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    モラ帰コピ本、夢オチ確定してるのでどこまで糖度をゴリ盛れるかチキチキレースになっている 出せたらいいな

    ※A5コピー本、2段組、鍾フレグランスによる香り付けを予定しています
    会場頒布価格200円

    #モラ帰

    ステイ・ウィズ・ミー 開け放った窓から流れるそよ風の気配がして、モラクスは緩慢にまぶたをあげた。意識が覚醒しきる前、一番に琉璃百合の香りが鼻を擽る。甘く優しい香りだ。ぼやけた視界が少しずつはっきりとすると、そこには同じ一枚の布の中で穏やかに眠る帰終の顔があった。彼女のふわふわした潤色の髪がうねりくねり、絡まり、健やかで幼い寝顔を囲み戯れている。ふとまるい白い肩に触れてみると完全に冷えきってしまっており、天然の霓裳花で織られた肌触りのいいリネンを首元まで引っ張りあげた。ふ、とモラクスは息をつく。まだ覚めきらない目を乱雑に擦れば、霞がかった昨夜の記憶が塵になって落ちていくようだった。
     早朝の純真な風がやわらかな花の香りを運ぶ。開いた窓の隙間から覗く太陽が二度寝を咎めた。とても気持ちのいい朝だ。琉璃百合は大地の記憶を香りに変えると言う。きっとこの土地は、健やかで安らかで穏やかな幸せの記憶に満ちているに違いない。モラクスはそれはそれは愛おしそうに目を細めて帰終を見た。すよすよと平和な寝息に耳を立てる。これこそが幸福のかたちなのだと思った。
    「……モラ、クス……?」
    「起こしたか」
    「いいえ……。貴方の視線はいつだって熱烈だわ。ふふ」
     帰終は否定こそしたものの、それはつまり起こしてしまったということだ。きゅ、と目を萎めた帰終が小さく欠伸を溢した。就寝中に喉が渇ききってしまったのか、軽く咳払いをしてから体を目覚めさせようとコンパクトに伸びている。その一つ一つのどれもが愛らしかった。
     大人三人は余裕で寝られそうな寝台の上、モラクスと帰終は真ん中よりやや右寄りで身を寄せ合っていた。まるで双子の胎児が命の均衡を保つように、ここだけが居場所であるように。帰終の細い腕がモラクスの後ろに回った。広い背中を慈愛に満ちた手付きで撫で下ろし、悪戯にモラクスの長い後ろ髪を指に絡ませている。
    「……擽ったい」
     モラクスは帰終の額に鼻を埋めながら言った。眉を顰めながらも、不快さなんてこれっぽっちも滲ませない声色だった。
    「私もよ、モラクス。私も擽ったいわ。でも、心地が良いのね、ここは」
     帰終は琉璃百合が凛と揺れるように笑った。途端、モラクスの肩に乗っていた帰終の腕の重さがスゥと消え入る。質量だけではない。先ほどまで目の前にいた彼女の姿もない。リネンはとうに冷えきっている。シーツの皺だって一人分だ。まるで初めからモラクスしかいなかったかのように、そこには何の生命の欠片も感じられなかった。
    「帰、終……?」
     返事はない。いつもみたいにあの、なあに、とこの世の全てを受容するあたたかな声で応えてもくれない。頭に血が集まってきている。モラクスの心臓ははち切れんばかりに早鐘を打った。
     帰終がいない。なぜ、どうして。モラクスの世界に、帰終がいない。その事実は形容し難い鈍痛を以てモラクスに襲いかかった。これまで途方もないほどに敵対してきたどんな魔物との戦いよりも厄介な痛みだった。胸の辺りが、喉の奥が、熱い目尻が、手足の指先が、冷静になれない脳が、知らない痛みに悲鳴をあげている。
    「帰終!」
     その一声だけで喉が潰れてしまいそうなくらいに叫んだ。帰終、どこにいる。帰終。モラクスは必死だった。しあわせの輪郭が、塵になって崩れ落ちる音がする。勢いよく起き上がり、寝台を飛び出したモラクスは己のあられもない姿も厭わずに床を踏み鳴らす。布一つ纏っていない様は実に滑稽だった。扉を押し破る勢いで部屋のドアノブに手をかける、その時だ。
     モラクスの意識はぷつんと途絶えた。
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     早朝の純真な風がやわらかな花の香りを運ぶ。開いた窓の隙間から覗く太陽が二度寝を咎めた。とても気持ちのいい朝だ。琉璃百合は大地の記憶を香りに変えると言う。きっとこの土地は、健やかで安らかで穏やかな幸せの記憶に満ちているに違いない。モラクスはそれはそれは愛おしそうに目を細めて帰終を見た。すよすよと平和な寝息に耳を立てる。これこそが幸福のかたちなのだと思った。
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