アフタートーク※注意
・紀行PVのあれが現時点では未確定の未来(オンパロス次第)なの重々承知
・そもそも紀行PVに姿ないしサンポの見せ場が全然ここじゃない可能性も重々承知
・その上での完全ド捏造内容
今回の"捏造"時系列:オンパロス編最終決戦(?)→ベロブルグや羅浮など宇宙中が影響受けてるので救援→ベロブルグに駆けつける→サンポがベロブルグのために戦ってくれてた(?)→なんやかんや解決して二人で話してる
・↑ALL捏造
・二次創作なんてすべてが捏造ですが前提条件から捏造 ド捏造
・サンポも開拓者もある程度の怪我をしている
◇
「武力派じゃないとかなんとか言ってたくせにさ」
「ハハ……」
星はじとりと隣にいる男のことを見やった。
ここはベロブルグ下層部、ナターシャの診療所……は救援が必要な患者で溢れかえっているため、臨時で開放されたいくつかの仮設診療所のうちの一つである。軽口を叩き合う元気がある二人は他の市民たちの治療を滞らせることがないように、慌ただしい室内の中でもやや喧騒から離れた壁際に座っていた。時々星に気付いた市民が感謝を伝えに来るとき以外、声をひそめた会話はぽつぽつと続いている。
「もう、そんなにいじけないでくださいよ。いつもはお姉さんに詐欺ばっかりだと身に覚えのないことで糾弾されていますが、今日の僕は商売人ではなく……それこそ、星さんの言葉を借りるなら“良いやつ”だったでしょう?」
「別にいじけてない。前にヤリーロに来た時、腕相撲で私が勝ったの覚えてる?」
「……まあ」
「ほら、私が不機嫌な理由にちゃんと心当たりあるじゃん。モグラ党の子たちに巻き込まれて真剣勝負する流れになったけど、結局あんたは手を抜いてたってことが証明された」
「僕に言わせてみれば、この状況で腕相撲を根に持っているお姉さんもお姉さんですよ」
「だって今更あんたのこと褒めるの癪じゃない?」
「僕のことを褒めるつもりはあったんですね、良いことを聞きました」
「……うるさい」
ムッと膨れた星が視線を逸らすのを、サンポはそれなりに晴れやかな顔で見ていた。二人して服は戦闘中についた砂埃だらけ、身体もまあ程度の差こそあれど怪我をしている。丁寧に片腕を固定している三角巾が分かりやすい怪我の証左だ。
「いやあ、僕はすっっっっっごく感動しましたよ。列車がベロブルグについて、星さんや丹恒さんが急いで最前線まで駆けつけてくださったとき……僕を見て「サンポ!?」と情緒たっぷりに叫んでくださった星さんに!」
「ちょっ」
「驚き半分喜び半分、動揺しながらも安心していた貴女の珍しい姿がすでに褒賞のようなものですから。わざわざ言葉で褒めてくださらずとも結構ですよ、ええ」
「掘り返さないでよ!」
「恥ずかしがらなくともいいんですよ兄妹、今回のフィナーレを最前線から見られたことを光栄に思っていますから」
「ちが、恥ずかしがるとかそういう問題じゃなくて! やっぱり隠し事ばっかりだったじゃんって文句言ってるんだってば!」
「じゃあ腕相撲、やり直します? あいにく僕の利き腕は骨折中なので実力を発揮できるかは分かりませんが」
サンポが三角巾から覗く指先をぴくりと動かしてみせる。星はそれを呆れたように見た後で、自らの腕を固定している三角巾を見下ろした。サンポとは違い、星は利き腕ではなく反対の腕を怪我しているため腕相撲自体はできなくもない。ないのだが。今回のことが起こったあとでも、起こっていなかったとしても、どうせサンポは真面目に勝負してはくれないだろう。別に真っ向勝負で負けたとて拗ねたりはしないのに……しない筈だ。そこまで子供じゃない。少なくとも星はそう自認している。
「ふーんだ。どうせ理由つけて一生真剣な勝負してくれなさそうだから別にいい。というか私は本気だせば開拓パワーか星核パワーでこんな怪我すぐ治せるもんね」
「それを言うなら僕だって、やろうと思えば愚者パワーでどうにかできますよ」
「なんかサンポがそういう物言いすると極端に馬鹿っぽいね……」
「馬鹿っぽい言い回しを先にしたのはお姉さんでしょう!? 僕だけ!?」
「というか治せるっていうなら、今すぐ治して手加減なしの腕相撲してくれるっていうの?」
「……正直に言っていいですか?」
「うん」
「すこし疲れたので気力がないです」
「ほら結局しないんじゃん。この話は終わりね」
疲れた、と壁に背を預けた星は隣から送られてくる熱視線に気づかないふりをしながら手持ち無沙汰に端末を起動した。頭を使わなくて良いゲームの周回をぽちぽち進めながらベロブルグに駆け付けた時のことを思い返す。
そもそも星の知るサンポという男は、物言いがいつも胡散臭くて、常に商売だと言い張って詐欺を働いて、指名手配犯で、まあ言ってしまえば詐欺師だ。口に出せば隣から商人です! とお決まりのツッコミが入るだろう。とどのつまり、サンポという人間は善良か否かで測るのなら否になるはずだ。詐欺という犯罪を働く時点で善良な人間ではない。だが、良いやつでもある。
星はサンポのことをなんだかんだ好ましく思っているが、善良だと思ったことはない。話の分かるやつだと思うこともあれば、詐欺ばかりだと非難することもある。だからそんなサンポを戦場と化したベロブルグの最前線で見つけたとき、当然星は驚いた。驚いた上に雪で足を滑らせて隣にいた丹恒に呆れ顔をされたりもして、それでも。
そんな、いつも適当なことばかり言っている男が真剣にベロブルグのために戦っている姿が想像以上に嬉しかったことは。まあ、認めていいのかもしれない。だから今こうして星がぐるぐると考え込んでいる理由はまた少し別のところにある。
「お姉さん、難しく考える必要はありませんよ。仮面の愚者に合理性を求めたって仕方のないことですから!」
「私がいつサンポのこと考えてるって言った?」
「おや、僕は仮面の愚者としか言っていませんよ。僕のことを考えてくださっていたんですね」
「……あんたさあ」
思えばサンポという男はいつもこうだ。星のことを何でも見透かしているような口ぶりで振り回してくる。いつも顔を合わせるたび星の冒険譚を聞きたがって楽しそうに耳を傾けてくるし、話が長くなってしまっても聞き流すような真似は滅多にしなくて、けれど星のことを知りたがるくせに自分のことはちっとも教えてくれやしないのだ。それがなんとなく腹立たしい。
もちろん目に見える情報だけで推測できる答えはある。けれどそれが正答を導けていたとしても、サンポの口から正しい情報を開示してくれることは今のところ無さそうだ。明らかな正解を知っていても、それはサンポ本人から聞いたものではない。この微妙な感覚をどう説明すればいいのだろうか。星はもどかしいとか、ずるいとか、そういう感情をひっくるめた視線をサンポの顔に投げかけた。
「いつも顔はナシとか言ってるくせに、子供を瓦礫から庇って怪我しちゃってさ」
「そこは男前だと褒めてくれるところでしょう?」
「顔が整ってるのは否定しないけど私の方が美人だから」
「張り合ってませんって。というか、お姉さんが前に顔を怪我した時は名誉の負傷だと言っていたでしょう。僕も名誉の負傷ですよ」
「私は絶対綺麗に治るし。腕の怪我も、顔の怪我も、胴体に穴あいたって治るから笑ってられるけど……あんた含めてベロブルグの皆は違うじゃん」
人手が回らず、深めの傷口以外の擦り傷は自分で手当てするようにと申し訳なさそうに治療スタッフから渡されていた清潔なガーゼと消毒液。星は渋々背を起こして、よりにもよって利き腕を骨折したサンポのほうへ身体を寄せた。自分で手当てするなら良いかと思い指摘しなかったが、ここには鏡がないためサンポが自分で血を綺麗に拭くのは些か難しいだろう。
消毒液をガーゼに染みこませて、サンポの頬に手を伸ばした。いてて、と口ではわざとらしく痛がってみせるくせに視線は星をじっと見据えたままで、ひどくやりにくい。少しくらい顔をしかめて痛がる素振りを見せたっていいのに、と思わなくもなかった。
「さすが、開拓者様はお優しいことで」
「はいはい。私の優しさに感謝してよ、誰かさんと違ってお金とらないし」
「いっそ請求してくださっても良いですよ? 星さんはお得意様ですから」
「……請求ねえ」
傷ができてからそれなりに時間が経っているため、固まった血が中々落ちてくれない。星は拭き取った血で滲んだガーゼを見下ろしながら息を吐いた。
「じゃあ列車に遊びにきてよ、って言っても?」
お得意様だの救いの星だのと言って此方側には踏み込んでくるくせに、踏み込ませてはくれないから不機嫌だと分かってくれないのだろうか。サンポのことだから、分かった上でこんな言動をしているのだろう。だから腹立たしい。
「まあ、考えておきましょう」
「ほら見た。考えましょうってかっこつけちゃってさ、どうせ来ないくせにね」
「行かないとは一言も言っていないでしょうに……」
「もちろんって即答してくれたなら信じたかも」
そんなに長く伸ばしているわけではないが、傷口を爪で引っかけるかもしれないと思うと丁寧に薬を塗るのはすこし怖い。傷口さえ覆えていれば雑菌は入らないだろうと雑に厚く塗り広げて、あとで鏡が見れる時に自分で塗り直してほしいと腕を引っ込めようとすれば、サンポに手を引き留められた。きょとんと見つめ返せば、特に普段となんら変わりのない雰囲気を纏ったサンポが緩んでいた包帯を巻き直してくれる。片手しか使えないのに器用なものだなと思いつつ、他に話す事も無いからとぐちぐち文句を言い連ねる。
「そういう意味だと、あんたより花火のほうが可愛げあるよ。列車の訪問客登録簿にちゃんと載ってるし」
「あの人は何をしているんですか……別に行きたくないとは言っていませんよ。行く必要がないだけです」
「行く必要ってなに。いっつも友達友達うるさいのに」
「うるさい!?」
「列車って物理的に家って言っていいのかな? とにかく、家に遊びにも来てくれない薄情な友達はサンポくらいだね」
他の惑星の友達……まあ、広く見積もって知り合いだと言っていい人間は大半が列車に遊びに来てくれているのだ。捕まっている人間、そもそも忙しすぎる人間はさておき、大して忙しそうでもないサンポが遊びにさえ来ないことにはいまだに納得がいかない。せめて申し訳なさそうに忙しいと嘘をついてくれるのならまだしも、今回とうとう飛び出てきた本音が行く必要がないときた。怪我人でさえなければ腕か頬くらいはつねっていたかもしれない。
「薄情だなんてそんな。僕は誰よりも貴女に真摯であろうと努めていますよ、星さん」
「はいはい。これで努めてるっていうなら努力が足りないから」
「手厳しいことで。もっと特別になれと強請っているんですか?」
「他の友達みたいに気軽に列車へ遊びに来ればいいのにって言ってる」
「やれやれ。星さんは大概ひどい人ですよねえ」
ひどいとはなんだ。くるくると巻き直されている包帯から顔を上げれば、照明を背にしているせいで少し陰りのさしたサンポの顔が思ったよりも近くにある。息を呑んで微かに背を仰け反らせるも、腕の包帯を巻き直してもらっている以上、また座り込んでいる以上そう距離をとれるわけでもない。
「博愛精神に溢れた開拓者さまの気持ちは分かりますが、僕はひとくくりにされるのはごめんです。つまらないので」
「……?」
「会えない時も様々な形でふいに僕のことを連想して振り回されて、次会った時にそれをぐちぐちと報告してくる星さんを見るのが愉快なんですから。今のままの方がよっぽど特別じゃありませんか? それでも特別さが足りないと言うのなら、そうですね――」
包帯を留めなおしてパッと手を放したサンポが、にこりと笑みを貼り付けて呟いた。
「星さんが崇高な自己犠牲精神から大怪我をするたび、泣きたくなるくらい酷い怒り方でもしましょうか?」
浮かべている表情といい、つっけんどんな物言いといい。崇高な自己犠牲精神という言葉は文字にすれば後ろに(笑)がつきそうな皮肉だった。それに顔を顰める前に、後半の言葉に意識を割かれる。
「ひ、どい怒りかた」
「ええ。今回はたまたま僕が助けたとはいえ、あの場にいたら星さんも間違いなく子供を助けていたことでしょう。でも僕みたいに回避行動優先ではなく子供を庇うこと優先で、僕よりよっぽど酷い怪我をしていたことは想像がつきます」
「でも私は」
「私は治る、と続けるつもりならやめたほうがいいですよ。こんな公衆の面前で星さんを大泣きさせるのは忍びないので」
公衆の面前で大泣きするような怒り方……? と星が謎の悪寒を感じるのをよそに、サンポは呆れたように溜息を吐くばかり。緑の双眸には“どうせ言っても分からない”と分かりやすく書いてあったが、星はそれをつつけば痛い目を見ることになりそうな気がして口を横に引き結んだ。
「列車に遊びに行くかどうかは、お姉さんから熱烈なお誘いをいただけるのなら真面目に考えますから」
「……よく分からないけど。とにかく、怪我が治らないうちはいいよ。行くって言って一度も行かないのと、行くつもりがあって一度も行けないのは見え方が違うし」
ポケットの中で小刻みに振動して通知を知らせていた端末をこれ幸いと引き抜けば、予想通り星穹列車♡ファミリーのグループチャットで皆が話している。
サンポに聞きたいことや言いたいことがまだ残っているには残っているが、あまり深掘りし過ぎても却って自分が不利になりそうだった。知ってどうするのかと言われてしまえばそれまでだから。好奇心なんてそんなものだとは思うが、サンポの場合その好奇心さえどういう好奇心なのかを追及してきそうだという確信があった。容易に想像がつくあたり、面倒な男なのである。嫌いではないが。
「……列車のみんなから連絡来たから私は行くけど。次にベロブルグに来たらいなくなってる、とかはやめてよね」
「まったく、何を言い出すかと思えば」
鞄に端末を押し込んで振り返れば、星と違って診療所を出る必要のないサンポがわざわざ立ち上がって壁に肩を預けている。
「僕は星さんの冒険譚が大のお気に入りですから。それを見届けてもいないのに、貴女の前から消えたりはしませんよ」
「あっそ……サンポ」
「はい」
「ベロブルグのために戦ってるの見て、まあその、やるじゃん、とは……思った」
言い辛そうに視線を右往左往させて口をもごつかせていた星が、ぼそりと呟いた。
「は」
「また今度ねっ」
散々サンポに揶揄われたため、いまさら真面目に褒めるようなことを言えばまた揶揄われると思ったのだろう。言い終わるなりサンポの返答を待たずに外へ駆け出していった星の姿をぽかんと見つめたあと、サンポはくつくつと喉を鳴らして愉快そうに笑った。