まあ、なんて美味しそうなチェリーパイ!騒がしい流水音をBGMにノースディンはゆったりと本を読み進める。目の前のスマートフォンの画面は白いままだ。時折ゆらりと湯気が揺れた。
キュッとカランを捻る音を最後に流水音が止まる。濡れた足音と布が擦れる音がして、カタカタと細かく画面の向こう側が揺れた。水を掻き分ける音がしてすぐに指が映り込み、向きが変わる。
「待たせてすまないノースディン」
最新式の優秀さでぼんやりとした肌色からすぐに焦点が合えば、濡れたままの重たい髪を掻き上げ、滴る水を瞬きで弾くクラージィが映り込んでいた。
ずっと聞き耳をたてていたが、声が聞こえてからたっぷりと間を取り、さも今気が付いたかのようにBluetoothイヤホンの電源を入れた。
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