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    血圧/memo

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    血圧/memo

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    2023.5.152022.2.16(2023.4.24) かべうちで書いたやつです

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    「僕、赤井に訊きたいことがあったんですけど」
    「何だ」
     責めるつもりは毛頭ない。本当にシンプルに疑問であった。
    「先月大阪に出張あったじゃないですか」
    「ああ。大阪府警へ赴くのに何故かわざわざFBI捜査官である俺が駆り出された、税金と人員の無駄遣いでしかない意味の分からんアレか」
    「僕らしか適任が居なかったんだから仕方ないじゃないですか」
    「他にいくらでも居るだろう。どうして他国のスナイパーである俺とチームの責任者である君が、まるで雑用みたいな出張をさせられる必要があるんだ」
     赤井の口調は棘と厭味に塗れていた。殆ど休息なしで行われた一泊二日のアレを未だに納得していないらしい。あまりに休息がなかったため車は使わず新幹線とタクシー移動だった。降谷も赤井も会話らしい会話もなく新幹線では爆睡だった。
     降谷だって思うところはある。だが。
    「手が空いていて漏らしちゃいけない情報が頭に入ってるのは僕らだけだったでしょ」
     赤井の言うように完全なる無意味でもない。記録媒体すら使えない事柄があったとして、それに関して情報を移動させる方法は限られている。今回使った手段は人間の移動であり、降谷と赤井は歩く記録媒体を務めたという訳だ。
     何せ黒い例の組織に関してはそういった事柄が多い。だからこそ降谷や赤井のような「組織と深く関わった法執行機関の人間」は多忙を極めて地獄の日々だった。組織を斃した後のほうが余計に。
     降谷だって思う。
     組織を斃した後のほうが地獄の日々だなんて誰が思うよ。
    「あれで手が空いていたというのならな」
    「空いてたでしょ」
    「俺は完徹明けだった」
    「赤井なら三日四日寝てなくても平気でしょ」
    「今は二日が限界だ」
    「歳ですか」
    「君もだろ」
    「バーボンやってた頃は平気だったんだけどな」
    「大体情報漏洩とか言っておいて文書を作る矛盾は何なんだ」
    「お偉い方には文書が必要なんでしょ」
     赤井は、不機嫌そうな顔で珈琲のカップを片手に頬杖をついている。今日も今日とて雑用の合間であった。今日は会議で使う書類の分類。単なる雑用と言う勿れ、何せ文書一つにしたって「組織と深く関わった」降谷と赤井は駆り出される。会議爆発しろ。
     パチンパチンと降谷は芯なしホチキスで書類を留める。文句を言いながらも赤井の書類整理は細やかで、しっかりと端が揃っているのだから可笑しかった。
     そう。可笑しい。
     だから地獄の日々でも降谷は精神的健康を保っている。
     たとえ因縁がどう転ぼうが降谷が赤井秀一と親しくなるなど有り得ないと思っていた。実際親しい訳ではない。共に作業したとて会話が多い訳でもない。ただ、訳の分からない出張に駆り出されたり地獄の完徹を共にしたりする内、何となく愚痴を言い合う仲になった。
     赤井は不平不満を顔に出すし愚痴る際には口も悪い。けれど文句を言いつつ手を抜くこともなくしっかり雑用をこなしている。
     赤井秀一も人間だったんだなあ。
     案外と人間臭い赤井が降谷は可笑しくて、その面白さが降谷の精神的健康を保つ糧となっていた。
    「降谷くん」
    「何ですか」
    「訊きたいこととは」
    「あ。そうだった」
     頬杖をついたまま降谷に視線を寄越す赤井の顔には疲れが浮かんでいた。ピークは過ぎて先週は休暇もあったが、一昨日と昨日は夜中の一時まで作業をしていた、その所為だろう。
    「僕と赤井で大阪行ったじゃないですか」
    「それが何だ」
    「何で僕の部屋を盗聴してたんですか」
    「っっブフォ」
     降谷の疑問に赤井は飲みかけの珈琲を噴き出した。コントかよ。
    「ちょっと赤井、大丈夫ですか」
    「ゲホっ、ごほ、ゲホゲホ、っふる、ゴホ」
    「後でいいですから」
     尚も何かを言おうとする赤井を制し降谷はティッシュの箱を差し出した。流石赤井は噴き出す寸前に顔を背けていて、書類関係は無事だった。これがやり直しなら明日明後日の休暇はパーだ。お陰で赤井のシャツは汚れているだろうが。
     赤井は、ティッシュボックスを抱えて咳き込みながら席を立った。給湯室で鼻をかむ音。日本の警視庁のしがない給湯室で鼻をかむ赤井秀一。面白いな。
     やや暫くして戻って来た赤井はシャツを替えたようだった。どれも黒だから見分けが難しい。カラスかよ。
    「……降谷くん」
    「シャツ、すぐ洗わないと落ちませんよ」
    「問題ない」
    「まあ黒だから目立たないでしょうけど」
    「……その」
     言い難そうに言葉を濁す赤井は珍しい。赤井はいつだって迅速的確に言葉を発する。
     言い難いことなのだろうか。降谷は首を傾けた。
    「変な理由なんですか?」
    「変、とは」
    「盗聴が趣味とか」
    「いや、盗聴自体は趣味ではない」
    「ふうん」
    「断じて違う。盗聴を趣味にはしていない。というか君」
     赤井は視線を逸らして言葉を探した。珍しい。
    「気付いてたのか」
    「盗聴?」
    「ああ」
    「ええまあ」
    「……何故言わなかった」
    「いや、何でだろって思って」
    「俺の出方を待ったのか」
    「いえ。昨日寝る前まで忘れてました」
     あまりに多忙な日々で降谷はすっかり忘れていたのだが、昨日の夜寝る直前にポコンと思い出したのだ。
    「それで、そういや何だったんだろって」
    「……君は盗聴されていたんだぞ」
    「そうですね」
    「それでいいのか」
    「別に僕、盗聴されて困ることないですし」
     現時点で降谷が持つ情報などたかが知れていて、赤井にも共有されている情報程度しかない。だからこそ今更、赤井が降谷を盗聴する意味が分からず不思議であった。
    「プライバシーを侵害されたというのに君は呑気すぎないか」
     何故か赤井のほうが憤慨している。
    「え。なんで赤井がちょっと怒ってるんですか」
    「君には危機感がないのか」
    「危機的状況じゃないですもん」
    「俺に盗聴されてか」
    「いや、何でだろって。ていうか何で?」
    「、 」
     赤井が目を逸らす。珍しいから面白い。
    「僕も徹夜明けだったからホテル着いてすぐ寝ちゃったし。僕が寝た後部屋に忍び込んだりしました?」
    「してない。それは断じて」
    「ふうん」
    「断じて君に危害を加える目的ではない」
    「そうですか」
    「……その」
    「うん」
    「……」
     赤井の口は重かった。
     めちゃくちゃ軽い気持ちで尋ねたのに。てっきり、赤井も軽い気持ちなのだと思った。悪戯か嫌がらせだろうという降谷の予測は外れだったらしい。降谷は少し考えてから頷いた。
    「取り敢えずコレ、終わらせちゃいましょう」
    「あ、ああ」
    「今日予定あります?」
    「え」
    「飯一緒に食いませんか」
    「……」
    「赤井も明日休みでしょ」
    「あ、ああ」
     食事を共にするのは初めてのことではない。これまでの地獄の日々で、降谷と赤井は仕事終わりに連れ立って食事をしたことも多々あった。盛大に愚痴ったり無言で腹を膨らませたり、まあ所謂普通の同僚との付き合いみたいなものだ。
     赤井秀一と普通の同僚。それだけでパワーワードだ。
     曖昧に頷く赤井を横目に降谷は手を動かした。

     単純に降谷を盗聴したかった。そう言う赤井に降谷は突っ込む。
    「やっぱり盗聴が趣味なんじゃないですか」
    「断じて違う」
    「何が違うんだよ」
    「降谷くんを盗聴したかったと言っているだろう」
    「だからなんで赤井がちょっと怒ってるんだよ」
     砂肝を頬張り降谷は呆れる。赤井秀一は降谷が思うよりずっと案外と面白い、面白すぎて理解が及ばないのである。
     赤井は鶏皮を頬張っている。一番最初は「皮なぞ食わん」と言っていたのに今や赤井が一等気に入っているのは鶏皮であった。ちまちまと食べるのは単に口が小さいからだろう。
    「ねぎま追加します?」
    「うん」
    「飲み物は?」
    「降谷くんと同じでいい」
    「んじゃ焼酎梅割り」
    「ん」
     案外と素直な性質なのか、はたまたチャレンジャーなのか。赤井は降谷が勧めたものを次々と試した。少し前までは梅干しも苦手だった癖に今では気に入りの一つとなっている。
    「焼き鳥屋に通う赤井秀一も面白かったのに」
    「なんだ」
    「今じゃ結構馴染んでますよね」
    「美味い」
     もぐもぐとつくねを頬張るが赤井は口が小さいのでタレが口端を汚している。その度におしぼりで拭うも、おしぼりの使い方が下手くそで見ていられない。仕方がないのでタレ串だけ串から外してやった。
    「ありがとう」
    「いーえ」
    「塩も外してくれ」
    「嫌です。直で食うから美味いんだろうが」
    「食べ難い」
     と言いつつ赤井はもぐもぐと豚串塩を頬張る。絵面が面白いな。
    「で? その心は?」
    「なにが」
    「僕を盗聴したかったんでしょ」
    「ああ」
    「何で?」
    「そのままだ」
     何で分からないんだとでも言いたげだ。だからなんで赤井がちょっと怒ってるんだ。怒っているというか不貞腐れている。赤井は存外大人げない。
    「まさか僕のこと好きとか?」
    「別に好きじゃない」
    「でしょうね。じゃあ嫌いだから?」
    「別に嫌いじゃない」
    「ふうん」
    「ただ」
     焼酎の中の梅を潰した赤井が、ちらりと降谷を見る。その視線からは特別な感情を感じない。単に盗聴したかった、その理由など好意か悪意しかないだろうに。
    「ただ、君の音を」
    「音?」
    「君の、環境音を」
    「……環境?」
     僕の音。環境。音。
     何言ってんだこいつ。
     降谷は半眼で赤井を見遣る。赤井は、何で分からないんだとでも言いたげに不貞腐れながら梅を潰した。仕方がないのでモバイルを取り出し降谷は検索した。便利な世の中だ。
    「えーと。ASMR。心地良い音。癒される音。え。調べても全然意味分かんないんですけど」
    「何で分からないんだ」
    「僕の音ってどういうことですか」
    「そのままだ」
    「声じゃなくて?」
    「声は別に」
    「何か腹立つな」
    「音がいいんだ」
    「音って」
     カラン。降谷の手元のグラスにマドラーが当たった。降谷が出した「音」には違いない。
    「……この音?」
    「そうだ」
    「え。意味分かんないんですけど」
    「何で分からないんだ」
    「僕の音って、こういう音?」
     降谷はテーブルを指で叩いた。喧騒に紛れてはいるがトントン、音が鳴る。
     赤井は「そうだ」と頷いた。
    「え。意味分かんないんですけど」
    「何で分からないんだ」
    「この音を聞くために盗聴してたの?」
    「そうだ」
    「なんで?」
    「聴きたいから」
    「なんで?」
    「君の音が好きだから」
     だからなんで赤井がちょっと怒ってるんだ、と思ったが、赤井の眦は薄ら火照っていた。これしきの酒量で酔うような男ではない。ならば感情による肌の火照りだ。
     赤井は照れているのか。
     と思い至った降谷は瞬いた。
    「……だから。その。……君の音が、好きなんだ」
    「はあ」
    「他でも試した。動画サイトに幾らでもある」
    「そうみたいですね」
    「だが駄目だった。君の音じゃないと」
    「音に違いなんてあるんですか?」
    「微妙に違う」
    「ふうん」
    「その違いが俺には不快だった。君の音じゃないと」
    「はあ。音。音ねえ」
     トン。トン。行儀は悪いがテーブルを指で弾く。降谷が鳴らそうが赤井が鳴らそうが、果たして違いなどあるのだろうか。体重や手の大きさで音自体が変われどその違いの良し悪しなど降谷には全く分からない。
    「赤井って音フェチ?」
    「そういう訳ではない」
    「ふうん」
    「ただ、心地良いと思った。君と、仕事をしていて。俺は君の音の魅力に気が付いた。だから馬鹿みたいな雑用でも捗った。降谷くんの音があるのなら、と」
     赤井は照れているようだった。
     しかし降谷には照れる要素が理解できない。君の音が魅力的だと言われたって褒められているとは思えない。それに赤井は降谷個人を好いてもいないし嫌ってもいない、単なる普通の同僚程度とみなしている。照れる要素が何処にあるのか降谷にはサッパリ分からなかった。
    「何かよく分かんないですけど、分かりました」
    「分かったのか分からないのかどっちだ」
    「僕は理解できないけど赤井が良いならいいんじゃないですか」
    「いいのか」
    「赤井の好みは赤井の自由でしょ」
    「盗聴は咎めんのか」
    「別に気にしてません」
    「君には危機感がないのか」
    「だからなんで赤井が怒るんだよ」
     降谷は追加すべくメニューを開いた。明日は待望の休日である。少々飲み過ぎたって構わないだろう。
    「今の僕には盗聴されて困ることもないですし、今更赤井にどう思われても何されても、僕は別に。あー流石にオナってるの聞かれたら恥ずかしいけど」
    「おな?」
    「オナニー。マスターベーション」
    「君には危機感がないのか」
    「だからなんで赤井が怒るんだよ」

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    元は2022.2.16のかべうち
    ルーティン動画にはまったあかいさんがふるやさんの仕種が一番好みだと気付いてからふるやさんに超絶熱視線送るあかいさんの話も書きたいな
    「僕のこと好きなんですか」
    「好きか嫌いかで言うなら好きだな」
    「性的な意味で?」
    「?君の性に興味はない」
    「何なら興味あるんですか」
    「君が朝起きてから夜眠るまでの全てだ。君の全てを完璧な角度から完璧に記録して俺の作業用にしたい。生涯大切にすると約束しよう。そうだな。晴れた日、雨の日、曇りの日と最低でも三つのパターンは必須だろう。いや待て。ならば春夏秋冬、全ての季節も必要じゃないか?贅沢を言うなら気温でもパターンを分けたいところだ。気温によって服装や動作も変わるからな。ああ、勿論BGMはナシにするさ。衣擦れ、ふとした呼吸、物が触れ合う音、それが醍醐味だろう?折角の君の環境音を無粋な音楽で消すなど、神への冒涜に他ならない。そうは思わないか?」
    「ちょっと何言ってるか分かんないです」
    でした

    ポイピクの小説(β)だとクリックしないと全文見られない&全画面の背景白で目が痛いですね…むむむ
    小説を画像にして投稿したほうがいいのか色々試してみます
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