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    case669

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    多分元セフレ止まりなレオジャミ。つづかない。

    ##レオジャミ

    国内のマジカルシフトリーグが今日から開幕するという記事を見つけたのは、アパルトメントの共有スペースで朝のニュースチェックをしている時だった。スポーツ専門サイトでも無い、どちらかといえば政治や経済等を扱うニュースサイトでもマジフトリーグ開幕はトップニュースになるらしい。
    この国に来て今日で二週間。目星をつけていた観光名所はおおよそまわり、後はのんびりとこの国の空気を楽しみながら次の目的地を探すかという頃合いに見つけた情報は少なからずジャミルの興味を引いた。
    マジフトの経験はある。だがプロの試合の観戦経験はない。正確に言えば映像で鑑賞した事はあるが、現地で生の熱狂を浴びた事は無い。
    これがこの国に来てすぐであれば、どこの国でも見られる競技の試合なぞわざわざ見に行こうとは思わなかっただろうに、今このタイミングで知った事も何かの縁のようなものを感じた。
    そうと決まれば早速ネットでチケットを予約する。席は当然一番最安値の物を選んだ。バックパッカーには特別好きな競技でも無い試合のチケットを優雅にVIP席で見るような余裕は無い。クレジット決済を無事に終え、再び表示されたチケット販売ページには本日分完売と書かれていた。ジャミルがチケットを買うまで待っていたかのようなタイミングで思わず笑う。まるで呼ばれているみたいだ。

    遺跡や観光地を回る時ならば服装は動きやすさと過ごしやすさを重視ししてTシャツとジーンズのみで過ごすことが多いが、向こうからお呼ばれしているのなら多少めかしこんで行ってやろうと自室に戻って服を選ぶ。
    こういう時に魔法が使えて良かったとしみじみ思う。クローゼット三つ分程の服や、普段使っている生活用品、時には家具家電だって小さなショルダーバッグ一つで出し入れが出来る。
    めかしこむと言っても高級ホテルでのお食事会でも無いのだから、精々ジャケットを羽織るくらいで良いだろう。インナーはTシャツで、ボトムは七分丈にして足首を見せる。靴はブランド物の限定スニーカーにするか、それともシンプルに革靴にするか散々悩んだ末に、旅の間は滅多に履くことのないカジュアルな革靴を選んだ。
    あとはかつての面影も無い程に短くなった髪を久しぶりにワックスで簡単に形を作り、旅に出る前にこれだけはカリムからプレゼントとして贈られたものを素直に受け取りありがたく愛用させてもらっている腕時計をつけ、目付きの悪さを緩和させる為にセルフレームの伊達眼鏡をかければ完成。姿見で全身を見ればこの国の男性像としてありがちな「軟派な男」のように見えるジャミルがいた。親兄弟でも、この姿のジャミルを見ても一瞬誰だかわからないだろう。そのくらいめかしこんだ非日常感が、気分を盛り上げる。

    試合開始は昼を過ぎた頃。
    初めて足を踏み入れるスタジアムの人の多さに辟易しながらも、少し浮かれた足取りで周りに倣ってアルコール飲料とつまみになりそうなジャンクフードを買って席へと座る。フィールドを取り囲む席の中で一番外周であり、一番高い場所に位置する席から見下ろす風景は画面越しに見る試合風景とはまた違う。恐らくはチームカラーなのであろうお揃いのユニフォームを着た集団が綺麗に二手に分かれて席を埋めていることに気付いて初めてホームとアウェーで座る場所が違う事を知り、それぞれのチームの応援団のような集団が楽器を持ち込んで応援していることも今まで知らなかった。どれもこれも目新しい物ばかりで、下手な観光地よりもよっぽど面白い何かがここにはある。そのうち試合が始まったが、観戦よりも試合の内容に一喜一憂する客席の方が気になってつい見入ってしまう。
    「……に変わりましてキングスカラー!」
    何か聞き捨てならないアナウンスが流れたような気がして試合風景へと視線を戻すよりも先に、急に大歓声で沸き上がる客席に目を瞠る。中には立ち上がり拳を振り上げてまで声援を送る者まで居て、何がそんなに沸き立たせるのかとたった今交代して入って来たのであろう、豆粒ほどの大きさにしか見えない選手を見る。どれだけ目を細めたとしても背番号が辛うじて認識出来るくらいで顔の区別などつかない。が、その奥の巨大スクリーンに不意に映し出された選手の顔に今度こそジャミルはぽかんと口を開けて呆けることしか出来なくなってしまった。
    そこには不敵な顔で笑うレオナ・キングスカラーが映し出されていた。


    かつて、この男と真正面からマジフトでぶつかった事がある。
    彼のせいでジャミルは怪我を背負っての試合だったが、レオナは自業自得とも言える理由でもっとボロボロだった。
    それでもあの時に感じた高揚感を覚えている。
    集中力が高まり全力以上のパフォーマンスが出来る時とは違う、ただがむしゃらに食らいつき獣のように欲を丸出しにして相手をぶちのめしてやろうという野蛮な感情。
    レオナもそれをなりふり構わずに泥臭く力尽くで叩きのめして追い払っては歯を剥き出しにして獰猛に笑っていた。


    あの時の熱量を感じさせないスマートな試合運びは流石プロという事なのだろう。
    盛り上がりを見せる試合も、それにつられて最高潮に達した客席の熱狂も、つい先ほどまでならジャミルも喜んで飲み込まれて一部と化していただろうに、なんだか透明な壁越しの向こうの出来事のようだった。どちらに集中する事も出来なくて、ただ豆粒にしか見えないレオナであろう背中をぼんやりと目で追い、たまにスクリーンに顔面が映し出されては驚いて咽るの繰り返し。相手が知り合いだと思うとつい目があったように思えてしまうのだから心臓に悪い。
    レオナに思う所は、色々ある。
    だがレオナが卒業してから、レオナと最後に別れてから随分経っている。
    そろそろ綺麗な思い出として心に飾ってやってもいいのかもしれない。

    そんな穏やかに懐かしむ気持ちで気付けば試合は終わり、選手がフィールドから去れば客もぞろぞろと群れを成して帰るのみ。ずっと座っていたせいか固まった身体を解す為に大きく伸びをしながらジャミルも立ち上がれ、その群れに混ざろうとする最中に尻ポケットで震えたスマホに気付いて確認する。

    発信者、レオナ・キングスカラー。メッセージはスタジアム近くのこの辺りでは有名なホテルの名前と部屋番号、それから18時という時間指定のみ。
    思い出の男が、卒業後に一切連絡を取る事すらしたことのなかった男が、生々しくジャミルの心臓を掴む気配がした。
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    case669

    MEMO脱、兄レオしようと何かが足掻いてるメモらしい「あの人を止めない私の事、恨んでいるかしら」
    「それを言うならば俺の方だろう。憎く無いのか」
    「私はね、レオナ。貴方をどうやったらあの人の傍に生かさず殺さず留めて置けるか考えているような女よ」
    「は、何の為に」
    「あの人と、国の為に。ひいては私とチェカを守る為に。それ以外の理由があるかしら」
    「さすがはアイツを尻に敷いてる方だ。我が国は安泰だな」
    「貴方があの人の傍にいてくれるうちはね」
    「……」
    「……」
    「貴女は、あれの、何処に惚れて結婚したんだ」
    「……私、可愛い男の人が好きなの」
    「あれが……?」
    「男の人にはわからないかしら。素直で、一途で、いつも笑っていて。可愛いでしょう」
    「間抜けで思い込みが激しくて能天気なだけだろう」
    「そこが可愛いのよ」
    「はあ……」
    「貴方も、素直で、一途で、いつも笑ってはいないけれど……可愛いと思ってるわよ」
    「馬鹿にしてんのか」
    「愛しているのよ、家族として」
    「それはどうも」
    「だからね。……だから、もしも、本気で逃げ出したいと思ったのなら、私に相談して」
    「は?」
    「悪いようにはしないわ。……というよりも、私に心構えが欲しいだけね。きっと大 715