令尹近衛の甘い秘技 変わらぬ日常の中で、今日も積み重なる公文書に向き合い、今汐と散華は執務室の中2人で椅子をしばらく温めていた。
「はぁ……」
今汐の口から小さなため息が自然と漏れ出すと、隣に散華がいたことを思い出して口元を押さえた。
「ごめんなさい、つい、ため息なんて」
「いえ」
誤魔化すように笑ったのは、散華が日頃から今汐の過労を憂いていると知っていたから――当の散華は、今汐の行動に対して口々に咎めたりはしない。が、やはり誰よりも今汐の心身の疲れを気にしていた。
今日の政務に取り組んでいる間、今汐は昼食、夕食の時間もあまりとっておらず、休憩らしい時間を過ごしていない。連日の政務で疲れが溜まっているのもあるのだろう。自然と出たため息も仕方のないことだと、散華も捉えていた。
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