「アレン。どうしたんですか、それ」
部屋から出てきてリビングへとやってきた夏準に言われ、パソコンから目を離して「それ?」と聞き返す。
「頭のですよ」
「ああ、これか。こないだファンの人に貰った」
「なんでそんなものをつけているんですか?」
「あー、最近髪が伸びてきて邪魔でさあ。家にいるときにいちいちセットするのも面倒くさいし、ちょうどいいやって」
ずいぶんと長い時間にらめっこをしていたノートパソコンのディスプレイから視線を外して伸びをする。……あ、背中すごい音鳴ったな。
夏準が気になっているらしい「それ」は、俺が前髪を留めるのに使っているヘアクリップのことらしい。ファンシーな猫のキャラクターの顔がくっついているそれは、女子が好みそうなヘアクリップだ。
「いつもは別のものを使っていませんでした?」
「ちょうど壊れたんだよ。それで、そういえば貰ったプレゼントの中にあったなーって思い出したから使ってみてる」
「へえ。認証ショット、上げないんですか?ボクが撮ってあげましょうか」
「いいよ、恥ずかしいし」
「かわいいですよ?」
「からかい百パーセントの声で言うなよ……」
はは、と笑いながらキッチンへと向かった夏準を視線だけで追う。そうか、もうそんな時間か。時間の経過を自覚したからか、なんだか急にお腹が空いてきた気がする。
「……お腹空いたな」
「それ、ボクの顔を見たからとか言わないですよね?」
「パブロフの犬みたいな?」
「ええ。まあ、別にいいですけど」
「いいのか……?」
今日の作業はここで終了するとして、何故だか上機嫌で料理を始めた夏準を特等席で眺めることに決める。
「なあ、今日は何作ってくれるんだ?」
「そう聞かれると、できるまでのお楽しみにしておきたくなりますね」
「素直じゃない……」
「なにか言いました?」
「言ってない」
「素直じゃないのはボクよりもアレンでしょう」
「いや、夏準のほうが素直じゃないだろ」
「似た者同士というやつですかねえ」