落ちないリンゴ 放課のチャイムが鳴った。ざわざわとする教室の中、教卓の担任が
「今月中に提出だからな! 忘れないように!」
と声を張り上げた。私は前の席から回ってきたプリントを一枚取り、後ろの席に回した。
『第一回進路希望調査表』と書かれたその紙を、私はぼんやりと見つめた。
帰り道、エントランスホールの膨大な蔵書を眺める。そのページすべてに文字や絵がひしめいている様を想像するが、上手くいかない。手に取らないうちは全て張りぼてで、私が手に取った瞬間にページに文字が浮かび上がり、彼らは本のふりをする、そんな気がする。
出口へ向かう。もやもやとした大理石の床が視界の上から下へ流れていくのを見るともなく見ていると、床の色が鮮やかなオレンジとくすんだ青緑のタイルに切り替わった。立ち止まり、吹き抜けの天井を見上げると、数羽のヤヤコマが飛び交うのが見えたが、まるで天井画のように平面的で、遠い。
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