【彧紫】他の世界で私たちは出会えるのか政務が次から次へと続き、夜の灯りはよく子の時(深夜12時)まで灯っている。特に荀彧の心はなかなか休まらず、紙上の墨がまだ乾かないうちに、思考はまた別の未解決の策略へと駆け巡る。
何日もまともに眠っておらず、目を閉じても、耳元に戦鼓の音がかすかに聞こえるような気がする。
紫鸞はある会談の際にそれに気づいた。
「荀彧」
彼は名前を呼び、言葉に少し躊躇いをのせた。
「ここ数日、ほとんど眠っていないんじゃないか?」
荀彧は顔を上げた。目の下の隈はきれいに隠していたが、瞳にはぼんやりとした疲れが浮かんでいた。
否定しようとしたが、紫鸞の空を映すような眼差しを見て、偽るのをやめた。
「少し眠れないだけだ」
彼の声はため息のようにかすかだった。
「大したことではない。数日すれば良くなる」
「いつもこうしてはいけない」
紫鸞は眉をひそめ、何かを思い出したように腰から小さな磁器の瓶を取り出し、差し出した。
「これは元化が調合した安神の香だ。私もいくつか馴染みのある香料を加えた。きっと役に立つだろう」
荀彧はその瓶を見つめ、受け取った。指先が瓶に触れた感触は少し冷たかったが、心には微かな温もりが広がった。
「ありがとう」
彼の声はかすれ、心からの感謝に満ちていた。
夜が訪れ、ろうそくの灯が消され、荀彧は香り立ち込める中で目を閉じた。
この夜、彼は別の世界、別の自分を夢見るだろう。
第一夜
木々の間から朝日が差し込み、地面にまだらな影を落としていた。
荀彧は大きな木の下に座り、傍らには竹簡が広げられていた。彼はまだ七、八歳ほどの少年で、白い衣は整っていた。静かな表情で、紙の上に一文字また一文字と丁寧に筆を運んでいた。
その時、かすかな足音が近づいてきた。
顔を上げると、黒い衣を着た子供が目の前に立っていた。年頃は彼と同じくらいで、風に髪が少し乱れていた。
何も言わず、ただしばらく荀彧を見つめた後、ふと傍らに歩み寄り、腰をかがめて、自分の手の平よりも大きな石を抱き上げた。荀彧が口を開こうとした瞬間、その子は石を彼の前に運び、手刀で一閃した。
「パキン」
石は真っ二つに割れ、断面は驚くほど平らだった。
荀彧は驚き、目を疑った。その子は割れた石の半分を彼に差し出し、表情は淡々としていた。
「どうぞ」
「ありがとう? でもなぜこれを?」
荀彧は穏やかな声で尋ねた。その調子は彼の人柄そのままに優しかった。
黒衣の子供は答えず、ただ黙って傍らに座り、指で地面の落ち葉をつついていた。
荀彧は手にした石を見下ろし、そして傍らの子を見た。なぜか、彼の口元がゆるんだ。
その後も、その子は時折現れるようになった。あまり話さなかったが、荀彧が一人でいる時には必ず現れた。野の果実を差し出したり、彼が本を読み疲れた時にはそっと傍らに座ったり。
めったに笑わず、言葉も少なかったが、荀彧は次第に彼の存在に慣れていった。
時折、書物の中に、黙って寄り添う影があるのも、心安らぐものだ。
-
朝、荀彧はゆっくりと目を開けた。
夢の内容はもうはっきりとは覚えていなかった。時間に洗われ、ただ温もりだけが残っているようだった。
彼は一瞬呆然とし、一晩中燃え続けた香を見た。香りはまだ完全には消えず、空気にかすかな煙が漂っていた。
「あの子、小さい頃はこんなに可愛かったのか」
彼は独り言のように呟き、声は自分でも驚くほど優しかった。
あの子が何を話したかはもう覚えていない。ただ、いつも沈黙を守りながらも、ちょうどいい時に現れてくれたことだけを覚えていた。
あの静かな寄り添い方は、夢であれ現実であれ、懐かしい気持ちにさせられた。
「もっと早く君と知り合えていたら」
彼は香をきちんとしまい、目には淡い笑みと、口に出せない想いを宿していた。
第二夜
高層ビルのガラス窓から差し込んだ陽光が通りを照らし、道行く人々に柔らかな光の輪を描いていた。
荀彧は書類カバンを持ち、いつものように会社の下にあるコーヒーショップに入った。ドアを開けると、カウンターの向こうでコーヒーを淹れている青年が目に入った。
紫鸞は白と黒の制服を着て、袖口はきちんとしていた。表情は乏しかったが、集中している様子はどこか特別な静けさを感じさせた。
「おはよう」
紫鸞は彼を見て、短く挨拶した。
「おはよう」
荀彧は笑顔で返した。
「今日もアメリカンでお願いします」
「了解」
紫鸞は手慣れた様子でコーヒーを淹れ始めた。彼はしっかり覚えていた。荀彧は毎日同じコーヒーを注文し、砂糖は半分、ミルクは入れない。
淹れ終わると、白いマグカップで運んでくる。カップの縁は常にちょうどよくトレイに揃えられ、無駄な動きは一切なかった。
ただの平凡な朝だったが、いつの間にか荀彧はこの短い会話の時間を楽しみにするようになっていた。たとえ「来たね」「今日も残業?」といった単純なやり取りでも、彼の退屈な日常にいくらかの喜びを添えてくれた。
ある日、荀彧がコーヒーショップに入ると、紫鸞の姿がなかった。
「彼は今日休みで、どうやらここではもう働かないようです」
店員が説明した。
荀彧は一瞬呆然とし、しばらく黙ってから何も言わずに店を出た。
その日、彼はコーヒーを飲まなかった。頭がぼんやりとして、午前中の会議では意志の力でようやく目を開けていられるほどだった。
昼休み、彼は一人会社の休憩室でソファに寄りかかり、うたた寝をしていた。
「荀彧?」
耳元に聞き慣れた声がした。目を開けると、紫鸞が入り口に立ち、手にはコーヒーカップを持っていた。
「どうしてここに?」
紫鸞はカップを差し出し、淡々と言った。
「これからこの会社で実習する」
荀彧はカップを受け取り、微かな温もりを感じた。匂いを嗅ぐと、あの馴染みの香りだった。
「もうコーヒーショップにはいないが」
紫鸞は彼を見つめ、相変わらず落ち着いた口調で続けた。
「これからも君にコーヒーを淹れてあげる」
その瞬間、荀彧は夢から覚めたような、あるいはもっと深い夢に落ちたような気分になった。
-
朝、荀彧はゆっくりと目を覚まし、窓の外の白み始めた空を数秒見つめた。
この夢は最初のものよりも鮮明だった。彼は静かに起き上がり、机の上に残った香の灰を見た。
夢の中のコーヒーショップ、そして紫鸞がコーヒーを差し出してくれた姿を思い出すと、なぜか笑みがこぼれた。
「なんて奇妙な世界なんだろう」
彼は呟き、机の上の茶碗を手に取ったが、まだ夢の中のあの香り高いアメリカンを味わっているようだった。
しかし、コーヒーよりも、彼が会いたいのはコーヒーを淹れてくれた人だった。
第三夜
そこはまだ乱世だったが、どこか殺伐とした雰囲気が薄れ、日常の温もりが増しているように感じられた。
彼は魏の軍営の道を歩いていた。遠くから兵士たちの訓練の声が聞こえる。ちょうど陣営に戻ろうとした時、隅で見慣れた影を見つけた。
紫鸞は桶の前にしゃがみ込み、「彼女」の長い髪は風に乱れていた。片手で髪を束ねようとしながら、眉をひそめていた。傍らには鋏が置かれており、どうやら自分の長すぎる黒髪に悩んでいるようだった。
「長い髪は面倒だ。切ってしまおう」
「待って」
優しい声が背後から響き、荀彧が近づいてきた。紫鸞は彼を見上げ、少し困惑した様子だった。
荀彧は笑いながらしゃがみ込み、懐から木の櫛を取り出し、そっと彼女の髪を梳かし始めた。
「君の髪はとてもきれいだ。切ってしまうのはもったいない」
梳かしながら彼は言った。
「私は普段から髪の手入れをしていて、桂花油も使っている。君も試してみたらどうだろう」
紫鸞は軽く「うん」と頷き、避けようとせず、荀彧に任せた。
髪の毛が指の間から滑り落ちる。荀彧は手際よく梳かし、丁寧にまとめていった。最後に、彼は自分の髪から赤い紐を外し、彼女のために同じスタイルの結び目を作った。
「できた」
彼は少し下がって彼女を見つめ、思わず優しい眼差しを向けた。
「とても似合っている」
紫鸞は頭紐に触れ、口元をゆるませた。
二人の肩に陽光が降り注ぎ、その一瞬の優しさに荀彧はこれが夢であることを忘れそうになった。
-
「……ん」
荀彧は目を開け、まだ明るくなっていない窓の外を見つめ、静かに息を吐いた。
夢の中の紫鸞の姿を思い出す。あの長い髪、あの瞳、そして彼女がほんの少し口元を上げた瞬間さえ、彼の心臓を一瞬速くさせた。
もし紫鸞が本当に女性だったら……おそらく迷わず彼女を口説くだろう。
しかし、考え直すと、彼は笑みを浮かべた。
「いや」
「紫鸞は紫鸞だ。男であれ、女であれ、私は……」
彼は呟いた。
この想いは、とっくにどこかの春風が頬を撫でた日に、根を下ろしていたのだ。
第四夜、彼と紫鸞はショーケースの中に並べられた人形になった。無言で展示されていたが、それでもずっと並んでいた。
第五夜、それは刃と炎が交錯する終末の世界だった。彼らは背中合わせで怪物と戦い、紫鸞の手はいつも通り力強く安定していた。
第六夜、世界はぼんやりとして彼自身も認識できないほどだったが、誰かがしっかりと彼の手を握っているのを覚えていた。
「一緒に歩いていく」
……
数々の夢を経て、荀彧はついに気づいた。どの世界であれ、どんな立場であれ、彼は必ず紫鸞に惹かれるのだ。あのときめきは、最初はただの賞賛や信頼、あるいは互いを理解し合う気持ちだと思っていた。
夢の中と外で、彼はようやく悟った。それはとっくに根付いていた想いなのだ。たとえ一言の愛の言葉もなくても、その想いはすでにすべての夢の中にあった。
なぜこの頃ずっと寝返りを打ち、夜も眠れないのか。
彼は自分では心が安定していると思っていた。ささいなことで悩むはずがない。しかし、ここ数晩続いた夢は、まるで鍵のように、彼が固く閉ざしていた心の一部をそっと開けてしまった。
あの夢はあまりに現実的で、紫鸞の横顔の陰影や、彼が自分の手を握った時の掌の温もりまではっきり覚えていた。
最初は、それはただの感情の反映で、日常のふれあいの中の親しみだと思っていた。
しかし、今ではもう否定できない──
それは「親しみ」ではなく、ときめきだった。彼の紫鸞に対する、もはや無視できないほどの慕情だった。
彼は苦笑し、額に手を当てて呟いた。
「不眠の原因は、これだったのか」
自分の心を見つめた後、彼は何だか軽くなった気がした。濃い霧の中で方向を見極め、ようやくその場でぐるぐる回るのをやめたような気分だった。
そして、彼は立ち上がり、身なりを整え、目に決意を宿した。
「彼に会いに行こう」
感謝を伝えるためだけではなく、何かを伝えるために。
もちろん、荀彧は知っていた。突然の告白は適切な方法ではない。紫鸞はもともと落ち着きがあり無口だ。もし直接気持ちを伝えたら、かえって相手を困らせるかもしれない。
だから、彼は「恋愛戦略」を立てることにした。
-
紫鸞は部屋で、まだ消え残っている香の煙を見つめていた。
この香は、彼自身が調合したものだった。
元化の薬草の知識を借り、彼が「太平の要」の残った記憶からかき集めた処方をもとに、丁寧に作り上げた。
最初はただ荀彧によく眠ってほしかった。連日の忙しさで、彼の目の下の隈は濃く、消える気配がなかったから。
しかし、実際に作る段階で、紫鸞は少し躊躇した。この香は、二人が同時に吸い込むと、同じ夢の世界を共有することを覚えていたからだ。
荀彧が自分を夢見るかどうかはわからなかった。夢の中で彼を助けられるかどうかも確信が持てなかった。
「結果的には、成功だった」
紫鸞は低い声で呟いた。
あの日、荀彧は彼に感謝し、この香が「確かに効いた」と言い、少し照れくさそうに「最近夢を見たか」と尋ねた。
紫鸞は夢の内容を聞かなかった。
しかし、荀彧の眼差しはすでに答えを漏らしていた。彼は紫鸞を夢見た。一度だけではない。
どの並行世界にも、あの「紫鸞」という名の人が存在するようだった。
あらゆる可能性のある人生で、彼は再び彼と出会うのだ。
紫鸞は荀彧の想いに対し、どう応えるべきかわからなかった。あの繊細で優しい感情は、音もなく彼を包み込んでいた。
最初はただの心遣いや信頼だと思っていた。しかし今では、もしそうでなかったら、どう応えるべきか考えずにはいられなかった。
紫鸞は自分の掌を見下ろし、夢の中で荀彧と共に経験した世界を思い出しているようだった。
「たぶん……確かめに行くべきだろう」
彼の声はとても小さく、自分に言い聞かせるようでもあり、ようやく何かを決心したようでもあった。
二人が互いの想いを確認し合うまで、あと一夜を残すだけだった。