最終回ありがとう!おかえりヒーロー!!デスドライヴズとの戦いが終わったあと、スミスが帰ってきた。もう、戻ってこないと思っていた俺たちのヒーローが俺たちの元に帰ってきた。そう、帰ってきた、のだが。
「ガガピ」
俺の傍を離れない小さい少女は、何時ぞやの、まだ話せなかった頃のルルを思い出させるような言葉遣いで何かを訴えている。いや何を訴えているかは分かる。呼んでいるのだ、俺を。
俺が困惑したように少女に目を向ければ、少女は憧れのヒーローにあったように目を輝かせては「がぴ!」と甲高い超音波のような声を上げ俺の手をぎゅぅっと握り、小さくぴょんぴょんと跳ねていた。
「……教えてくれスミス、どうすればいいんだ俺は」
天を仰ぎながらぽつりと呟く俺の問いに答えてくれるヒーローは誰もいなかった。
✩.*˚
「勇気とは時に奇跡さえ凌駕するものなのだな」
帰ってきたスミスをルルと2人で称えている中、その後ろに立っている男がそう言った。初めは全く誰か分からなかったが、その古風な喋り方と声音は聞き覚えしか無かった。イーラに倒されたはずのデスドライヴズの声だ。
「スペルビア?!!」
「おじ様!!!!」
スミスから離れたルルが勢いよく男、スペルビアに飛びつこうとして、ルルはただ一点を凝視しながら立ち止まった。あわわ、と口を戦慄かせ、スペルビアに指を指す。俺もスミスも、同じようにルルが指さした一点を見つめて、目を丸くした。ルルの指さした先、スペルビアの片腕の中に、『それ』はいた。スペルビアの腕の中でどこかぐったりとしている『それ』はこちらを見ることも無く目を閉じたままだった。
「ガガピー!?!ガガ!!ピーーー!!!?」
「ガピ?!ガガガガ、ガピ!ガガピピ!!」
「がぴーー!!!」
ルルの悲鳴と慌てるスペルビアの聞き慣れない言語に顔を顰めていれば、俺の横にいたスミスは目をまん丸にしながらルルと同じように口を戦慄かせている。スミス?と声をかければスミスは目をウロウロさせながら俺を見て、同じように『それ』に指を差した。
「…あれ、ブレイバーン、らしい」
「……はぁ?!?!」
指を差された『それ』は、ブレイバーンだと言われた『それ』は、どう見てもルルより幼い少女の見た目をしていた。
✩.*˚
勇気は時に奇跡さえ凌駕する。
スペルビアが言った言葉を俺は未だ呑み込めずにいた。だってそうだろう、ブレイバーンはスミスで、スミスはブレイバーンだった。あの戦いの後、デスドライヴズのクーヌスと合体しブレイバーンとなったスミスが過去に飛び、俺たちを助けるヒーローになって現れた。そのスミスが全て終わったあとに人となって戻ってきたのに、なぜ、何故ブレイバーンまで戻ってきたのか。スペルビアもデスドライヴズとして消えたはずなのに、なぜ人間になって戻ってきたのか。突っ込みたいことや言いたいことは大量にある。なのだが。
「ガガピ、ガガピ」
俺を呼ぶ小さなヒーローが、かつて大きかったはずの小さな手が俺の手をぎゅぅっと握る。握ってない方の手で小さな頭を撫でてやれば、黄緑色の瞳を細めにこりと笑う小さなヒーロー。姿形はスミスの面影を残しながらも、スミスとはまた違う少女。お前は誰なんだと問うてもヒーローだった少女は言葉を発しない。スペルビア曰く言葉を話す器官が発達していないらしい。精密検査もした所、かつてのルルと同様腹の中は完全に赤子そのもので食事もろくに取れないようだった。『カレーは食べさせちゃダメだからな!?』と俺に言っていたスミスの隣でヒビキとミユがうんうんと頷いていたのを思い出す。多分あれは食わせたことがあるし、食わせたあとこっぴどく叱られたのだろう。俺はそんなヘマをしないぞと小さなヒーローに言えば、ヒーローはきょとりとした顔でこてりと首を傾げていた。閑話休題
兎に角、ブレイバーンはスミスだった。じゃあここにいる少女は何者なのだろうか。お前はスミスなのか、それとも、俺とずっと居たブレイバーンなのか。何も分からない。大体奇跡を凌駕するだけで片付けていい問題なのか。世界の復興が進む中、得体の知れないこいつは一体何者なのか。
「ガガピ」
イサミ、と聞きなれない声が俺を呼んでいる気がする。手を握り、笑顔を見せ、少女はどこかを指さした。その方向を見れば手を振る俺たちのヒーロー、スミスと、ルル、スペルビアがこちらを見ていた。
「ががが、ぴー!」
みんなが待ってる、そんなことを言ってる気がして、小さくなってしまった俺のヒーローを抱き上げながら俺たちは歩き出す。こいつが何者だとか、こいつが何なのかとか、今はどうだっていい。今はただ、勇気を爆発させて掴みきった平和を、共に謳歌したいのだ。
おまけ
「ブレイバーン!好き嫌いすんな!」
「がぴっ!ぴー!!」
「ブレイバーン!食べなきゃなれない!大きく!」
「ピ、ピーー!」
「Heyスペルビア、2人は彼女に何を食べさせようとしてるんだ?」
「ピーマンだ」
「えっ」
「ピーマンだ。何故か一向にピーマンだけには手をつけなくてな…スミス、お主からも」
「………」
「スミス、お主まさか」
「ぴ、ぴーまんたべなくても、おおきくなれるぜ!」
「イサミ、ルル。もう1人追加だ」
「Noー!!!!!」
✩.*˚✩.*˚
ルイス・スミスとは別の個体になった、のだと思う。スペルビアの腕に抱かれながら、そんなことを思った。
私という存在消え、ルイス・スミスという存在が帰ってきた。それなのに、私はなぜここにいるのだろう。ヒーローじゃない私の存在意義はあるのだろうか。
「勇気とは時に奇跡さえも凌駕する」
何を言ってるんだと顔を上げようとして、私は体が思ったよりも重いことに気づいた。頭もだるく、スペルビアに持たれていないと今すぐにでも倒れてしまいそうだった。
「ブレイバーン、お主の勇気を受け継いだ者達の勇気が、お主をここに呼び止めたのだ。そして、我も」
音がする。耳からゆっくり聞こえる音は、確実に、人として体が生きている証だった。
「……共に生きよ。繋げられた命を、勇気を見せよ」
ヒーローはまだ、お主を求めているのだから。
スペルビアの言葉がよく分からないけれども、強い体も、強い翼も、空も飛べない海にも潜れない私を求めてくれてるのだろうか。遠くで聴こえる歓喜の声を子守唄に、私はゆっくりと思考を水の中に落として行く。次に目覚めた時、私は彼らのヒーローのままでいられますように。