オートクチュールの海辺にて「そう、マスター、そういうことなのね」
心が壊れてしまったのだと、理解するのには数秒とかからず。被っていた帽子を手に取って掻き抱いた。
美しい夕陽を眼前に臨む。夜の帳がもうすぐ訪れようとしている。
「力を貸したいと願ったあなたが、望むのなら」
愛し子の結末には手を出せなかったけれど、今目の前で泣くマスターの手は取れる。その額にベーゼを一度。ぽろぽろ溢れていた涙が止まって、その潤んだ目がマリーを見据えた。
「わたしには、慰めの言葉はきっと言えないわ。けれど、他でもないマスターが望むなら、わたしは」
だって彼女は、まだ生きている。既に終わってしまった息子とは違って、確かにここに存在する人。
「世界を見捨てたあなたを誰が罵っても、わたしだけは、」
807