「は…………、」
──から続く「じゅん」の音はごくり、と喉の奥に飲み込んだ。
俺が風呂から上がるのをリビングのソファで待ってくれていた夏準の首がかくり、と揺れるのが目に入ったからだ。ちらり、と時計に目を向ける。普段であればとっくのとうに夏準は寝ている時間だ。
夏準がリビングで船を漕いでいるのはかなり珍しいのだけれど、それほど眠たかったのだろう。遅くまで俺の用事に付き合わせてしまったことに申し訳なさを覚えるが、夏準はそのことに関して俺に謝罪を求めていないということは分かっているのでぐ、と押し止める。
気持ちよさそうに寝ているとはいえ、ここで一晩過ごしたら身体を痛めてしまうだろう。俺が夏準をベッドまで運ぶというのがベストの選択肢だと思うものの、残念ながら俺には意識がない状態の夏準をベッドまで運べるほどの筋力がなかった。
すうすうと小さく寝息をたてる夏準は本当にとても気持ちよさそうなので、睡眠を邪魔するのは気が引ける。どうしよう、と考えたもののすぐには答えがでなかったので、ぽたぽたと髪から垂れ落ちていた水滴を急いで拭ってから夏準の隣に腰掛けた。夏準が俺にもたれかかれるように肩に手を回してそっと力をかける。
適度な重みと一緒に、自分とは違う、けれどよく知っている心地のよい体温が伝わってきた。布越しに触れ合っているのにな、と思うとすこしこそばゆい気持ちになる。夏準も、俺と同じような気持ちになることがあるのだろうか。
夏準の身体を揺らしてしまわないように気を配りながら、夏準の寝顔をそっと盗み見る。夏準が起きる気配はまだない。
きゅっと閉じられている、形のいいくちびるをじっと見やった。これ、触れたら起こしちゃうかな。起きるよな。……なんて考えて、俺よりも夏準のほうが眠り姫を起こす王子様にぴったりだよな、と、思わず脳裏に浮かんだ王子様ルックの夏準にうんうんと頷いてしまった。
「…………、」
「あ、悪い。起こしたか?」
「、アレン……?」
「うん。おはよう」
「……、ボク、寝ていましたか。すみません」
「いやいや、どっちかというと謝るのは俺のほうだろ。気持ちよさそうに寝てたから、起こすのはな……と思ってさ」
起こしちゃったけど……と紡ぐと「キスでもされたのかと思いました」と言われて、思わず「え、起きてた?」とこぼしてしまった。
「もしかして、するところでした?」
「う…………、いや」
「おはようのキス、今からでもどうぞ」
「もう寝るだろ……」
「寝るんですか?」
「…………、もうちょっと起きてる」
「ふふ、はい」
ボクの部屋に移動しましょうか、と先に立ち上がった夏準に差し出された手を数秒見つめてから、うまい返しもときめくような言葉も思い浮かばなくて「うん」とだけ呟いて、その手を取った。今日はまだ、終わらない。
おわり