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    tomoon_cr

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    リクエスト頂いた、12月発行のLiving Rightly(科学捜査官スザク×検視官ルルーシュ)の後日談です。
    ただつらつらと、幸せに酔っているようなルルーシュ視点のお話です。
    後日談なので、本を読んでいないとわからない部分があるかも知れません。

    リクエスト 皓い背中に縦横無尽に走る傷は、癒えても禍根を残すように、肌とは別の白い筋となって跡になっている。
     その上からスザクの執着を示すように上書きされたキスマークや噛み跡は、ルルーシュをおおいに満たした。あれほど忌々しかった傷跡が、今はなんと心に鮮やかなことか。
     けれど情事の最中、背中ばかり慈しまれてスザクの顔が見れない体勢になるのは少しばかり虚しい。自分からこの傷をだしにしておきながら、なんてわがままなのだろうかと苦笑が漏れる。
     シャワールームで鏡を見ながら訥々と考えていたルルーシュは、そこまで考えてふうと息を吐いた。湯を吐き出すシャワーを頭から浴びる。事後はスザクがある程度清めてくれるとはいえ、汗ばんだ体を流すのは気持ちがいい。
     ボディブラシを泡立てて体を洗い始めた時、シャワールームの扉が開いた。起き抜けの顔をしたスザクがのそりと湯気の中に入り込んでくる。
    「おはよう、スザク」
    「おはよ、ルルーシュ。僕もシャワー浴びさせて……」
     まだラボに復帰していないルルーシュと違い、今日も仕事に赴かねばならないスザクは、ゆっくり眠ってもいられない。元より事件があれば二十四時間呼び出しがある仕事だ。夜中に起こされなかっただけ運が良い。
     ルルーシュは体の泡を流すとバスタブの湯の中に身を沈め、目を覚ますように冷水で顔を乱暴に洗っているスザクを見上げた。着痩せする逞しい背中に、赤い筋が走っている。
    「……痛くないか、それ」
     それ、と背中を指してやれば、スザクは「ああ」と小さく頷いた。肩越しに手を伸ばして、ルルーシュのものより節くれ立った指で赤い筋をなぞる。
    「可愛いものだよ、このくらい」
     ―――君の痛みに比べれば。
     口にされなかった言葉が、もう幻以外では痛まないはずの背中を熱くさせた。スザクの背に傷が残ることを、ルルーシュは良しとしない。仕事柄爪先には気を付けている。けれどラボから離れ、スザクに甘えて快楽に溺れては、まっさらな筈の背に筋を残す。ルルーシュだけに赦されたキャンバスだ。
     ややして、体を洗い終えたスザクがバスタブに入ろうとしたので、ルルーシュは縮こまってスペースをあける。スザクが身を沈め、ざぶんと湯が縁から溢れた。
     湯船に浸かる習慣のないブリタニアのバスタブは、男ふたりが入るには狭い。
    「今さらだけど」
    「うん?」
    「死臭のしない君って、変な感じ」
     散々抱き尽くしておいて何を云うのか、とルルーシュはぽかんとなった。しばらく仕事から離れているから、やっと染み付いた匂いが消えたとでも云うのだろうか。毎日体は清めていたつもりでも、死体と1日の大半を過ごすルルーシュには、自分の匂いがもうわからない。
    「またすぐ死臭が染み付くさ」
    「仕事、戻るの?」
    「ああ。何もしていないのは性に合わないし」
    「君と仕事ができるのは嬉しいけど、複雑……」
     あの事件があったから、周囲もルルーシュを見る目がどうしても変わる。それは仕方のないことだ。
    「もう傷つかないように閉じ込めておきたい……」
     絞り出すようなスザクの声。母親に閉じ込められるのは嫌だったが、スザクになら囲われてもいいなと、揺らぐ気持ちもある。だが、それは甘えだとルルーシュは思う。今度こそ鎖はなくなったのだから、ルルーシュの人生が歩めるのに。
    「死臭も悪くないだろう。人が最期まで憶えているのは嗅覚らしいぞ」
    「そうなんだ。……最期に思い出すのが、君に纏わりついた他人の死臭なのは嫌だな」
    「それもそうか」
     水音をたててぐっと距離が縮まり、柔らかい口付けが降ってくる。唇を啄むそれに、どれほど興じていただろうか。バスタブの湯が冷めてきていた。
     扉の向こうから、スザクの携帯がメッセージを受信したことを告げる音がして、ようやく体を離す。
    「あーあ、仕事だ」
     不満気にスザクが云って、勢いよく湯船から立ちがあったので、派手に湯が溢れる。そのままぺたぺたとバスルームから出ていく。
     ルルーシュは冷めてしまったバスタブの中で、ぼんやりと体を拭いて着替えようとするスザクを目で追っていく。いつまでも見ていたかったが、寒くなってきたので湯船から出て、熱いシャワーでさっと体を流し、タオルで体を拭き始めた。スザクはとうに服を着て、濡れた髪を乾かしながら歯を磨いている。
     タオルを纏っただけの裸体のまま、ルルーシュはスザクの背に抱きついた。一瞬だけ逞しい背中がぴくりとした。
    「早く帰ってこいよ」
    「うん。君を待たせないように頑張るよ」
     事件が終わっても、スザクはルルーシュの部屋に通い続けている。自宅に戻るのは着替えを取りに行くときくらいになったこの生活に、すっかり慣れてしまった。
    「早く帰れたら一緒に住む部屋を探そうよ」
     見透かしたかのような優しい言葉に、ルルーシュは心の底から安堵して、目を閉じる。スザクが自分のものであると信じられる時間が、続けばいいのにと思った。
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