは鈍かった。英章が近づいても起き上がろうとしないところがその証左だ。フンと小さく鼻を鳴らせば、淡い苦笑が返される。
    「そういえば、昨日はやたらと動き回っていたな」
    「バレてました?」
    「その前からすでに、ね」
     言いながら側に腰を下せば、臥信はようやく観念したのか身体を起こした。
    「見せろ」
    「はい」
     素直に片肌を脱いだ臥信の身体にはあちらこちらに薄い傷跡が残っている。その一つ一つの来歴は知らないし興味もないが、その中のいくつかは、英章が手づから手当てをしてやったものもあった。
    「化膿している」
    「でしょうねぇ」
     のんびりと告げる臥信の額にはうっすらと汗が浮いている。どうやら熱も出ているらしい。まったく愚かだ、と思った瞬間、口から「莫迦が」と小さな呟きが零れ落ちていた。
    「ひどいなぁ」
    「お前の頭の方が酷いだろう。何度言っても学習しない」
     吐き捨てながら、英章は懐から膏薬を取り出した。
    「毎回毎回、お前を探す私の身にもなってみろ」
    「なんでしたっけ……『臥信がいない』、でしたっけ」
    「まったく誰も彼もが……私は小間使いじゃないんだぞ」
     言いながら処置を施していく。時折薬がしみるのか、臥信の筋肉が小さく震えた。臥信はいつも怪我をするとそれを隠そうと無茶をする。そうしてやたらと動き回って――とうとう無理がきかなくなるとふらりと姿を消すのだった。
     まるで野生の獣のようだ、と思う。
     誰にも行き先を告げることなく、悟られぬように隠れる臥信を見つけたのはほんの偶然のことだった。それからずっと、弱った臥信を探し出すのは英章の役目になっている。
    「痛いです……」
    「だったら怪我などしなければいい」
     おおよそ、兵士をかばっての傷だろう。自分は仙だから、というのがいつもの臥信の口癖だった。
    「私なら、そんなに簡単には死にませんから」
    「それでも、だ」
     包帯を巻いて、最後にペシリと叩いてやれば、ようやく彼は悲鳴を上げた。
    「痛い!」
    「煩い。主上がおよびだ」
    「褒めてくれてもいいのに」
    「だから今からその『お褒めの言葉』を貰いに行くんだよ」
     遅れたら驍宗に迷惑がかかるだろう、と吐き捨てれば、臥信は苦笑を浮かべながら「わかってるくせに」と呟いた。
    「驍宗様の兵を減らさずにすんだんです」
    「……それで将が落ちたら意味がないだろう」
    「落ちませんよ」
     少なくとも戦場ではね――と微笑む男が憎らしい。もう一つ殴ってやろうかと振り返れば、臥信はひらりと身をかわしてさっさと皮甲を身につけ始めた。
    「無茶をしたらまた開くよ」
    「もう、早々無茶はしませんよ。鴻基に帰ってきましたしね」
    「……酒もしばらくは控えるんだね」
    「気をつけます」
     身支度を整えた臥信が戻ろうと言って促してくる。その背を追って、英章は小さく溜息を吐いた。
    (まったく面倒な……)
     本当は――臥信が本気を出したとしたら、驍宗であっても容易く見つけられないだろう、と英章は密かに思っている。やると決めたら徹底的に痕跡を消して、存在すらもあやふやなものにしてしまう。そんな男が――。
    (…………いや、)
     英章は考えて頭を振った。これはただの推測に過ぎない。だから、自分が気にするとこなどなにもないのだと言い聞かせる。
    「どうしました?」
     臥信が足を止め振り返る。それに英章は、何でもないと返事して、再び足を動かし始めた。



     
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