空港で見送りするレグリの小話「──航空110便、ガラル行きをご利用のお客様は──」
ロビーを行き交う人々の喧騒の中に、アナウンスが混じる。レッドは電光掲示板を一瞥したあと、帽子を被り直した。
「そろそろ、行かなきゃ」
「……ん」
遠い地方へ旅に出る直前のレッドは、いつも期待に満ちた目をしていた。マサラタウンから初めての冒険へ旅立ったあの日の面影を残したまま、レッドはいつもグリーンの手の中からすり抜けていってしまう。見送る側の立場にはもう慣れたつもりだったグリーンも、この時ばかりは心に穴が空いたような気持ちになる。
「着いたら連絡寄越せよ」
「うん、覚えてたらメールする」
「覚えてたら、ねぇ」
グリーンは苦笑しながら返した。レッドの『覚えてたら』は信用ならない。きっとまた自分が寂しさを忘れた頃に飾りっ気のない封筒に入った手紙が届くのだろう、と数週間後の未来に思いを馳せた。
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