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    CQUEEN57235332

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    切島くん夢

    #hrak夢

    11.猛れ文化祭頭の中の未来フィルム.11
    「……サー・ナイトアイが、死んだ……?」
     愕然とした。憂無はだらりと腕を下ろし、携帯を落とす。
     『最高の相棒(サイドキック)』が……憧れの人が……死んだ。死んだ。死んだ。
     携帯を拾い、震える手で赤革手帳に書き出す。憂無は震える声で応答した。死穢八斎會への突入は鋭児郎も怪我をしたらしく、憂無は病院へと向かう。鋭児郎は包帯でぐるぐる巻きのミイラのようになっていたが、元気そうだった。
     そして──葬式当日。憂無は制服を着るとオールマイトと相澤の引率の元、インターン組と共に向かう。
    「憂無!? なんで……」
     と鋭児郎。憂無は言う。
    「昔……ナイトアイと関わりがあって……それで」
    「……そっか」
     憂無は両手を握り締め、落ち着かない様子だった。そんな彼女に鋭児郎は落ち着かせるように肩をさする。葬式後、憂無は口をきゅっと引き締めた。雄英に帰って来てベンチに一人ぼうっと座っていると鋭児郎が来て言う。
    「……どうした?」
    「………………不思議だよね」
     ぽつり、語り出す。
    「恩人が亡くなったっていうのに……これっぽっちも悲しくないんだ」
     涙すら出ない。
    「薄情なのかな、私」
     憂無は言った。その表情はとても傷付いているようで、寂しそうなもの。鋭児郎はすぐに察した。彼女の『個性』の副作用の所為だと。鋭児郎は黙って憂無を抱き締める。
    「おめーは薄情なんかじゃねえ!!」
     憂無は微動だにせず言う。
    「鋭児郎は……わかんないよ」
    「そりゃ一〇〇%わかる訳じゃねェよ……でもよ……現におめー、今」
     めちゃくちゃ傷付いた顔してるじゃねェか……!!
     その言葉がトリガーとなったのか、憂無の目からぼろぼろと涙が溢れ出す。
    「つっ……うぅ……っ……!!」
     涙が鋭児郎の肩を濡らした。憂無は鋭児郎の背に手を回して声を上げて泣く。それは哀悼であり、純然たる彼女の悲しみだった。
    「…………落ち着いたか?」
     憂無はこくりと頷く。鋭児郎はハンカチを取り出すと優しく憂無の目元を拭ってやった。憂無は俯いて言う。
    「………………ごめん」
    「なんで謝るんだよ。良いんだぜ、こういう時くらい俺に頼れ!」
     憂無は顔を上げると目を細めるだけの笑い方をして言う。
    「ありがとう」
     目元は赤いが涙は引いたようだった。鋭児郎は憂無に手を差し伸べ、言う。
    「じゃあ寮へ戻ろうぜ。送ってくから」
    「……うん」
     手と手。指と指を絡めるように手を繋ぐとA組の寮の前を通り過ぎ──る時、目敏く上鳴が二人を見つける。
    「切島に前宮ー! 何して………………アァ!?」
     突如、上鳴が大声を上げた。鋭児郎と憂無はどうしたのかと上鳴を見る。上鳴はわなわなと体を震わせて言う。
    「あー!! 泣かせた!! 前宮泣かせたな切島この野郎!!」
    「……へ?」
     きょとんとする鋭児郎に掴み掛かる上鳴。思わず鋭児郎は憂無から手を離す。
    「違っ……ちげーって上鳴!!」
    「問答無用!」
     そう言って上鳴はギャーギャーと騒ぎながら鋭児郎に掴み掛かった。憂無は眉を下げて言う。
    「違うから、上鳴」
     でもどうやら上鳴には聞こえていないようで。憂無は溜息を吐いて大声で言う。
    「だから違うって!! 落ち着け上鳴!!」
    「うぇ!?」
     憂無は上鳴の襟首を掴むと鋭児郎から引き剥がした。彼女は耳元で言う。
    「私が勝手に落ち込んでただけだし鋭児郎は慰めてくれてたの!! わかった!?」
     キィン、と耳鳴りがする程の至近距離。
    「……は、はい…………」
     上鳴は小さくなって言った。憂無は腰に手を当てると再び溜息を吐く。そして。
    「行こう、鋭児郎」
    「お、おう……」
     縮こまった上鳴を置いて憂無と鋭児郎は再び歩き出す。C組の寮前にまで来ると鋭児郎はまたな、と言って踵を返した。
    「うん。またね!!」
     憂無は鋭児郎に手を大きく振るとC組寮の自室へと戻る。憂無は今日の事を赤革手帳に書くと赤くなった目尻を鏡で見て顔を洗った。そして風呂に入ると部屋着で共用スペースのテレビを見る。テレビは敵(ヴィラン)護送車を敵(ヴィラン)連合が襲った事について持ちきりだった。憂無は今日はどうしたのか、とクラスメイトに問われるも適当に受け流す。
     そして十月。文化祭がある。文化祭準備期間に辺り、憂無はA組寮へと行くのを控えていた。ライブをすると聞いたからだ。正直他クラスにネタがバレるのは良くないだろう、と言う憂無の独断で行くのを控えているだけである。故に鋭児郎とはメッセージアプリや通話でコミュニケーションをとっていた。
    「あ、言わないでね! 文化祭当日まで楽しみにしとくからさ!」
    「おう! わかってるって!」
     そう楽しそうに通話しているとじとっとした目で睨まれる。同じ普通科の棘池だった。憂無がじいっと見返すと彼女はどこかへ行ってしまったので、何も話せなかったが。同じ普通科といえどもヒーローを目指す憂無とは心持ちも違うだろう。彼女は彼女なりに思うところがあるのだ、と当たりを付け憂無は文化祭の準備に従事する。C組は心霊迷宮で、憂無はその裏方係だ。憂無は衣装を作ったり当日のメイクを担当したりで、あまりやる事は無い。故に画策していた。個人での出店を! 正直学校にバレれば怒られるので彼女は彼女なりにバレにくい場所に立って来た人の似顔絵を描こうとしている。金額は来た人の自由。要は学校や先生にバレなければいいのだ、バレなければ。そういう心算で憂無はスケッチブックを新調した。ウキウキ顔で用意しているとどうしたのかとクラスメイトに問われる。しかしここで本当の事を言ってしまっては計画が瓦解してしまう為、のらりくらりと躱した。心操はトレーニングの賜物か、角材をベキリと折っていたりもする。その事にクラスメイトはノコギリ要らずだと喜んでいた。
     ──文化祭当日。憂無は走っていた。早くしないとA組の十時からの出し物のライブに間に合わないし、良い席が取れないからである。そして十時ちょうど。開幕のブザーと共にカーテンが開かれる。真っ暗な中から浮かぶ人影。そして──パッと照明が付いた途端、爆発のような爆音が鳴る。大きなインパクトと共に並ぶ旋律、そしてダンス。それらはまさにライブといっても差し支えのない衝撃だった。
    「わあ………………!!」
     氷、鳩、テープ、そして浮くダンサー達。衝撃は一度に留まらず、何度も何度も、憂無の身を震わせた。
    「凄い……!!」
     たとえ、忘れるとしても願わくばこの煌めきを目に灼き付けて──。
    「凄かったね!」
    「うん、すごかった!」
     A組のライブ何終わった後、そう話す雑踏に紛れて憂無は走った。C組の心霊迷宮の裏方をする為と、似顔絵屋を出す為だ。似顔絵屋といっても目立たない場所に立って興味を惹いた人の似顔絵を描く、くらいだが。憂無はC組のお化け役のクラスメイトにメイクをしなければならない。何人かで手分けしてメイクを行っていると、クラスメイト──心操が憂無の前に座った。
    「あ、心操もお化け役だったね」
    「うん。とびきり怖くしてくれ」
    「了解!」
     ニッと笑って憂無は心操にメイクを施していく。すると血みどろの幽霊が一体、仕上がった。心霊迷宮のポジションに着くと、暗い中の不気味さも相まってとてもおどろおどろしく、恐ろしく見えるだろう。憂無はフフン、と満足げに笑った。そしてクラスメイトに一言、言ってC組の与えられた場所から抜け出した。そして出店と出店の間に立って小さく声を掛ける。
    「似顔絵、言い値で描きますよ〜思い出に一つどうですか〜」
     憂無はそう言って興味を持った客を描いたりした。
    「オッ憂無! 何してんだ?」
    「え、うわ」
     憂無はサッとスケッチブックを後ろに隠す。鋭児郎だ。他には尾白と瀬呂、爆豪がいた。
    「前宮さん……まさか」
    「まさかっつーか……」
    「どーせ許可もロクに取らず何かしてンだろそこのザル耳」
     バレた……と観念して憂無は言う。
    「無料(タダ)で似顔絵描きますのでこの事は……どうか……ご内密に……」
     はあ、と溜息を吐く尾白。憂無は小さくなってスケッチブックを脇に挟み、両人差し指を突き合わせていた。
    「俺ァいいぜ! 憂無の似顔絵見てみてーしな!!」
    「俺も見てみてえ」
    「まぁ、俺もいいけど……」
    「知るか! どうでもいーわ」
    「まぁそう言うなって爆豪!」
     そう言って鋭児郎は爆豪を憂無の前に突き出す。憂無はスケッチブックを開くとサラサラと描いてしまった。爆豪を始め鋭児郎と尾白、瀬呂に見せると皆一様に息を飲む。
    「…………チッ」
     舌打ちをする爆豪と次は俺な! と言う鋭児郎。尾白は上手いね、と言っていた。瀬呂も感心している。
    その勢いで鋭児郎や尾白、瀬呂の似顔絵も描いてしまうと憂無はコソコソと場所を移動する。
    「はー……焦った……」
     でも先生に見つからなくて良かったかも。
     そう呟くと──……。
    「何が見つからなくて良かったんだ」
    「ぎゃ」
     思わず驚く憂無。そこにいたのはA組担任の相澤だった。
    「い、いや!? なんでもないですよ!! ホントウ! ホントウですよー!!」
    「オイ待て」
     憂無はそう言って走り去った。憂無は相澤を撒いた事を確認するとぶは、と溜息を吐く。
    「よ、良かった……よりにもよって相澤先生に見つかりそうになるとは……!」
     その後、彼女は金を取って似顔絵を描かず、風景画を描くだけに留めていた。笑顔の人々、煌びやか、とは言えないが輝いている展示物達。憂無は赤革手帳を取り出すと書き連ねていた。
     ……今日は楽しかった!
     憂無自身も笑顔になっていた。文化祭が終わると心霊迷宮の展示を解体しながら撤去する。メイクをしたいた生徒は顔を拭いて洗い、いつもの顔に戻っていた。楽しかったねー、と生徒達は言いつつ後片付けをする。憂無もそれに応えながら片付けを手伝った。憂無は諸々が終わった後、鋭児郎にメッセージを送る。
    『文化祭、楽しかったね。Aバンドのライブもとてもよかった!』
    『それなら良かったぜ! C組の心霊迷宮、俺は回れなかったけど凄かったらしーな!!』
    『うん。メイクとか衣装頑張ったんだよ』
     憂無は衣装を着てメイクを施した心操の写真も添付した。
    『すげーな!』
     他愛無いやり取りが続いた後、鋭児郎はこんなメッセージを送ってくる。
    『……今から会えるか?』
    『勿論! 大丈夫だよ!』
     どこで会う? と憂無は送った。するとすぐに鋭児郎から返信が来る。
    『じゃあC組の寮の前で待っててくれ!』
    『わかった』
     そう言ってグーサインのスタンプを送った。憂無は部屋着の上から上着を羽織る。そしてドアを開けて暗闇の中待った。上を見上げると星が点々と輝いている。憂無は頬を緩めると足音に耳をそばだてた。鋭児郎である。
    「おーい! 待った?」
    「ううん。待ってないよ」
     向かい合って鋭児郎と笑顔で今日の事を話した。
    「──来年もこんな文化祭出来るといいね」
    「オウ! 来年は厳戒態勢も解けてるといいよな……」
    「うん」
     憂無は鋭児郎の肩に頭を預ける。鋭児郎の心臓近くに耳が来るので、耳を澄ませるとトクントクンと少し早い鼓動が聞こえた。それに連動するかのように憂無の心臓も早鐘を打っている。憂無は呟く。
    「……ドキドキしてる、鋭児郎」
    「ったり前だろ!? 好きなやつがこんな近くにいたらそりゃドキドキするぜ!」
     おめーはどうなんだ? と言う鋭児郎に憂無は彼の手を取ると胸元に手を押し当てた。
    「んなっ……憂無!?」
     焦る鋭児郎に憂無は微笑んだ。
    「ね? 私もドキドキしてるでしょ……?」
    「お、オウ……」
     鋭児郎は柔らかな感触の下に鼓動を感じ取ってはいたが正直それどころではなかった。鋭児郎の早い鼓動がもっと早くなってしまう。彼が手を引っ込めようとすると憂無は手をぎゅっと掴んでそのままにした。
    「……まだ、このまま。このままで、いて?」
    「お………………オウ……」
     鋭児郎はたじたじになって憂無のされるがままになっている。暫くすると満足したのか憂無は鋭児郎の手を胸から離した。鋭児郎はやっとホッとする。憂無は鋭児郎の手を離さず、指を絡めた。体温がお互いに移る。憂無は以前とは違い、鋭児郎といても驚く事は無くなった。代わりに落ち着けるようになったのである。鋭児郎は逆に憂無の行動に驚かされる事が多くなったのだが。鋭児郎は知らず知らずのうちに顔を赤らめていた。憂無は言う。
    「鋭児郎、顔真っ赤」
     くすくすと笑う憂無に鋭児郎は彼女を驚かせたくなった。がばりと憂無を抱きしめる。
    「ふ、わっ」
     硬い鋭児郎の温もりに包まれ、憂無は鋭児郎の背に手を回しぎゅうっと抱き締め返した。鋭児郎も憂無も鼓動がどんどん早く、高まっていく。憂無は熱を持った瞳で鋭児郎を見る。
    「鋭児郎……」
    「……憂無…………」
     憂無は鋭児郎から目を逸らし、言う。
    「ねえ……キス、していい?」
    「き、キスゥ!?」
     鋭児郎は声を上擦らせた。憂無はダメ? とじいっと鋭児郎を見る。彼は煩悩と戦い──。
    「……こ、来い!!」
     と言った。憂無はくすくす笑う。まるで組み取りの合図のようだったから。憂無は鋭児郎の首元に手を回し──……そっと、彼の唇にそっと彼女のそれで触れた。
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